オーケストラだけでいいのっ!!!
音楽の趣味は、人それぞれだと思う。もちろん、音楽に興味がないとか、「いくつかある趣味の中でも下の方だな」という人もいるだろう。
だけど、「なんとなくクラシックも良いかな?」と漠然と感じている人もいるのではないだろうか?
でも、「何を聴いていいか分からない」「そもそもどんな曲があるか分からない」「学校の音楽の授業ずっと寝てたからなあ・・・」「クラシックの入門書買ってみたけど、歴史の話ばっかで結局訳わからなかったなあ」とかいって、「なんとなく」で終わっちゃってる人は少なくないのでは。
そこで、だ。
もういっそのこと、聴くのはオーケストラの曲にしぼってみてはどうだろう?
偏ってる?
いやいや。
だって、オーケストラ曲でしか仕事しない(というと単純化しすぎだけど)職業の人が、多分、クラシック音楽業界では作曲家の次くらいに偉いくて、豊富な音楽知識と才能が必要とされているくらいなんだから。指揮者っていうんですけどね。まあ、オーケストラ音楽っていうのは、それだけ奥が深くて広い分野なので、オーケストラ音楽しか聴かなくったって、後ろめたく思う必要はありません。
■オーケストラ音楽の魅力
まずは、オーケストラ音楽の魅力を書き出してみましょう。
こんなところでしょうか。
1.なにしろ、演奏者が多ければ100数十人、合唱が付けば楽譜通りでも1000人に達する人数で演奏されるので、もう、爆音なんてもんじゃない。オーケストラ団員の中には、耳栓をして演奏している人も。
オーケストラ演奏家の職業病は難聴だそうです。
2.[1]と逆ですが、楽譜によっては一人で演奏することもありますし、クラシック演奏全般に言えることですが、曲の演奏自体が終わっても、コンサート・ホールの残響が次第に無くなっていくのを、楽しむのものでもありますので。
爆音と静寂。この2つのギャップが楽しめるのは、オーケストラ音楽ならではです。
3.オーケストラの楽器(パート)の数は、4~30くらい(打楽器を入れればいくらでも増える)。それらの楽器が、組み合わせを替えながら演奏していくのですから、オーケストラ音楽の音色の数は最大でいくつになるかもう分かりません。
4.オーケストラ音楽は、数を聴いていくにしたがって耳が慣れてきますので、昨日は聞こえなかった楽器の音、音色、パッセージが今日は聞こえて来て、「あれ、こんな音あったっけ?」という発見がいつでもあります。
5.同じ曲でも、テンポ(速さ)、タイミング、目立たせる楽器やパッセージ、音色etcが、演奏や演奏者によって変わってきます。
「この演奏者は、この曲をどうやって演奏するかな?」と思って聴きだしたり、録音年が違う同じ演奏者の録音を聴き比べたり、色々な楽しみ方が出来ます。
6.1~5を考えると、同じ曲を、何度でも飽きずに楽しめますね。
7.好きな指揮者で聞く人、好きなオーケストラで聞く人、好きな作曲家で聞く人、好きな曲の録音は全部集める人、時代で聞く人、作曲家の国で聞く人、交響曲や協奏曲などジャンルで聞く人etc・・・。
お好み次第でどんな聴き方でも。
8.オーケストラ音楽だけ聴いてても、一生かかっても知り切れない、聴き切れないくらいたくさんあります。新しい曲は日々生まれていますし、今まで知られていなかった曲が、新たに発見されることもありますからね。
いかがですか?
