6/7 わしらの貝しごと(上)
「次の大潮見とけよ」ってじいちゃんに手渡されたのは、ケロリとした顔で鯛を引っ掴む愛媛のゆるキャラ、「みきゃん」が表紙の「潮見表」。
空が夏らしく色づいてくる今日みたいな日には、じいちゃんたちは潮と凪の流れに合わせて船を出し、貝を採りに行くのであった。
袋いっぱいに貝を詰めて帰ってくるじいちゃんらを見て、行きたい行きたいとせがんでいたらついに乗せてくれることになった。
松山市の次の大潮は6月9日、干潮時刻は16時ごろ。
潮見表は市単位しか表記されないから、この干潮時刻の20分後くらいに、北条港周辺の潮が一番干くと言われている。
Googleカレンダーの終日の予定に自信げに「沖へ行く」と入れた9日の日付を楽しみにしていたら、「7日やぞ」と勝手に日程が変わっていた。
雨が降るから日にちを変更するのか、と聞いたら首を振って、
「天気予報じゃない、わし予報じゃ。結構当たるんぞ」とじいちゃんはゲラゲラと笑った。ヤフー天気すら予報を出す前のことだった。
さあ、そんな今日は年に1度あるかないかの、ヒナタメ漁への同行。
というのに、あいにくこないだひいた風邪のせいで鼻水が止まらない。
新しいビーサンをおろすのが待ちきれなくて、まだ肌寒いのに素足で過ごしていたせいか。塩っ辛いものが無性に食べたくなって、冷凍庫のカレーを飲むようにたいらげてそのまま倒れるように寝てしまったせいか。思い当たる節はいくらでもあった。
朝から駐車場の契約で裏路地を歩き回って、疲れてパン食べてまた駐車場に行って、戻ってきたら息を切らした外国人が窓の外に見えた。
マイクさんだった。
「家から走ってきました!」
松山の自宅から旧道沿いを1時間くらいかけて走ってきたというマイクさんとカレーを食べに行って、戻ってきて、メールを返したり鼻をかんだりしていると、じいちゃんがヨタヨタと船へ向かって歩いていく姿が見えた。追いかけていくと、もうエンジンをかけ始めている。乗り遅れてしまう!はまのじいちゃん達が一たび船の上に乗ると、そのスピードは陸上の姿から考えつかないくらい俊敏なのだ。
モンベルの帽子、コロンビアのショートブーツ。母の登山グッズを借りて桟橋を渡ろうとしたら、村上さんの軽トラが通りかかった。「これ着て行き!」手渡されたのは、漁師が使う撥水のツナギ。
これで胸元くらいまで浸かれるけど、その代わり、ツナギの隙間から水が入るとズブズブと沈むから気をつけろと笑うが、そんな深いところまで入っていくことあるんだろうか。(そんな村上さんのツナギはのちに大活躍することとなる。)
赤灯台と呼ぶ岩場をめがけて船は出航した。
「ほれ、あそこに見えとるやつじゃ」とじいちゃんが指さす先はまだ何も見えない。