傘と本は共有資本
どしゃぶりの中を傘もささず走って行く、ブルーハーツのような人がたまにいる。
いや私の周りには、けっこう、いる。
今日も寝る間を惜しんで働くそこのあなたに、たまにはおだやかな夜を過ごしてもらいたいと私は常々思っている。安直に聞こえるかもしれないけど、本当に願っている。少なくとも今ここにいるあなたが、天地も揺らがない、雷鳴も泣き声も銃声も聞かない静かな夜を享受できることは、世界的にも歴史的にも、本当にありがたいことだと思うから。
しかし傘を差さず走る人に「雨宿りしなよ」と声をかけても
「もうずぶ濡れだし、帰って風呂入るからいいよ」なんて意地でも屋根に入らないように、
目標を掲げて必死で生きる人に、「ちょっと休みなよ」というのは逆効果だろう。私が当人の立場なら「休めるもんならとっくに休んでるわ!」とキレる。
せめて私ができることといえば、「まあ使っても使わなくてもいいけど、念の為持っておけば?」という傘をたくさん持って、いつでも手渡せるようにしておくこと。どしゃ降りの中で渡された傘を覚えている人は、その傘をまたいつかどっかで、目の前で濡れる誰かに手渡すだろう。
本だって同じだと思う。傘と本は、年を重ねるほど多く持っておきたい。
そんなわけで、ポルトの3Fの図書室は、「無理やり来いとは言わないけれど、いつでも開いてるから来たい時に来たら?」というスタンスでやっている。まだまだ蔵書は少ないが、誰もがゆっくり本を手に取ってもらえるように、絵本、旅の本、山の本、どのページも釘付けになる画集から、めくってもめくっても意味不明のZINEまで、一冊一冊ボリュームのあるものばかり取り揃えている。
「幸せとは、大切な人に降りかかった雨に傘を差せることだ」なんて歌もあったけど、傘が必要なタイミングが1日に3回来る人もいるし、たいていの雨では傘をささない人もいる。まあ置いとくから好きな時に使えよ、とビニール傘を引っ掛けておくくらいで、それをコンビニの傘置き場で取られるくらいで、実はちょうどいいのかもしれない。
だから今日も、どしゃ降りの中を走るすべての人へ。誰かがあなたのために置いてくれている傘に、時々はこうして気づいて欲しい。