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あの日の「じゃあね」は星の距離

近所でごはんを食べて、その延長で、彼氏や気になる人や仕事の話、上司や先輩の愚痴を言いながらたらたら歩いて帰って、家の近くで「じゃあね」ってお別れする。そんなことをもう久しくやっていないなぁ、なんて、あの頃の自分とおんなじ様にたらたら歩く女性三人とすれ違って思う。

明日も会うことを何も疑わずに毎日家の近くで「じゃあね」と別れていた子どもの頃のままの距離で、大人になっても続いた「じゃあね」は、自由に動ける距離が広くなるにつれて友だちとの物理的距離は遠くなり、いつしか近所で「じゃあね」を言うことがなくなった。

じっとりと空気が纏わりつくように汗ばんだ夏の夜の「じゃあね」
鈴虫の合唱がどこか切なく人肌恋しくなる秋の夜の「じゃあね」
歯をカチカチならしながら手はポッケに入れたまま肩だけで合図する寒さから逃げる様な冬の夜の「じゃあね」
暖かいと油断して冷たい夜風に撫でられる春の夜の「じゃあね」

いろんな「じゃあね」を記憶の奥から取り出すと、とても大切なものだったみたいに、チカチカと瞬く星みたいに、儚く淡く輝いていた。手が届かない夜空の星みたいに、もう戻れない距離の「じゃあね」は深く深く心に沁みた。
女性三人と同じように、「じゃあね」の面影も遠ざかる。胸に残る寂しさが「じゃあね」の形を教えてくれた。

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