医療DX入門3.1 ガバナンス補足
前回の「医療DX入門講座3 医療DXガバナンス」は医療DX入門シリーズで一番大事です。書くのに苦労しました。おかげさまで高評価をいただいている一方で、「わからない」「医療事務の仕事」「コンサルにやらせればいいんじゃないの?」という意見もいただきました。補足のために何回かに分けてガバナンスについて掘り下げたいと思います。
ガバナンスって一体何?
「費用対効果」を重視しましょうよ、というのが一つです。次に組織としての役割を見直して、DXしていきましょう。これにつきます。
DXにはお金がかかります。病院組織としてお金をかけることを決断するのは「医療事務」の仕事ではありません。経営上の決定権を持つ人の仕事です。どのようなDXが必要なのかという絵図面はコンサルには描けても、最終的にお金をどのくらいかけるのか、業務をどのように変えていくのか、組織をどのように作っていくのかを決めるのは経営上の判断です。
別にこれはDXだからガバナンスが必要と言うことではありません。内視鏡を1本増やすときに、お金をどれくらいかけるのか。300万円の格安のものにするのか、一流メーカーの1000万円のものにするのか、リースにするのか。現状一日何件内視鏡検査を受けていて、1本増やして何件に増やすつもりなのか。内視鏡部門は意見を出しても購入を決定するのは経営陣のはずです。CT、MRIなど高額な画像診断装置の購入についても放射線診療部門が独断で決めることができる病院はそうないはずです。必ず、各部門が病院長なり経営部門なりに説明した上で、最後に決断するのは病院長です。その他、病棟を増やしたり減らしたり、診療科を増やしたり減らしたり、それなりのお金が絡む決断を経営陣がしないことはないでしょう。
しかし、DXでは経営陣ですら「わからないから」といって思考停止した上で物事が進んでしまいます。そのため、誰にとっても目的がよくわからないまま「時代の流れだから」とか「デジタル化を進めないといけないから」「国策だから」という漠然とした「空気」でDXを進めてしまっています。医療DXにはかなりのお金もかかるし、組織体制の変更もかかわるのに、勝手に事務がやってもいいのですか?それが「時代の流れ」ですか?DXで下手すると病院が潰れたりもしますけど、「時代の流れ」で許せますか?デジタル化が進めば病院が潰れてもいいですか?病院潰して、国策だからといって諦められますか?
「費用対効果」という言葉はガバナンスでは大事だと思います。「もっと簡単に言うと、関西弁で下記です。
で、そのDXになんぼ使って、なんぼもうけはるおつもりですか?
医療経済、医療経営が厳しくなっている今、生き残りをかけてDXをやるというお話もよく聞きますけども、単にデジタル化して赤字を広げるのでは全く意味がありません。最新、最先端のITを取り入れて、クラウド化しようがAI取り入れようが、採算が合わなければ病院は潰れます。
DXにはそれなりのお金がかかります。お金も労力もかけて、目的もよくわからない効果もよくわからない、デジタル化だけはなんとなく進んだというのでは、成功するわけがありません。
DX以外の医療で一般的にやられていることを、DXでもやっていきましょうよ。それが医療DXガバナンスといってもかまいません。もちろん、難しいこと、普段なじみのないことを医療DXでは感じることが多いかと思います。それは医療情報部門や事務部門、コンサルタントに他の分野で問い合わせるくらいの熱意で問い合わせてください。その上で決断してください。
医療機関で難しいのは、与えられたミッションと経済的合理性が時に相反しうることです。小児科や産婦人科、救急部門は診療報酬制度上、赤字になりやすくDXだけで黒字にすることはかなり厳しい課題です。その上で、診療科を廃止するかDXでどこまで緩和するかは、周辺自治体を含めた状況や医療機関の役割によって違います。教育病院であったり、地域の基幹病院であれば、そうした背景によっては赤字を出しても頑張る必要があると言うこともあります。採算を度外視してもDXをすすめ、赤字の診療部門を何が何でも維持する必要があるような難しいガバナンスが求められることも医療ではありえるのが難しいところです。しかし、それであれば余計にDXについての目的と達成指標を明確にして、説明する責任が経営陣に求められます。
次の補講で例題として、DX加算に対応するために外来予約・受付管理システムを導入することを考えます。