もちろん、オーケストラ音楽の魅力はこれだけじゃない、と思います。
とりあえず、思い浮かんだものを書いただけなので。
みなさんも、9番目、10番目・・・n番目のオーケストラ音楽の魅力を発見してみて下さい。
■知識なんて最初はいらない~聴きながら知っていく~
「じゃあ、まずは知識を付けてから」
それから始めようとすると、絶対挫折します。
悪いことは言いません。
それは止めた方がいいです。
クラシック音楽が気になり始めたら、とにかく聴きましょう。
知識なんて、聴きながら知っていけばいいんです。
聴いていけば、必ず疑問が出てきます。
その疑問を調べながら聴くのも、楽しみの一つです。
昔は、手軽にクラシック音楽を聴きたいと思ったら、ラジオのクラシック音楽番組を聴くくらいしかありませんでした。
でも、今は、「動画サイト」という強力な味方があります。
検索窓で、「クラシック音楽」と入れて検索すると、宝の山がざっくざっく。それもタダで。
「神曲(かみきょく)メドレー」「誰もが聴いたことある定番曲」「気持ちが落ち着くクラシック名曲集」など、面白そう、楽しそうなタイトルが付いた動画が山ほどありますから、どれでも良いのでフィーリングが合いそうな動画をBGM代わりにして流しっぱなしにしてみましょう。
サムネだけで選んでもいいです。
中には、6時間、24時間耐久なんて動画もありますから、本当にBGMに最適なので、とにかく流す。
最初はそれだけで十分。
知識なんていりません。
流してるうちに、「お? なにコレ?」と好奇心を呼び起こす作品が必ずあると思いますので、作曲者や曲名はその時に見て覚えればいいんです。
■それでも「何か知っておきたい」という人のために
とはいえ、それでも「何か指針が欲しい」という人もいるでしょう。
具体的に知るのは後でもいいので、オーケストラ音楽を聴く時に意識していると何かと便利な、「目標」を立ててみましょうか。
1.ジャンルは、まあ大体は知っている人が多いでしょう。
細かく言えば切りがありませんが、オーケストラ音楽に限って言えば、下のになります。
A.交響曲は、クラシック音楽の中の王様です。なぜそうなったかは長いストーリーがあるのでここでは割愛して、とにかく、クラシック音楽の中では特別視されているということだけ知っていればOK。
だから、長い。
長編小説や大作映画を見るつもりで。
最初の頃は、「ソナタ形式」「4楽章形式」というフォーマットの縛りがありましたが、ベートーヴェン辺りからその縛りがはずれ、比較的自由に作曲されるようになりましたので、「ソナタ形式じゃないし4楽章じゃないのになんで交響曲?」なんて疑問はくれぐれも持たないように。作曲家が「交響曲!」と言い張れば、もうそれは交響曲なのです。
ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》
これはソナタ形式・4楽章形式の「ザ・交響曲」。
リヒャルト・シュトラウス:《アルプス交響曲》
これは、ソナタ形式でもないし、4楽章形式でもない交響曲。
しかも、日が昇ってから沈むまでを登山者の視点で描き、部分部分に「日の出」とか「嵐」といったタイトルまで付けられている、本来なら「交響詩」と位置づけられる作品。
しかし、あまりにも規模が大きいため、「交響曲に昇格」したのかも。
ショスタコーヴィチ:交響曲第14番《死者の歌》
全11楽章、オーケストラにソプラノとバスの独唱が付く、従来の「交響曲」の条件を全て無視した歌曲集交響曲。
B.管弦楽曲は、交響曲と、後で触れる劇付随音楽やバレエ音楽のようにストーリー・筋立てのある音楽以外で、基本的に管弦楽のみで演奏される楽曲をいいます。
まあぶっちゃけ、交響曲もバレエ音楽も広い捉えれば「管弦楽曲」なのですが、作品のコンセプトの違いで、そう分けられている感じ。
チャイコフスキー:幻想序曲《ハムレット》
「序曲」となっているが、それは単なる概念上にすぎない。いわゆる「演奏会用序曲」と呼ばれるもので、特定の作品の前奏としてではなく、それ自体が独立した作品となっている。
例えば、この作品のようにただ単に「管弦楽曲《ハムレット》」と題するよりも、「幻想序曲」とした方が、聴く方も作品のイメージを持ちやすい。
この他、~舞曲、~行進曲、~協奏曲、~前奏曲etcと付いていても、後で書くそれらの楽曲形式の本来の定義とははずれた、単独の管弦楽曲作品は数多くある。
・a.交響詩は、あるイメージや印象、神話や文学作品の一場面といった、特定の感情や気持ちを音楽で表現したもの。なので、基本的には「タイトル」が付いて、音楽を聴いている方もイメージしやすい。
なぜ「詩」なのかは、昔は、文学といえば「詩」だったから。現代風に言えば「交響小説」?
