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研究者の腕が試される!?実測なしの大規模疫学研究(疫学研究の裏側2)

疫学研究がどんなふうに進んでいくのか、リアルな実態をご紹介する「疫学研究の裏側」シリーズで、私が関わった「3世代研究」をご紹介しています。前回が1回目で、研究が始まったころの状況とこの研究の全体をお伝えしました。

今回は2回目。研究が進んでいきます。さて、まず何に取りかかったでしょうか。



●実測しない質問票調査が特徴

始めに目指したのは「対象者の人の何を測定するかを決める」ことでした。それはつまり「対象者の人が答える質問票を作る」ことを意味しています。

というのも、この3世代研究は前回のnoteで紹介したように、全国の栄養関連学科の学生、母親、祖母を対象にした調査です。対象者数は大規模ですし、その方たちの住んでいる地域もバラバラです。それで、私たち研究事務局のスタッフが対象者の方に直接説明に行ったり、測定しに行ったりすることはできません。各学校の先生方に「共同研究者」になってもらって、学生に研究の説明をしてもらい、質問票を配布してもらい、それを回収してもらって、調査を進める計画になっていました。そして、学生から母親と祖母に研究説明と質問票の配布、回収をしてもらいます。図で示すとこんな感じ。

3世代研究の調査体制:栄養士養成校の先生方に共同研究者として学生さんに質問票を配布してもらい、その学生さんにお母さんとお祖母さんに質問票を配布してもらって進めました。

共同研究者の先生方に、身長や体重などの測定をお願いするのは負担が大きいです。質問票の配布と回収だけで手いっぱいになります。そのために、この3世代研究で「測定」というのは、実際には「質問票の内容に答えてもらうこと」になります。そして「対象者の人の何を測定するかを決める」というのは、この調査で尋ねる質問項目を決めて、3世代研究専用の質問票を作りあげることになるわけですね。この3世代研究の特徴としては、身長や体重なども実測しない「質問票調査」と言えます。

●今さら質問内容を決めるって?

質問項目を今から決めるなんて、最初に研究費申請書を提出して研究を計画した段階で決まっているんじゃないの?と思われるかもしれません。もちろん、だいたいこういうことを調べて明らかにしたい、ということは、研究費申請の段階ですでに書いてありました。前回のnoteで紹介したように、申請書には研究の目的のひとつに「食習慣と様々な健康状態の関連を検討する」とちゃんと書いてありましたし、その具体例もいくつか書いてあったんですよ。でも、それは予定。それらも含めてよいのですが、せっかく自分たちで研究を進めていく機会を得たのですから、自分たちのやりたい研究がもれなくできるように、質問票に項目を盛り込んでおくこべきなんです。大きな研究目的がずれず、予算の範囲内で実行できるなら、この時点から詳細な研究計画を練り直す、ということはよくやることです。

●疫学研究は一発勝負

その理由は、疫学研究は簡単に何度もできない、というところにあります。大勢の対象者の人に質問票に答えてもらうわけですし、そのために働く調査員も共同研究者もたくさんいます。「聞きたいことが追加で出てきたのでもう一度たずねさせてください」なんて言えません。こういうところが、実験室で細胞などを使って研究するのとは違うところですよね。実験室では、ちょっと試薬がこぼれたからとか、細胞の調子が悪そうだから、といってやり直すこともありますが、日常に生活している人を研究対象にした疫学研究ではやり直しがきかないのです。それで、研究費申請書の段階ではまだはっきりとは決まっていなかった研究計画を、今から練りに練って、実際に失敗なくできる方法をとらないといけません。

●研究者の腕の見せ所

そして、類似の調査を何度も実施するのは効率が悪いです。質問票でいくつもの健康状態、たとえば睡眠のこと、心の状態、歯の状態、便秘の状態などを一度に聞いておけば、今回の1回の調査でできあがったデータを使って、食事と睡眠の関係の研究、食事とうつ症状の関連の研究、食事と歯の健康状態の研究…など、たくさんの研究ができます。そんなふうに、限られた予算の範囲内で、一度に集めたデータを使って、たくさんの研究ができるように様々な質問項目を盛り込んでおくことは、研究者の腕の見せ所なんですね。とはいえ、質問票のページ数を増やすと、印刷して、配布する予算は増えます。そして、回答する対象者さんの負担は増えます。そこにどう折り合いをつけるのか、それも考えて質問票を作るのです。

●まとめ

こうして、調査の準備のためには「質問票を作る」という行動が最初に目指すべきところだと理解できました。とはいえ、この質問票を作るにはどうしたらよいのか、というと、そこにはかなりの事前準備が必要そうです。この第一段階のステップをクリアするために、どんなことをひとつずつ進めていったのか、というと…。まだまだ長い道のりが続きます。

疫学研究のそもそも論を説明するばかりで、実際の体験談までなかなかいきつきませんが、こういうことを知っておくことで他のことに応用できる範囲が広がると思います。しばらくお付き合いください。


「研究の裏側」シリーズの初回はこちら


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