消えゆく音、終わらない音楽――『Ryuichi Sakamoto | Opus』の公開に寄せて⑤
楽曲解説
Lack of Love
BB
Andata
Solitude
for Johann
Aubade 2020
Ichimei - small happiness
Mizu no Naka no Bagatelle
Bibo no Aozora
Aqua
Tong Poo
The Wuthering Heights
20220302 - sarabande
The Sheltering Sky
20180219(w / prepared piano)
The Last Emperor
Trioon
Happy End
Merry Christmas, Mr. Lawrence
Opus
「Happy End」
この曲の成り立ちは、いくぶん複雑である。ソロ・シングル『フロントライン』(1981年)のB面にも、YMOの3rdアルバム『BGM』にも収録されている。リリースは『BGM』の方が『フロントライン』より1か月ほど早いものの、オリジナルはソロ・シングルの方であり、YMOのアルバムにはダブ・バージョンが収められている。
曲のタイトルについて、坂本は次のように言及している。
この曲はピアノソロ・アルバム「/05」(2005年)、ピアノトリオ・アルバム「THREE」(2012年)、オーケストラツアー・ライブアルバム「The Best of 'Playing the Orchestra 2014」(2015年)などに演奏形態を変えて収録されている。
今回の映画では、もっともシンプルなピアノソロでの演奏となった。この曲を骨子を「バロック風の小品」と坂本が語っているように、古風な雰囲気が漂う。YMO時代の諍いなど、遠い過去のものとしてしまうかのように――
「Merry Christmas, Mr. Lawrence」
本作は、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」(1983年)のテーマ曲である。言うまでもなく、坂本の代表曲である。坂本はこの曲を超える曲を作りたいと考えていたようである。坂本龍一=「戦場のメリークリスマス」といったパブリックイメージを崩すことにあったというのだ。じっさいコンサートで演奏することを封印していた時期もあるという。しかし、キャロル・キングとジェイムス・テイラーのジョイントコンサートで、待ち望んでいたキャロル・キングの名曲「You've Got a Friend」をラストに聴き、安どして帰宅したことを契機に、考えた方を改めたのだという。
このエピソードは、坂本のリスナーへの向き合い方を端的に示すだけでなく、音楽に対する姿勢の変化をも象徴しているかのようだ。
もちろん、今回の演奏は、大島渚監督やデビッド・ボウイに対する追悼、そして、「禁じられた色彩」の歌詞を書き、ヴォーカルを担当した、盟友のデビッド・シルヴィアンに捧げたものでもあるだろう。
そして、ラストの曲を弾き終えた坂本はピアノから去っていくのだった――
「Opus」
この映画のタイトルにもなっている、『BTTB』(1998年)収録の「Opus」を最後の曲としたことについて、空央音監督はこうコメントしている。
最後の曲「Opus」がエンドクレジットと共に流れる。これまでの叙情を消し去るかのように悠然と。しかしそこに坂本龍一の姿はない。
スクリーンを通じて、坂本と坂本を取り巻く時間が新たな段階に入ったことを再認識する。
やがて曲が終わり、映画も幕を閉じる。
そして、Opus(作品)と題された映画に込められたメッセージについて思いを巡らし、こう思う。
坂本龍一という「作品」は歴史に残り、未来に向かって音楽は鳴り続けるのだと。
消えゆく音、終わらない音楽――
参考文献
細野晴臣, 坂本龍一, 高橋幸宏『イエロー・マジック・オーケストラ』、196p
坂本龍一『オフィシャル・スコアブック「坂本龍一 /05」』、9p
坂本龍一『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』、28-29p
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