疫学研究の始まりはチームづくりから!
これまでnoteでは、私が執筆した栄養疫学研究の論文を紹介してきました。たとえば、日本人の高齢女性の食事と健康の状態を調べて、たんぱく質や抗酸化栄養素がフレイルと関連があることを導きだしたこれらの論文があります。
こういった論文のおかげで、フレイルを予防するには、栄養素としてはたんぱく質を十分に摂取し、お菓子や清涼飲料水を減らして、抗酸化栄養素が摂取できる野菜、果物、緑茶、コーヒーなどを積極的に食べることを意識するとよい可能性があると言えるようになりました。
この研究ができたのは、2千人以上の高齢女性の食事と健康状態をたずねた質問票調査をして、その人たち(対象者)の回答してくださったデータセットをつくることができたおかげです。この調査で得られたデータを、研究に使える形に「クリーニング」したり、ほかの研究者が見やすい形に整えたりするコツは以前のnoteでも紹介していました。
とはいえ、これはデータを手に入れたあとの話。この前にデータを作るための、対象者さんへの「調査」を実施する段階があったわけです。疫学研究を実施して、その結果として論文が発表されるまでにどんな過程があるのか、これまでにも少しずつ紹介してはきましたが、これからは研究の舞台裏をもう少し詳しく、そして流れも見えるように、紹介していきたいなと思います。特に、最初に紹介した食事とフレイルの関連を調べた研究は、私が調査の実施から論文作成までの研究の一連の作業に関わっていて紹介しやすいので、この研究を題材にして紹介していきたいと思っています!
まず今回は、そもそも疫学研究ってどういうものなの?を詳しく説明していきます。
●「調査」をしてデータを作る
疫学とは?栄養疫学とは?ということは、以前のnoteで説明していました。疫学は、たくさんのヒトで健康状態とそれに関連する要因を測定してデータにし、どんな習慣を持つ人がどんな病気になりやすいかなどを明らかにして、予防などの対策を立てるために行われる学問分野のことでしたよね。そして、食事に関わることを扱っている疫学が栄養疫学でした。
細胞などを使う実験研究と違って、日常生活を送っている一般の人の状態を調べます。その人たちに、身長や体重などを測定してもらったり、質問票に回答してもらったりして、状態を調べるための「調査」を行うんですね。その調査で集めた数値がデータとなり、それを解析して研究を行います。
●たくさんの人の協力が必要
調査に参加して、測定や質問票の回答をしてくださる人のことを「対象者」と言います。対象者の方は日常的に生活している人です。実験で使う細胞や動物などと違ってそれぞれの日常生活があり、その背景状況はみんな違います。もともとの身長や体重や健康の状態に個人差もあります。疫学では、そういった一般の色々な人のことを調べて、その結果を活用することを目的にしています。
数人で調べただけでは「その人だからそういう結果が出た」というふうにも解釈できてしまいます。得られた結果を他のたくさんの人に活用するためには、数人など少数の人ではなく、数百人や数千人といった規模のたくさんの人に調査を実施して、その結果を解釈して使うことが必要になってくるんですね。
●運営側もチームで!
数百人や数千人という対象者の方に同じように測定して、質問票に回答してもらうとなると、ひとりではできません。研究する側はチームとなって、事務局を組織し、調査員みんなで運営していくことになります。研究の内容、方針、方法など、研究をするうえで事務局が決めることはとてもたくさんあります。そして調査員や対象者の方にそれを伝える必要があります。
●「たくさん」のための大変さ
たとえば、対象者の方に回答してもらう質問票の中にどのような質問を入れるのか、そういったことも事務局が決めることのひとつです。対象者の方には時間と労力をかけて質問にお答えいただくので、なるべく負担のないようにしたいんです。たくさんの質問があって負担を感じてしまうと、いいかげんに答えてしまうかもしれません。そうなると本当の回答が得られず、調査する意味がなくなってしまいます。それに、質問票を作成し、印刷して、配布するのには予算もかかります。数千人分の質問票でページ数が増えれば、対象者の負担感だけではなく、必要な予算も増えます。ウェブ調査で質問票を紙に印刷しない場合でも、その調査システムの開発費は質問項目が多いほど高くなりますよね。多くの場合、研究費は潤沢ではありませんから、限られた予算の中で行わなければなりません。こういったことを考えると、質問項目は少ない方がよいのです。
けれども、このように、負担やお金のかかる調査を何度も実施することもできません。そこで、一度の調査で得られたデータでたくさんの研究が実施できるようにあらかじめ仕込んでおくことも大切です。そのため、限られた予算と対象者の負担、そしてそれをとりまとめる調査員の負担も考えながら、どこまで質問項目を増やせるかという、矛盾した検討も必要になってくるんです。そこが研究者の腕の見せ所でもあります。
●全国規模なら事務局支部も必要
対象者が数千人となると、住んでいる地域もバラバラということもあります。簡単なウェブによる質問票だけではなく、身長、体重、血圧などの測定が必要な場合、中央の研究事務局だけで運営しきれないこともあります。その場合には各地に拠点を作って、研究事務局の支部として調査の運営を協力してもらうこともあります。
●「標準化」で状況を合わせる
そんなとき、各地でやり方がバラバラだったら、得られたデータを一緒にして研究できなくなってしまいます。そこでどこでも同じやり方でデータを集められるように、中央の研究事務局では対象者に研究の内容説明をする方法や説明するときのセリフ、健康状態の測定を行うときの決まりなどのマニュアルを作って配布したり、というように、どこの地域でも同じように調査ができるような工夫をします。この、どこでも同じ条件で調査を実施できるように準備することを「標準化」といいます。この標準化は、ある地域ではできるけれどある地域ではやりにくい、というようなときには、やりにくい地域でもできるような緩めの条件で標準化する必要があります。様々な事情があって、それでも研究をするために協力してくれる人たちに、無理をお願いすることはあってはならないですし、疫学では「できないことは求めない」ことが鉄則です。特に、日常を知って研究したいときには、日常を壊して非日常を測定してしまっては意味がないですしね。
●まとめ
まず今回は、疫学研究に必要なデータを収集するときには調査を実施することを紹介しました。その調査は、数百人~数千人の多くの対象者に参加してもらうことが多々あり、それを運営する側もチームとなって進めてきます。その際にはどの対象者の方からもほぼ同じ条件でデータを提供いただけるように、マニュアルの準備や方法の標準化が必要です。そしてそのときには、無理のない計画を立てることがとても重要であることを紹介しました。
一般的に、疫学調査とはこういった体制で運営されます。それでは具体的に私が経験した疫学調査とはどういうものだったのか、今後のnoteで徐々に紹介していきますね。お楽しみください!
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