ドビュッシー:交響詩《海》
タイトルどおり、様々な表情を見せる「海」の印象を描いた作品。
交響詩としては珍しく、3楽章形式。
リヒャルト・シュトラウスの交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》
ドイツの哲学者ニーチェの『ツァラ(ry』にインスピレーションを得て作曲。
キャッチーな出だしは、映画『2001年宇宙への旅』で使用され、一躍有名曲となった。作品の哲学的意味を考えれば、ただ単に「キャッチーな出だし」のインパクトだけで選んだのか?と思うといろいろ考えさせられますな。
・c.組曲は、いくつかの独立した曲をひとまとまりの作品にしたもの。
以前は舞曲を数曲集めたものを差した。交響曲は、そもそも組曲から出発していて、各曲(各楽章)の関連性を高め、交響曲となった。初期の交響曲には、メヌエットが入っいたが、これも舞曲形式の一つ。
最初から組曲として作曲された作品と、一つの大きな作品の聞き所を集め、その簡易版としての「組曲」がある。
バッハの管弦楽組曲第3番より「G線上のアリア」
最初から組曲として作曲された作品。
しかしバッハの時代には、「組曲」という形式は時代遅れで、交響曲の前身である「シンフォニア」全盛となっていた。
ホルストの組曲《惑星》
占星術による水星や金星など太陽系の惑星の性格のイメージを音楽にしたもの。組曲の一つひとつの曲には、それぞれの惑星の名が付く。
「え、交響詩じゃないの?」と思いがちですが、ストーリー性がなく、一つひとつの惑星がひとまとまりになって「太陽系」が構成されていると考えると、交響詩より「組曲」の方がしっくりくるような・・・。
プロコフィエフ《スキタイ組曲》
プロコフィエフがバレエ《アラとロリー》の聞き所を集めた組曲・・・と言いたいところですが、いろいろあって作曲途中でバレエの依頼主はバレエの上演を拒否。お蔵入りにするのももったいないし、作曲もある程度進んでいたので経済的損失も補填しなきゃいけないしで、演奏会用組曲として発表。
なので、作品としての《アラとロリー》は存在しないので、タイトルは《スキタイ組曲》。
・c.序曲、前奏曲、間奏曲
序曲と前奏曲は、オペラやバレエといった舞台作品の開始前に演奏される短い管弦楽曲。演奏会用序曲とは別物。
腕時計などなかった時代、舞台の開始を合図したり、作品の“さわり”部分のガイドとしての役割があった。TV番組のオープニング曲のようなもの。
よく混同される序曲と前奏曲の違いは、「序曲」は交響曲のように、一定の形式が存在するが、「前奏曲」は形式的には自由といったことが上げられる。
特に、かつてオペラ・バレエ大国であったフランスとイタリアでは、「序曲」は形式的にそれぞれ独立して発展していき、「フランス風序曲」「イタリア風序曲」という二大形式を築き上げた。
グリンカ:オペラ《ルスランとリュドミラ》序曲
ガーシュウィン:《キューバ序曲》(演奏会用序曲)
一方、「前奏曲」は、形式があるゆえに長くなりがちで、舞台本編の予告編としての性格が強かった「序曲」を嫌い、もっと短く、オリジナリティーがあって舞台本編の予告ではなく、独立した価値をもたせよう、という意味合いで作られた。ワーグナーが好んで使用。
ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》第一幕への前奏曲
ちなみにラテン語では、前奏曲の"Prelude"のpreは「前に」、ludeは「遊ぶ」、「戯れる」という意味があり、「前戯」と訳すこともでき、「序曲」とは全然違うってことがよくわかりますよね。
そして、間奏曲は、幕間や場(シーン)の舞台変換で、前と後の部分を繋げる役割を持つ。
ワーグナーは、本来は間奏曲で繋げる幕と幕を、前奏曲で繋げた。間奏曲は、場と場の間に設置される場合が多い。
ワーグナー:楽劇《ラインの黄金》~「ジークフリートの死」
第三幕第二場から第三場への間奏曲
・d.舞曲は、ヨーロッパの宮廷で流行していたダンスのための音楽と、各国に伝わる民族の舞踏音楽を、オーケストラで模して演奏する作品。
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集
・e.変奏曲は音楽形式の一つで、複数楽章のある作品の一つの楽章に採用されるケースの他、独立した管弦楽曲として数多くの作品があります。
オーケストラ作品のほか、ピアノ独奏曲でも数多くありますが、ここは多彩な音色が楽しめるオーケストラ。「変奏」の形だけでなく、音色面でも色々出来るんだなと、音楽の奥深さを知ることが出来ます。
