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質問票、全国に旅立つ!(疫学研究の裏側12)

疫学研究はどんなふうに進められているのか。「3世代研究」を例に、研究のリアルをご紹介する「疫学研究の裏側」シリーズをお届けしています。

前回の11回目では「質問票の封筒詰め」という、一見、ただ質問票を封筒に詰めるだけの作業の中に、様々な意図や目的が込められていたことを紹介しました。

食事のことを詳しく丁寧にお答えいただきたい、という目的の疫学調査であったため、質問票の回答順序にもこだわりがあったんですよね。それを達成できるような計画を立てたつもりでしたが、準備段階で少々詰めが甘くて失敗が生じ、他の事務局メンバーに私が謝ったという裏話を紹介しました。

さて、準備がこうして進んでいき、とうとう物品を、共同研究者の先生方、つまりは調査の現場へお届けする段階になりました。



●全国35都道府県、85校へ

疫学研究の裏側10で紹介したように、2010年12月ごろ、参加校と参加者数が分かってきました。全国35都道府県の85校の栄養士養成課程を持つ専門学校、短期大学、大学が調査に参加するということです。質問票は全国各地へ送られることになります。図に示すとこの様な地域です。当初は2011年4月にすべての学校で一斉に調査を行う予定でした。

各県の数値は参加する学校数。当初は2011年4月に全国で一斉に調査を実施する予定でした。
結局2011年と2012年に実施することになったいきさつは次回紹介します。
色分けは調査実施年の違いです。


●封筒詰めから箱詰めへ

疫学研究の裏側11で紹介したように、質問票はまず、学生、母親、祖母ごとに異なる色の封筒に入れました。さらにその3世代分の3つの封筒を大きなひとつの封筒に入れると1世帯分となり、これを学生に渡すことにしていました。

この大きな封筒を、ぐちゃぐちゃにならないようにお届けするために、段ボール箱に詰めました。立てて30世帯分を入れるとちょうど、持ち運びに便利な大きさの箱がいっぱいになることもトライアルで分かりました(疫学研究の裏側10)。まずは30世帯分の箱を1セットとして、作っていきました。

●行先の伝票は貼らずにひたすら詰める

共同研究者の先生方からは、各校で参加呼びかけする学生さんの予定人数を教えてもらっていました。その数分+予備3世帯分を送付する、というふうに計算していきました。各校で参加呼びかけ予定数はまちまちです。たとえば参加学生が45人の予定、という場合、30+15人ということです。質問票の送付は30人分が詰められた1箱と、端数の15+予備3の18世帯分を別に、宅配便用の大きめの袋に詰めて送付することにしました。こういう計算で、85校に送る、30世帯の質問票が入った箱が、何個必要かを計算すると、だいたい230箱となりました。加えて、この端数や予備は学校ごとに数が異なるため、この端数分の質問票を詰めた袋もそれぞれ用意しました。

この時点では、まだ、スピード感を持って作業を進めるため、どの学校にどの箱を送るかは考えていませんでした。ただひたすら、30世帯分の質問票が入った箱を作ること、端数分の質問票を詰めた袋を作ることだけを目標にしていました。どの箱にも送付先は書かず、端数分が詰められた袋には、表からみて分かるように数だけ隅に書いておきました。おかげで作業は、思ったより早く進んだと感じています。2011年の1月上旬に質問票の封筒詰め、箱詰め作業は終了しました。そして、箱も袋も、まだ封は完全にはとじずに、運送業者さんの倉庫に保管していただいていました(疫学研究の裏側10)。

●発送日の作業内容

そして、2011年2月、全国各地に質問票を送付する日がやってきました。その日私たちは、運送業者さんの発送仕分けをする作業場で待機していました。その日の作業は、85校に送る質問票入りの箱と袋に、宛先を書いた伝票を貼る、共同研究者の先生方に向けた説明書を箱に入れる(複数個送付する場合はNo.1の箱に入れました)、ガムテープで最後の封をする、そして業者の方へ渡す、という予定でした。この日にどの箱がどの学校にわたるのかが決まる、ということになります。

●230箱の存在感はすごかった

質問票は自分たちで詰めましたが、できた分から倉庫に持っていってもらっていたため、全部がそろうとどの程度なのか、あまり想像ができていませんでした。待機していた作業場にやってくるのは、何台ものトラック…。3~4台ほどはあったでしょうか。

以下の画像はすべてイメージ画像なのですが、質問票はパレットと呼ばれる木の台に乗っていて

パレット

トラックの荷台からクレーンで降ろされました。

ここまで大きくはなかったと思うけど、とてつもなく大きく見えたのです。

そしてフォークリフトでどんどん目の前に運ばれてきます。

わー、フォークリフト来た!!

あっけにとられました。230箱って、こんなに存在感があったのですね…。しかし、驚いている場合ではありません。伝票を貼って、封をする、という作業をしなければ!!ということで、作業を進めました。完了した箱と袋を業者さんに渡すと、住所ごとに分けてトラックに入れられ、そうして旅立っていきました。

あまりの迫力で、そして作業を急いだために、その当時の写真を撮り忘れてしまったのはとても残念です(なので画像はすべてイメージです)。

●待っている間にできること

その後、それまでに作り始めていた調査マニュアルや説明スライドなどは、別途電子ファイルで共同研究者の先生方へお送りし、こちらから提供する物品のお届けは終了しました。質問票がわりときれいな状態で届いたようで、共同研究者の先生方からも、わかりやすく梱包していただけて助かった、とのお礼をいただきました。

その後2月末までは、各校で調査用に使うID番号(学籍番号を使うことにしたのは「疫学調査の裏側9」で紹介したとおりです)が何番から何番になりそうか、の情報収集をしていました。その番号の書かれているシールを調査事務局で作っておき、同意書や質問票などが返送されてきたら、そのID番号が書かれたシールを貼って、誰のものかが分かるように管理する予定にしていたためです。回答された質問票が返送されるのを待ってももちろんよかったのですが、待ち時間にでもできることは進めようという事務局の判断で、できるところは進めていきました。

●まとめ

作業の効率化を目指して、スピードアップが見込める方法を模索しながら、作業を進めていきました。というのも、やはり2万人以上に質問票を配布する、この大規模疫学研究は、物品の準備をする、ということにも相当の時間と労力と、それを準備するための空間などの環境が必要だったためです。終わらない!という事態を防ぐためにも、素早く進めることは重要でした。一方でミスがないように配慮も必要でした(前回紹介したようなミスよりも大きなものを、これ以上発生させるわけにいきません…)。そして、待ち時間にできることもないか、考えながら進めていきました。

こうして調査の準備はすべて終わったつもりでした。あとは2011年4月の調査開始を待つだけです。これが2011年の3月上旬。そんな中、2011年3月11日に東日本大震災が起こったのでした。調査はできるのか!?続きます!

「研究の裏側」シリーズの初回はこちら

「研究の裏側」シリーズの続きはしばらくお待ちください。

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