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"何もしない" のも上司の仕事

組織の変革を行っていくに当たっては、カルチャーチェンジが最も重要であるということを前に述べました。今回は、このカルチャーチェンジに取り組んでいく際にマネージャーとして気をつけるべきことのひとつについて書いてみました。

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まわりでよく見られるマネジメント

現在、私は富士通のマーケティング部門でマーケティング変革のリーダーを拝命しています。マネジメントの立場としてはManager of Managers として各部の長である管理職の皆様や、マーケティングの全管理職のマネジメント手法の変革もリードする立場にあります。そのため、まわりの管理職の皆様のマネジメント手法を観察する機会もよくあります。

見てみて感じるのは、いままで本格的なマネジメントの教育やマネジメント変革が実施されてきていないということです。前の記事で述べたとおり、組織のマネジメント手法はITの導入によって実はこの20年で大きく進化しています。しかし、それに合わせて経営がマネジメント体制を意識的に変革していない限り、古い体制がずっと続いて仕組みが取り残されてしまいます。

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つまり、レポートラインの深いピラミッド型組織構造、小さいスパン・オブ・コントロール、そして情報の民主化が行われていなかった頃の上司と部下の関係 (上司のみが情報を知っており、部下は知らないため「オレについて来い」「オレの言うことだけ聞いていればいい」型のマネジメント) です。上司は部下を完全にコントロールしたがる人が多く、部下は上司が指示するまで待ちの状態になり自立していない状態、といった昔のマネジメントの典型的な特徴があります。

これは当社だけではなく、おそらく昔から続く伝統的な多くの日本企業で見られる状況ではないかと思われます。

駆け出しのマネージャがやりがちなこと

少し話が遡りますが、私がはじめてマネージャーになったのはマイクロソフトの開発部門の新規製品開発部門でした。当時は3人の小さなチームでしたが、初めての管理職だったのでいろいろと張り切っていた記憶があります。人も足りなかったため、プレイングマネージャーとして、一般業務もこなしつつ管理業務も行うといったことを行っていました。

そのような駆け出しのマネージャーは大抵の場合、現場の一般業務が人よりも上手くこなせるという理由で抜擢され、他のメンバーも指導しながらチームをリードすることが求められます。このため、特にマネジメントを勉強することなくチームマネジメントを実施すると「自分がチームのパフォーマンスを引っ張り、自分のやり方を他のメンバーにも真似してもらってそれができているかどうかを管理する」といったやり方になりがちです。チームメンバーには状況を詳しく報告してもらって、それに対して細かく指示をするということが行われます。

私も当時はそのようなマネジメントを行っていたことがありました。しかし、チームメンバーから不満が出たり、メンバーが育たなかったり、従業員満足度調査でよい結果が得られなかったりということが起こりました。

マイクロマネジメントから信頼は生まれない

管理職がついやってしまいがちなこととして、部下を細かく管理して次の活動を細かく指示する「マイクロマネジメント」があります。管理職にとっては、部下を自分の思うように、いわば "ロボット" のように動かして仕事を進めるために取りやすい手法であり、駆け出しのマネージャもよくやる手法です。

しかし、部下も人間ですからロボットのように言われたことだけをそのまま行う方法は好きでないことが多いのです。また、部下も自分なりに仕事をしていて自分なりの考えや仕事がうまくいかない理由を持っていますから、それを無視して指示をしてしまうと、自分の人格を否定されていると考えてしまいます。

このため、マイクロマネジメントを行う上司の組織には上司と部下、あるいはメンバー同士の信頼感が生まれず、従業員満足度も下がってしまう傾向にあります (ただし、従業員満足度を低くつけると面倒くさくなることがわかっている場合は、部下が低くつけずに表面上悪く見えない場合もあります)。

マネジメント手法の研修を受けたり自分で勉強してみたりするとわかりますが、マネジメントは状況に応じてさまざまな「型」を使い分ける必要があります。最近の顧客志向の考え方に則って考えると、管理職の「顧客」は部下やメンバーです。

顧客に対しては昔のように画一的な提案をして大量生産された製品を売りつけるのではなく、顧客に応じたニーズを聞き出してそれに対応するのが最近の手法であるように、マネジメントも自分がやりやすい方法を取るのではなく、部下やメンバーから状況を聞き出して、その状況に合った手法を使い分けられる必要があります。

