イベントレポート『SHOW ME YOUR MIND』@池上C4R
2025年1月25日(土)、池上Channel 4 Rentにて開催された、『SHOW ME YOUR MIND』に参加してきました。画期的なイベントで、どのような内容かと言いますと、こんな内容。
このような内容。演者が手の内を晒し、演奏中にも質問出来るという、今までありそうでなかったようなライブでありワークショップでもあるイベント。
演者の皆さんも手だれ揃いで、イベントアナウンスを発見した時は即予約しました。学びの多いイベントでしたので、レポートを残そうと思います。
記憶の限りそれぞれの方の演奏や機材の説明についての書きますが、記憶違い等あったらご容赦ください。ちなみに、話に夢中になり過ぎて一切写真を撮ってなかったので文字情報のみです。Xで#showmeyourmindのタグで色んな人のポストが見られると思うので、絵面は探してみてください。
Karchさん
お一人目はKarchさん。モジュラーシンセ界隈では知らぬ者なし、ヘビィなビートを即興で鳴らしフロアを湧かせる漢。
Karchさんの演奏は何度も観たことあったものの、機材構成等を細かく聞いたことがなかったので楽しみにしてました。
本日の機材構成は、TiptopのMantis (モジュラーシンセ)+ IntelligelのCascadia(セミモジュラーシンセ)に、Boss RE-202(テープエコー)を加えたセット。全体のボイス数は、ドラムボイスモジュール、とベース担当のオシレーター、Cascadiaの全部で4つとのこと。
それらの音にマトリックスミキサーでリバーブやRE-202、グラニュラーなどのエフェクトをかけるのがオーディオルーティングの基本となります。
全体のシーケンスはMutable InstrumentsのMarblesを主体に、ランダムボルテージやランダムトリガーを駆使しつつコントロールされていました。
Karchさん曰く、「これが使いたいがためにモジュラーを始めた」とまで言わしめるモジュールとのことです。
モジュラーシンセは何を使っているか以上にどう使っているかが大事なわけですが、ランダム系モジュールが全部で3種類組み込まれたセットながらそのランダム具合の密度の変化、何をランダムに操作するか、といった部分が非常に考え抜かれており、硬質でヘビィな「Karch節」の一旦に触れることが出来てとても勉強になりました。
ランダムトリガー、ランダムボルテージを主体にした演奏は自分自身もよくやる手法なのですが、ランダム具合や密度のコントロールによって抑揚をつけていくのはモジュラーシンセならではの手法だと思います。打ち込みや決め打ちのフレーズはなく、出来事の発生の密度、頻度をコントロールすることで演奏とするKarchさんの演奏はTHE モジュラーシンセでした。
WATASINOさん
二番手はWATASINOさん。演奏を拝見するのは初めてでしたが、アンビエント+ビートをSP404 mk2を主軸にしたセットで鳴らされていて非常に雰囲気のあるローファイビートとなっていて気持ち良かった。
SP404 mk2のLRにビートと上物を割り振ったモノラル2トラックを、ギターマルチエフェクターのGT-1000 COREの内部ルーティング機能を使ってChase BlissのMOOD(mk1)やHabit、RE-201(実機テープエコー!!)にセンドし、ZOOMのL6にまとめて出力する機材構成。
ギターエフェクターが多いなと思ったらギターも弾かれるようで、私もギタリスト(今もそうなのかは分からないけど)なのですごく納得。
WATASINOさんの素晴らしいところは、演奏の方向性的にはSP404 mk2だけで完結してしまいかねないところを、エフェクターによるテクスチャーやダブ的要素を増やすことでより演奏性を高めているところだと思います。
サンプリングについても色々質問させていただきましたが、ビートと上物のループは非同期とのことで、適度にズレた曖昧さがまさにアンビエントとビートの両立した音像。
同じサンプラーでもx0x系グルーブボックスと違い、SP404はパッド毎に設定されたサンプルが設定された長さでループするので、機材の特徴を活かしたビートメイクだな思いました。SP404、持ってたけどしっかり挫折した人間なので尊敬します。
ループの作り方も、例えばピアノ等のフレーズをあえてアタック以外の部分を使ったりと電子音楽的な操作をされており、ミニマルな素材から豊かなバリエーションを作り出す手法の数々に大変刺激を受けました。
SAKAIさん
三番手はSAKAIさん。ご自身でもnoteで機材の詳細な解説を書かれているため基本的なシステム構成についてはすでに知っていました。
それでもまだまだどうやってるんだろう、と思うポイントがたくさんあったので色々聞くチャンスだとこれまた楽しみでした。
ライブ用セットの音源は、ドラムボイスセミモジュラーのDFAMと、ハイスペックサンプラーモジュールのASSIMIL8OR。
サンプラーにはBuchla Easel CommandやMake Noise DPOその他を使って作った素材を入れて、Tiptop Audio Trigger Riot等のトリガーシーケンサーを駆使してDFAMと一体となった硬質なビートを奏でる演奏。
詳細は是非SAKAIさんご自身の解説を読んでもらうとして、個人的に面白かったのが、Karchさんとの違いについて。
