食事質問票を作って使うなら避けては通れぬ!妥当性研究(執筆論文紹介)
栄養疫学研究を始めるときにも、栄養の現場で食事に関する様々な取り組みを始めるときにも、食事調査で食事摂取量を調べることが必須であることを、以前のnoteで紹介しました。
とくに、食事と健康の関係を調べたいときには、ある1日の食事ではなくて習慣的な食事摂取量を測定する必要があるんですよね。この、習慣的な食事摂取量を知るための最適な方法は、いくつかある食事調査法の中でも質問票を使う方法なんですが、質問票を作って使うためには、「この質問票で習慣的な食事をきちんと調べられますよ」ということを示す妥当性研究が必要です。作ってすぐに使えるものではないんですよね。
そして、その妥当性研究を行うためには、食事調査の回で説明している「実際に食べたものを具体的に記録する方法」である食事記録法を比較基準にします。その食事記録法を、申告誤差なく丁寧に書いてもらってデータ化することの大変さは前回のnoteでお伝えしました。
食事記録は、手寧に実施すると、本当に大変な食事調査です。そして同じ対象者の人に、食事質問票も実施すれば、妥当性研究を実施することができます。
というふうに、これまでの記事で得た知識がつながってきたところで、今回は、食事質問票の妥当性研究の論文を紹介しますね。私が最初に栄養疫学分野で執筆した2報の論文(文献1, 2)です。
なお、これらの論文はこちらとこちらのページで公開されています。
●得られた知見
これらの論文で得られた結論は以下のとおりです。
日本人の食習慣を評価するために開発された、過去1か月の食事内容を尋ねる食事歴法質問票(DHQ)と、その簡易版質問票(BDHQ)で推定された食品群摂取量は、集団中における個人摂取量をランク付けする能力を示していました。
DHQとBDHQで推定された栄養素摂取量も同じく、集団中における個人摂取量をランク付けする能力を示していました。
食品群、栄養素摂取量とも、摂取量の値を正確に推定することは難しいものの、ランク付けの能力があることで、研究で活用するのには良好な妥当性を持つことが示されました。
●背景:なぜ妥当性研究が必要なの?
栄養疫学の研究では、習慣的な食事摂取量を知ることが必須です。その方法としては、質問票を活用する方法が一般的です(文献3)。食習慣や食文化は地域によって異なるため、食事質問票は地域ごと(たとえば国ごとなど)に開発される必要があります(文献4)。そして、開発された質問票は、妥当性を検討しなければ研究や実務の場で自信を持って使うことはできません(文献3)。
日本人を対象に、食事摂取量を推定できる質問票には、以前からDHQ(文献5)が存在していました。この質問票は、合計150の食品や飲み物の摂取頻度とその1回量を回答することで、各食品や栄養素量を推定することができます。けれども、回答には40~60分ほどかかり、もう少し簡便な質問票が求められていました。そこでその簡易版であるBDHQが開発されました。BDHQは58種類の食品や飲み物の摂取頻度を回答する質問票で、回答する食品数はDHQより少なく、回答時間も15~20分ほどに短縮されます。今後BDHQを研究で使うためには、妥当性研究が必要です。この研究では、BDHQの精度を調べ、もともと存在していたDHQに比べて、BDHQの妥当性がどの程度あるかどうかを確認しました。
●研究方法:どんな人にどうやって食事記録と質問票回答をしてもらったの?
この研究の対象者となったのは、大阪府、長野県、鳥取県の3つの地域に住んでいる。30~69歳の健康な女性と、その配偶者の男性です。女性の対象者は、年齢階級ごと(30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳)に8人ずつとしました。配偶者の男性の年齢は考慮していません。その結果、合計96人の女性および96人の男性が研究に参加しました。
対象者は2002年~2003年の1年間の4つの季節に、それぞれ4日間、合計16日間の食事記録調査を行いました。食事記録の実際は、前回のnoteのとおりです。なるべく秤量して食品名と秤で量った量を記録してもらいましたが、秤量できない場合は目安量を記録してもらいました。書いた記録はその当時は当日にFAXしてもらい、確認は調査員が電話で行ったそうです。やはり食事記録調査は大変な調査ですよね。
DHQとBDHQの質問票へは、食事記録を実施する前に回答してもらっていました。こうして、対象者ひとりに対して、食事記録、DHQ、BDHQの3通りで調べた方法で、食品群と栄養素の摂取量を計算しました。
質問票の妥当性は「集団の平均値を正確に求められるか」という観点と「集団の中で個人の摂取量をランク付けできるか」という観点の2つを調べました。
●結果:集団の中の個人の摂取量ランク付け能力は十分
「集団の平均値を正確に求められるか」という観点では、食事記録法(DR)で求めた食品群や栄養素の摂取量を比較基準にして、質問票(DHQ、BDHQ)で求めた摂取量がどの程度正確か、を調べました。たとえば、BDHQで推定した食品群摂取量の妥当性を検討した結果は図1(文献1)です。
BDHQで推定した食品群の摂取量がDRの摂取量と差がなく、正確に推定できていれば、差がないので0%です。BDHQで推定した値がDRに比べて大きくなったり少なくなったりすると、その値がプラス側にもマイナス側にも大きく出ます。おおよそ半分の食品群で、BDHQはDRで推定した食品群の摂取量をおおよそ推定できていましたが、残り半分は過大または過小に推定していました。男女で過大または過小になっていた食品の種類は違っていましたが、半分ほどはうまく推定できていて、半分はうまく推定できていない、という結果は同じでした。この傾向は、DHQでも、栄養素摂取量の場合も似通っていました。
「集団の中で個人の摂取量をランク付けできるか」という観点では、相関係数を調べました。(以前のnoteを参照ください。)たとえば食品群と栄養素摂取量に関して、DRとBDHQで推定した摂取量の相関係数の一覧は図2(文献1, 2)のとおりです。
得られた相関係数はだいたい0.4くらいはあるものが多くなっていました。この程度の相関係数が得られた場合は、ランク付け能力があると言えます。男女ともに、DHQでもBDHQでも、結果は同程度でした。
●考察:簡易版BDHQも使える!
DHQもBDHQも、食事摂取量を推定する能力は十分あるとは言い難いのですが、集団の中で、摂取量の少ない人を少ない、多い人を多い、と区別する、ランク付け能力はあることがわかりました。研究では、正確な摂取量を推定できなくても、ランク付けができれば使えるんですよね。(以前のnoteを参照ください。)これまで使っていた質問票DHQだけでなく、その簡易版のBDHQでも、研究で十分に使えることが示されました。
●まとめ
日本人の食事摂取量を推定できる質問票BDHQは、これまで使われていたDHQよりも回答する食品の数が少ないにも関わらず、研究に使うための十分な妥当性を持っていることが示されました。この研究を根拠に、BDHQは使える質問票である、と言えるようになりましたし、その後様々な場面で「科学的に検証された質問票である」と説明して使うことができるようになりました。
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【参考文献】
1. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.
2. Kobayashi S, et al. J Epidemiol 2012; 22: 151-9.
3. Willet WC. Nutritional Epidemiology, 3rd ed. New York: Oxford University Press. 2003.
4. Cade J, et al. Public Health Nutr 2002; 5: 567-87.
5. Sasaki S, et al. J Epidemiol 1998; 8, 203-15.
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