ここで注意したいのは、マイクロマネジメントも状況によっては必要な場合があります。たとえば売上が達成できていなくて短期間で挽回する必要がある場合、緊急事態が起こってすぐに対処をしなければならない場合などです。このようなシーンでは、上司の適切な指示により部下がその通りに動いて状況を挽回する (巷でよく言う「指導力を発揮する」という状態)ことが求められます。

しかし、この状態を長く続けると先に述べたようなデメリットがあるためチームが疲弊するので、緊急事態が解除されたらマイクロマネジメントも解除する必要があります。

マネジメントの "型"

それでは、マネジメント ではどのような「型」を使い分ける必要があるのでしょうか。リーダーシップの型として理論によって6つとか7つとか言われていますが、ここでは6つのものを紹介します。

  1. 強制型: リーダーが持つ権力を行使して目標達成を目指すタイプです。すべての決定権をリーダーが持ちメンバーはすぐに従うことを求めます。いわゆる既出のマイクロマネジメントであり長期間発動するとメンバーが疲弊します。初心者マネージャーが取りがちな型です。

  2. ペースセッター型: リーダーの能力が高くメンバーに具体的な見本を見せて成功イメージを与えるタイプです。メンバーが優秀な場合に有効ですが、そうでない場合はリーダー自身がすべての業務を行わなければならないリスクがあります。これも初心者マネージャーが取りがちな型です。

  3. ビジョン型: 目標やビジョンを設定してそれに向かってメンバーを導く型です。最も前向きでカリスマ性によりメンバーを牽引する手法です。リーダーの信念が揺らいだり不信感が生まれると上手くいかなくなるリスクがあります。上級管理職になればなるほど求められる手法です。日本企業のマネージャーが最も苦手とする型です。

  4. コーチ型: リーダーがメンバーとの1対1の関係を築き、コミュニケーションを密にして信頼関係を築きながら、メンバーの目標達成を後ろからサポートする手法です。最近、よくもてはやされている手法です。

  5. 関係重視型: メンバー同士の関係性を重視し信頼関係を築くことを優先することで目標達成を目指す手法です。居心地がいい環境を作ることができますが、トラブルが起きた場合に責任の所在が曖昧になるリスクがあります。

  6. 民主型: メンバー個々の意見を受け入れて全体の方針に反映する型です。コーチ型と比べると大規模な組織運営にも利用できます。ただし、メンバーの意見がまとまらない場合、緊急事態の決断が難しくなるリスクがあります。

これらはチームの状況によって使い分けたり、自分がどの層のマネジメントを行っているのかによって使い分けたりします。どれも絶対的に勝っているというものはなく、ひとりのマネージャが状況によって、あるいはメンバーによって使い分けられることが求められます。

現場に近いマネージャであるほど、一般業務を行うメンバーに直接働きかける型が使われることが多いですが、管理職を管理する層が上のマネジメント (Manager of Managers、上級管理職)になればなるほど、細かいことは現場のマネージャにまかせて、より大きな方向性 (ビジョン)を示す型を使うことが求められます。

マネージャーには得手不得手があり、自然な状態で自分がやりやすい型とやりにくい型があるはずです。アセスメントを受けて、自分がどういう型のマネジメントが得意なのかをあらかじめ自己認識しておくことで、意識的に型を使い分けるためのきっかけになります。

何もしないことも仕事

よく、ステレオタイプな駄目な上司の例として「毎日重役出勤をして会社でも何もしていなく早く帰る」であったり、良くできる上司の例として「何事にも口を出して鋭い考えで部下の指導をする」といったイメージが使われますが、マネジメント論の観点から見るとこれは必ずしも正しくありません。

「部下が優秀で自分たちでうまい方法を見つけて自律的に仕事が回っている」状況であれば、その上司は口を出さずに任せて何もしない方が良いですし、逆にマイクロマネジメントをしすぎるとチームが疲弊します。

つまり、使うべきマネジメントの型は状況によって正解が変わってくるため、駄目な上司、良くできる上司というのはパッと見だけで判断はしづらいのです。その人自身を見るだけではなく、その人が見ているチームの状況もあわせて観察する必要があります。「何もしないこと」もマネージャの仕事として十分成立します (信頼して任せ、認める・承認する、そして表立っては何もしていないように見せて陰から見守る)。

組織の変革にはカルチャーの変革が重要、そしてそれを育むにはビジョンを示してみんなで一緒の方向を目指したり、メンバー間の信頼を醸成することが基盤として重要になってきます。そして、その基盤を作るのは組織のマネージャーたちであり、マネージャーの質を上げることは変革にとって急務です。

ちょっと長くなりましたので、この続きはまた今度!

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