【企業インタビュー】社内にない経験値がシナジー効果を生む
福島県白河市を拠点に活動する一般社団法人「未来の準備室」。
2016年コミュニティ・カフェEMANONをオープンし、地元の高校生が年齢や職業もさまざまな人たちと出会い、自分たちの暮らす地域について学ぶ場として活用してきました。
その後は、白河市や福島県と一緒にまちづくりや地域活性化に取り組んでいます。事業の範囲が広がったことが、副業人材の採用につながっていきます。代表の青砥和希さんにスキル人材に依頼した業務内容や成果などをうかがいました。
副業人材を募集した理由と解決したいと思っていた課題を教えてください。
2018年ごろから事業の領域が増えてきました。視察に訪れた人からEMANONの話を聞かせてくださいと言われることも多くなったのですが、コミュニティ・カフェの運営だけではなくなっていたので、自分たちの法人はこういう事業体ですと一言で伝えるのが難しくなっていました。
そこで、私たちの組織がどんな理念や特性を持っているのかについて、統一したデザインやメッセージで伝える「コーポレート・アイデンティティ(CI)」を作り、ブランディングを強化する必要があると感じました。
一般社団法人なので経営基盤を安定させるためには多くの寄付を募らないといけないのですが、寄付をする側から法人がどう見えているかを考えるためにも、CIは必要でした。
当初はご自身で人材を探そうとされたとか。
個別の事業ごとに必要なデザインや広報物は、こちらからこう作ってほしいとグラフィックデザイナーの方に指示を出して制作してきました。
でもCIは、どう指示を出していいかわかりませんでした。お願いする人も単に仕事をしてもらう人ではなく、相談できてアドバイスをもらえる人でなければいけなかったのです。そこで県の「関係人口づくり推進事業」を通じて、副業人材を募ることにしました。
副業人材ではなく社員を採用することは考えませんでしたか。
副業人材にした理由の一つはコストです。小さい組織なので、もし社員として採用するなら営業も情報発信もなんでもできるオールラウンダーな人材でないと採用できません。専門性の高い人をフルタイムで採用するのは経営的に厳しいためです。
もう一つの理由は、経営課題をヒアリングして理解してもらった上で、ビジュアル化したり情報を整理したりして高度なコミュニケーションができる人材を地域内で探すのは困難だったからです。
2020年12月から2021年の1月にかけて1か月募集したところ、関東在住の方を中心に全部で6人応募がありました。関係人口づくり推進事業の事務局で3人に絞ってもらい、その方たちとは私がオンラインで面談しました。
みなさん経験を積まれていて、そのスキルを社外でどう生かすか真剣に考えられていました。
そこで3人の方に一度白河市に来ていただき、私の話を聞いたうえでコンサルティングしてくださいとお願いしました。最終的に、教育関係の企業で広報を担当していた50代の副業者さんに決めました。
その方に決めた理由を教えていただけますか。
私の話にきちんと耳を傾けてくれたことです。私はまだ20代なので、50代の方から見れば経験に基づきたくさんアドバイスしたくなると思います。副業者さんは、まず私たちの組織の課題や事業の話を全部聞いてくれて、その上で次にどうすべきかという段階に話を進めてくれました。
実際に業務を依頼して、どのように進んでいますか。
昨年3月くらいに副業者さんが決まったのですが、新型コロナウイルスの影響で先の予定が見通せなくなり、しばらくは何も依頼できませんでした。昨年10月ごろから週に1回、1時間の面談をオンラインで行い、広報の仕方やブランディングに向けた資料作りについてミーティングを重ねています。
当初、すぐに何か成果物をつくらないといけないと思っていました。
でも副業者さんから、まず社内で議論したり、ステークホルダーが事業をどう見ているかをヒアリングしたりする段階が必要だと言っていただいたことが印象深いです。
すぐに問題を解決しようとするのではなく、解決へのプロセスを重視しないとCIは作れないですよと言っていただきました。
現在は会社案内のパンフレットを作成中です。4月中には完成させたいと思っています。副業者さんからスタッフや施設の写真を撮るためにカメラマンを紹介していただき、今後どんな手立てが必要になるかも議論しています。
実際に副業者さんとお仕事されて半年ですが、効果や変化は生まれていますか。
事業領域を「(高校生らの)居場所をつくる」「学びを提供する」「地域活性化に寄与する」と三つのミッションに整理できたことです。副業者さんと話をするなかで提示できるようになりました。
また、広報分野に関しては私からスタッフへの指示が以前より整理され明確になっていると思います。副業者さんとコミュニケーションを図ってきた結果なので、スタッフも存在感を感じていると思います。
あらためて副業人材を採用してよかったことは何でしょうか。
スタッフは私を含め全員20代と若いので、マクロな視点で組織運営や組織広報について相談できる人が近くにいるというのはとても心強いです。
これまでの社内にない経験が持ち込まれると、とても面白いシナジー効果があります。特に小さい組織ほど、大きな組織で積んできた経験や論理を持っている方にアドバイスをもらうのは意味があると思います。
副業する側の意識も変わるといいなと思います。同じようなスキルや経験のある人が実は県内にいるのかもしれませんが、見えにくいですよね。持っているスキルが社外に対しても価値あるものなんだと説明できる機会があるといいと思います。