Karchさんはシーケンスパターン自体をMarblesのランダムトリガーにある程度委ねてその密度をコントロールする、さながら暴れ馬を乗りこなすかっこよさを感じる演奏だと思う。
一方SAKAIさんは、Trigger Riotのプリセット機能でビートパターンは事前に準備していて、例えばDFAMのキックとDPOで作成したキックがTwiigsによりランダムに打ち分けられている。
ビートの構造はしっかり構築されたもので、その代わり音色やエフェクトのかかり具合をランダマイズすることで、展開や抑揚を付けている。理想とするビートを実現するためのマシーンとしてのモジュラー。
同じようで実は結構違う、素敵なアブストラクトなビートを奏でるお二人それぞれの個性がどう表れているのかの一端を知ることが出来て非常に楽しかったです。
YEBISU303さん
自分ごときが語るのも畏れ多い、大ベテランYEBISUさん。DJの凄まじい経験値が反映された、マシンライブとDJプレイの融合した圧巻のプレイでした。
本日の機材構成はPCとPush3、Launch Control XLと小セットのモジュラーに、DJミキサー、そしてDirtywave M8 Tracker。
Ableton Liveで作ったトラックを、Push3からオーディオとしてDJミキサーに出力。ADATからExpert SleepersのES-8経由でシーケンス情報をモジュラーに送り、モジュラーの音をまたAbletonに返して加工を施しこれもDJミキサーに出力。更に別チャンネルにM8。
曲展開はDJミキサーで、トラック毎の細かいパラメーターはLaunch Controlで行うことによって、細かな調整と大胆な展開を緻密にコントロール出来る高度なセットアップで、機材全体に造詣の深いYEBISUさんならではの構成でした。
あまりにシームレスに音が入れ替わるからいつ変えたのかもはや分からない、DJ機材ならではのキレのあるフィルターを活かした繋ぎのテクニックに、会場は非常に湧いていました。
ADATを使用した機材構成には以前から関心があって、Push3いいなと密かに思いつつ、クラブミュージックに疎い上にDAWが絡むと途端にポンコツになる自分を思い出し、羨望の眼差しをひたすら向ける状態でした。こりゃ出来ん、しかしめちゃくちゃカッコいい!と楽しく解説と音に触れさせていただきました。
SHITARABAさん
トリを飾るはBuchlaと言えばこの方、したらば大先輩。
今日は本当に珍しいゼロパッチスタートで演奏を作っていく流れの説明を聴くことが出来て、自分自身Buchla道に入り込みつつある身として大変勉強になりました。
機材についてはちょこちょこ伺っていたので全体的に把握はしていた。208C、212 Dodeca Module、248 Marf、281 Quad Function Generator、NLM Model 2TTs、258 Dual Oscillator、277 Signal Delay Unitの全部で7モジュール。
Marfの使い方を詳細に聞けたのがよかった。
248 Marfはシーケンサーですが、すべてのステップのパラメーターが縦フェーダーで設定出来るため操作性が非常に良く、またステップ毎の滞在時間も個別に設定出来たりステージアドレスを外部CVでランダマイズ出来たりと、多機能かつそれぞれの機能が柔軟なため動的なシーケンス操作により有機的なライブパフォーマンスが可能。いつかは欲しいシーケンサーです。
SHITARABAさんの演奏に関する思考はある種独特で、究極的に言えば機材操作が音に先立っているような演奏だと思います。
作ろうとする音楽のイメージがあってそこに向けて機材を操作していくのが恐らく一般的な音楽のやり方と言えますが、ご本人曰く自分の演奏はチャンスオペレーションである、と。
つまり、どこに何をするとどういう効果になるかは分かっているけど、どういう音になるのかはある意味鳴らしてみて初めて分かる、それに対して常に自分の中でさまざまな機材操作の選択肢を適応していって、自分の中にあるものを超えた音を出そうとしている、と。
電子音楽が生楽器と最も違う点は、機械が勝手に音を出すところです。ギターは弾かなければ鳴らないけど、電子楽器は自走する。無数にあるパラメーターを操作することで、その自走の方向性を付けていくのが電子楽器ならではの演奏と言えます。
鳴っている音に自分自身が反応しながら、それに対して操作を加え、その結果に対してまた反応し…というソロインプロビゼーションだけどモノローグではない、機材との対話により演奏が実現されているのがSHITARABAさんの演奏です。
操作への絶対的自信があるからこそ出来る技。機材を使いこなすとはどういうことなのか、ということを演奏で分からせられる説得力。尊敬。
まとめ
そんなこんなで、調子に乗って打ち上げにもノコノコついていった私猫又でしたが、質問たくさん出来て本当に楽しいイベントでした。
なかなか普段のライブの時だとここまでじっくり聞けないので、多分こうだろうなあ、とか、マジで何してるんだろうアレ、とかモヤモヤしてたところがだいぶクリアになったのですごくよかったです。
会場では早くも第二回以降への期待の声もそこかしこから上がっており、打ち上げでも色んな候補の方の名前が出てきて今後がますます楽しみなイベントです。
モジュラーだけでなく、ビートメイカーの方や、グルボユーザーの方など、様々な出自の方の方法論、思考の一端に触れることで相互交流にも繋がる素晴らしい機会だと思います。また行きたい!