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高齢者でも使える質問票?に「思う」で答えるべからず(執筆論文紹介)

栄養疫学研究で習慣的な食事摂取量を調べる方法には、いくつかある食事調査法の中でも質問票を使う方法が最適なのですが、ありますが、その質問票は妥当性の検討されたものであることが必須なんですよね。その食事質問票の妥当性研究をどういうふうに実施するのかは、前回のnoteで紹介したところです。

それでは、妥当性研究がひとつあればもうそれで十分か、というと、そういうわけでもないんです。たとえば、前回のnoteで紹介した妥当性研究は、対象者は中年の日本人男女でした。この質問票を高齢者でも使えるの?と尋ねられたら、根拠もないのに「使えると思いますよ」とは、科学者としていうべきではないんですよね。(「思う」で答えてはいけない、と恩師によく言われていました…。)高齢者でも使えることを示した研究を根拠に「使える」という必要があるんです。

実際、高齢者の食事と健康の関係を研究していた先生方から、この質問票を使ってよいのかと尋ねられました。それに答える研究は、当時まだありませんでした。ならばしなければ答えは得られません!ということで、私たちは、高齢者を対象にした、同じ質問票の妥当性研究も実施したんです。今回は、その妥当性研究の論文を紹介しますね。こちらは私が今のところ最後に栄養疫学分野で、第一著者として執筆した論文(文献1)となっています。

なお、この論文はこちらのページで公開されています。


●得られた知見

これらの論文で得られた結論は以下のとおりです。

  • 日本人の食習慣を評価するために開発された、過去1か月の食事内容を尋ねる簡易型食事歴法質問票(BDHQ)を使って、日本人の高齢者の食事を推定した結果、栄養素、食品群摂取量とも、集団中における個人摂取量をランク付けする能力を示していました。

  • 多くの食品群、栄養素で、摂取量の値を正確に推定することは難しいことが示されました。

  • ランク付けの能力があることで、疫学研究で活用するのには良好な妥当性を持つことが示されました。


●研究方法:どんな人にどうやって食事記録と質問票回答をしてもらったの?

この研究の対象者となったのは、東京都内に住む、80歳以上(80~94歳!)の高齢男女80人です。対象者は2012年または2015年に連続しない3日間の食事記録調査を行いました。食事記録の実際は、以前のnoteで紹介しています。このnoteで「高齢者の方に食事記録をとってもらった」とありますが、それがまさに、この妥当性研究のためでした。なるべく秤量して食品名と秤で量った量を記録してもらいましたが、秤量できない場合は目安量を記録してもらいました。書いた記録は翌日に、調査員が訪問して、確認しました。私も実際に、何人もの高齢者の方のお宅に伺って、食事調査を行いました。

BDHQの質問票へは、食事記録の説明をしに行った最初の訪問のときに回答してもらいました。ちなみに、妥当性研究では使わないデータですが、その他にも色々な研究をできるように、対象者さんには、24時間蓄尿をしてもらったり、加速度計を装着してもらったり、他にも色々な測定をお願いしていました(図1)。なかなかにハードなスケジュールでした。こんなに大変な調査に協力くださった対象者の方々には本当に頭が下がります。

図1. 高齢者食事調査のスケジュール

質問票の妥当性は、以前の妥当性研究と同様に、「集団の平均値を正確に求められるか」という観点と「集団の中で個人の摂取量をランク付けできるか」という観点の2つを調べました。

●結果:集団の中の個人の摂取量ランク付け能力は十分

集団の平均値を正確に求められるか」という観点に関しては、食事記録法(DR)で求めた栄養素と食品群の摂取量を比較基準にして、質問票で求めた摂取量がどの程度正確か、を調べました。その結果、一部の栄養素と食品群では、BDHQがDRで調べた摂取量と似た値を示していましたが、多くの栄養素と食品群で、DRよりも多いまたは少ない値が示され、集団の中央値を正確に推定することは難しいことが示されました。

集団の中で個人の摂取量をランク付けできるか」という観点に関しては、相関係数を調べました。得られた相関係数は中年者で妥当性検討を行ったときとだいたい同じくらいで、0.4くらいあるものが多くなっていました。研究で使えるレベルのランク付け能力はあると言えそうでした。

●考察:超高齢者でも使える!

BDHQに食事摂取量を推定する能力は十分あるとは言い難いものの、集団の中で摂取量の少ない人を少ない、多い人を多い、と区別するランク付け能力は、中年者が回答したときと同様に、高齢者でもあることがわかりました。高齢者の疫学研究でも、BDHQは使えそうです。ただし、摂取量の推定には向かないので、そのような研究を実施したいときには注意が必要です。

●まとめ

日本人の食事摂取量を推定できる質問票BDHQは、中年者だけでなく、高齢者、中でも超高齢者と言われる85歳以上の人たちの研究でも使えることが示されました。この研究を根拠に、高齢者の研究でBDHQが使われることで、今後高齢化社会を迎えるにあたり、必要とされる、高齢者の食事と健康の関連を検討した研究が実施できるようになりました。

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【参考文献】
1. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2019; 22: 212-22.
2. Willet WC. Nutritional Epidemiology, 3rd ed. New York: Oxford University Press. 2003.
3. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.
4. Kobayashi S, et al. J Epidemiol 2012; 22: 151-9.


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