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『玄関ポーチ』 短編小説・写真

8時を過ぎても竜太は迎えに来ない。
ひょっとしてまた症状が現れたのか。
確信に近いと思える想像が頭の中をよぎった。

症状が出た時はLINEを返さなくていいし、
誘いを断ってもいい。それが2人のルールだ。
だからこんなことが起きても仕方がない
と思えた。
ただ大丈夫かどうかだけが心配だ。

8時40分を過ぎ、せめて竜太の奥さんと
連絡をとりたいと思い、インスタで
アカウントを探すがそれらしい人は
見つからない。
玄関ポーチに広げた山登りとキャンプの
道具を家の中に戻し始めた。

竜太の症状が出たはずだから
今日は中止になると妻に伝えた。
「寝坊でもしたんじゃないの?」
と妻は簡単に返答した。
それに苛立ちを覚えたおれは
「竜太はすごく楽しみにしてたんだぞ。
ほんとは、早朝5時に出発しましょうって
言ってたぐらいだぞ。竜太のこと何も
知らないくせに勝手なこと言うなよ」
と返し、また玄関ポーチに戻った。

その時スマホの着信が鳴った。
竜太からだ。慌てた親指で緑の部分を
タッチした。
「すみません!寝坊しました!」
声色で症状が出たわけじゃないことが
瞬時にわかり安堵した。
そして笑えてきた。
10分後に迎えに来るとのこと。
おれは再び道具を家の中から
玄関ポーチに出す作業を始めた。

竜太が迎えに来た。
竜太の車へ道具を載せる間も、
彼は謝り続けた。
色々と込み上げてきて、
おれは笑い続けた。

我が家を出発し、10メートルほど先の
T字路を竜太は右折した。
「竜太!左折!」
「あ!ほんとにすみません!!」
家から10メートル地点で
おれたちは遭難した。

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