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ビジュアルも大事?質問票づくり(疫学研究の裏側4)

疫学研究はどんなふうに進められているのか。「3世代研究」を例に、研究のリアルをご紹介する「疫学研究の裏側」シリーズをお届けしています。

前回の3回目では、最初に質問票作りがはじまったものの、そのためは研究テーマを決め、それが実施可能か判断し、使える妥当性が検証された質問票を探すということをしていったことを紹介しました。

それぞれの過程で論文レビューが必要でした。何か月も論文探しばかりやっていたような気がします。結局、その後も調査が進む中で、参考になる論文はないかな?と論文レビューを実施するので、論文レビューに終わりはない、という感じです。

ひとまず、最初の質問票づくりですが、出来上がるまでにどんな判断、決断をしていったのかを紹介していきますね。



●食事質問票は専門の私たちにおまかせ!

今回の調査は学生、母親、祖母という、年代の異なる3つの世代に実施します。というわけで、質問票も3種類作ることになりました。食事の質問票は、すでに研究室で使われている質問票があり、妥当性も検証されていて(文献1, 2)、日本人の成人の食事をたずねることができると分かっていたので、それを使うことにしました。

ただ、この食事質問票は2種類あります。ひとつは質問項目が150項目と多く、答えるのに40~60分かかるDHQと呼ばれる質問票。もうひとつは60項目ほどの質問で、15~20分で答えられるBDHQという簡易版です。DHQのほうが詳しく色々な食品摂取状況や食行動が分かるので、学生と母親はDHQを使うことにしました。けれども、祖母世代には回答するのが大変で負担も大きいかな、と想像して、BDHQを使うことにしました。しかも、通常のBDHQではなく、目が見えにくい高齢者でも見やすいように、通常よりも大きく印刷したバージョンのBDHQを使っています。少しでも答えやすさを追求したいと考えてそのようにしました。食事の質問票に関しては、私たちの研究室が専門で扱っているため、そんなに悩むことなく、使い勝手も考えながらすぐに決めることができました。

●日本語で妥当性検証済みの質問票をさがせ!

さて、健康状態や生活習慣をたずねる質問票である「生活習慣質問票」のほうには時間をかなり使いました。まずは前回のnoteで紹介したように、自分たちが実施したい研究をするときに使える質問票を、論文レビューで探していきました。過去に類似の研究が実施されていれば、その研究で使っている質問票を使う感じになります。ただし、もとの質問票が英語のものは、日本語版があるか探さないといけません。そして、その日本語版が妥当性のとられたものか、といった確認も必要です。そういう観点で論文レビューや調べものをしていきました。

●参加校数と人数は?

生活質問票も、学生、母親、祖母の3つの世代で別々の健康状態を調べたいので、3種類作ることにしました。学生の研究はこれまでにも実施した経験があったので、これまでに調べていなかったものを主に調べるようにしました。母親や祖母の健康状態を詳しく調べる調査は初めてだったので、色々と質問票に盛り込みたいところです。気を付けないと質問票のページ数がどんどん増えてしまいそうです。

そこで、ある程度「これを質問票に盛り込みたい」という状況が見えてきたところで、調査する人数は何人くらいになりそうか、という目安を決めて作業を進めることになりました。質問票を印刷して発送するとなると、印刷代、郵送代などかかります。予算に限りがあるのでその範囲で進める必要がありますからね。

質問票の内容がほぼ決まってきたのが2010年の8月ごろです。事務局が立ち上がって動き始めて4か月くらいしてからですね。そして9月ごろから、研究の説明会を実施したり、知り合いの先生方に研究説明をしたりして、参加していただける学校と、学生さんの人数を把握していきました。11月ぐらいには、参加校と各校の人数がだいたい分かってきました。説明会の様子はまた改めて紹介できればしたいと思います。

7000人ほどの学生さんに参加いただけることになりそう、ということが見えてきたところで、今の質問票のページ数を印刷できるか、金額を計算して確認していきました。

●質問票づくりでの配慮

質問票を作るときには、単に予算の問題だけではなく、答えやすいもの、そして負担感をなるべく感じさせないもの、といった配慮もしていきました。

たとえば、使っている言葉、用語で、似ているけれど違うものが含まれていると混乱をまねきそうですよね。それで使われているものは統一するようにしました。また、それぞれの質問項目では「の状況を答えてください」「過去1週間をふり返って答えてください」「過去1年間の習慣を答えてください」など、期間を考えて答えるものもありました。そういうときに先に「過去1週間」を答えたあとで「今の状況」を答えて、そのあとまた「過去1週間」を答えるとスムーズな回答がしにくくなりそうですよね。自分たちも実際に答えてみて、答えやすそうな順番に並べるようにしました。

祖母の質問票は、生活習慣質問票のほうも、文字が小さいと答えにくいのではということから、学生や母親に比べて使う文字のフォントを大きくしましたよ。そのせいでページ数が増えてしまうので、たずねる項目は少し控え目にしておきました。

●色分けでわかりやすく

そんな様々な配慮をしたうえで、質問票の項目は決まり、印刷のお願いをすることになりました。そのときにさらに配慮したのが、見た目の分かりやすさです。学生、母親、祖母、の3世代で、質問票は食事と生活習慣の2種類あります。全部で6種類の質問票を作るわけですよね。これが、ぱっと見たところはほとんど同じように見えるのです。以前のnoteで説明したように(図参照)、今回、学生への質問票の配布は共同研究者の先生方にお願いしますし、その後学生さんから母親と祖母に質問票を渡してもらいます。説明書には書いてありますが、それでもよくわからないで違う世代の質問票を手渡してしまう可能性があります。それを防ぐため、質問票はまず、各質問票で別の色の帯を使ってつづりました。さらに、3世代で別々の色の封筒に質問票を入れました。その3つの封筒を、大きなひとつの封筒に入れる、ということにしました。こうしてぱっと見たときに違いが分かるようにしました。説明書でも説明しやすくなりました。

帯の色、封筒の色、工夫して完成!

そこまでやっていても、回答済みの質問票の中に、一組だけ、明らかに学生と母親が質問票を逆にして回答しているな、というエピソードもありました。現場では色々起こるものです(笑)。

●まとめ

質問票でたずねることが決まっても、すぐに質問票は完成しません。各世代で回答しやすいように並び替え、フォントを決め、参加者数と予算で印刷できるページも考えて、多すぎるようなら項目を減らして、最終形態を決めていきます。実際に印刷したあと、どんな状況で配布されて回答されるのかも想像しながら、つづり方、封筒への入れ方、など印刷後の準備も進めていきました。ここまで決めて印刷発注、封筒などの物品発注し、ひとまず質問票の準備段階はひとつ終わりました。それが11月ごろ。封筒に入れたり、仕分けしたり、ということはこのあと年があけて1月~2月に行うことになります。それまでに、今度は別の作業を進めることになります。

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【参考文献】
1. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.
2. Kobayashi S, et al. J Epidemiol 2012; 22: 151-9.


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