ラフマニノフ:パガニーニの主題による変奏曲
エルガー:創作主題による《謎》変奏曲
エルガーがピアノでたまたま弾いていた、即興演奏の主題に興味を持った奥さんの勧めで書き始めた。変奏の楽想の一つひとつには、エルガーの友人のイメージが反映されている。
エルガーが、「実はこの変奏にはもう一つの演奏されない主題がある」と発言したことに基づいている。
・f.行進曲も序曲と同様、軍隊の行進の伴奏として実際に演奏される作品と、行進曲風の音楽で、行進の伴奏とは別に、純粋に演奏会用に作られたものとに分けられる。
シャルル・ルルー:《(陸軍)分列行進曲》
大日本帝国陸軍の行進曲として作曲・制定され、現在でも陸上自衛隊、警察の行進曲として使用されている日本の正式な儀礼曲。軽擦で使用される場合は《分列行進曲》。
マルコム・アーノルド:行進曲《H.R.H.デューク・オブ・ケンブジッリ》(演奏会用行進曲)
ショスタコーヴィチ:映画音楽《ゾーヤ》~行進曲
ウォルトン:行進曲《英語国民の歴史》(演奏会用行進曲)
C.協奏曲も、広い意味で言えば「管弦楽曲」ですが、特定の楽器による「ソロ」が付きます。「ソロ」があっても、協奏曲でない作品もありますし、「ソロ」が無いのに協奏曲となっている作品もあるので、要は、作曲家の気分次第ってところ。あまり深く考えすぎないようにして下さい。
それは、交響曲でも管弦楽曲でも同じことで、作曲家が「これは交響曲」「これは協奏曲」って言えば、音楽がどういう形になっていてもそうなるのです。ピアノ独奏曲でも「交響曲」ってタイトルに付く作品ありますからね。
そのへんは、あまり深く考えすぎないことです。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》
バルトーク:管弦楽のための協奏曲
D.基本的に、オーケストラに合唱が付けば合唱曲です。単純です。ですから、これは「ジャンルなのか?」といえば微妙なところです。だって、ベートーヴェンの交響曲第9番、日本での通称「第九」も合唱曲だし。
そこで、下位ジャンルの登場。
オラトリオ、カンタータ、ミサ曲、レクイエム、全て宗教(多くはキリスト教)絡みの文章を合唱やソロ歌手が歌うスタイル。
まあ、この分類の仕方もいろいろありますが、作曲家が付けたタイトルを見ればすむので、これも深く考えないように。
バッハ:クリスマス・オラトリオ
ショスタコーヴィチ:オラトリオ《森の歌》
プロコフィエフ:革命20周年のためのカンタータ
マーラー:カンタータ《嘆きの歌》
バッハ:ロ短調ミサ曲
ヤナーチェク:グラゴルミサ曲
ジョージ・ロイド:交響的ミサ曲
d.レクイエムは、死者の安息を神に願うカトリック教会で行われるミサで演奏される典礼曲。後に、死者を伴う意味合いの作品全般に付けられることが多くなった。
教会音楽から発達したクラシック音楽では、一大ジャンルを築いており、レクイエムのレコードだけを集めるコレクターも。
ヴェルディ:レクイエム
ベルリオーズ:レクイエム
ブリテン:戦争レクイエム
E.劇付随音楽・バレエ音楽も、そのまんま、演劇に付く伴奏の音楽、バレエに付く伴奏の音楽。まあ、映画音楽みたいなもんです。基本的に合唱やソロ独唱は付かず、前述したように、これも管弦楽曲。
オペラのように、メロディーを歌手に持っていかれていないので、舞台の演劇やバレエ無しでも、コンサートホールでオーケストラだけで演奏可能。
演奏時間2時間とか、あまりにも長い作品では、作曲者が聞き所を選んだ組曲が作られていますが30分とか45分とか、適当な長さであれば、そのまま全曲演奏されます。
グリーグ:劇付随音楽《ペール・ギュント》
メンデルスゾーン:劇付随音楽《真夏の夜の夢》
ショスタコーヴィチ:劇付随音楽《確かに殺された(コンクリートは固まる)》(バレエ演出版)
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》
フレンニコフ:バレエ音楽《軽騎兵のバラード》
シチェドリン:バレエ音楽《アンナ・カレーニナ》
ラヴェル:ボレロ
現在では、バレエとしての上演はほとんどなく、オーケストラのみで演奏されることがほとんどですが、この有名曲の元はバレエ音楽でした。
以上、とりあえず簡単にクラシック音楽の中で、オーケストラで演奏されるジャンルについてお話してきました。
頭の中で、なんとなくで良いので分類分けでくると、聴いていく効率もあがると思うので、トライしてみてください。