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私たちの分娩記録と今感じていること

先日、夫の立会いのもと、赤ちゃんを産んだ。

気持ちの良い秋晴れが続く日のことだった。

自分の体から人間が一人出てきたと思うと、未だに信じられない。赤ちゃんを産んでからは、一日もまとまった時間眠っていない。背中が痛かったり、分娩時の記憶が頭の中で永遠と再生され続けたり、赤ちゃんの授乳やオムツ替えがあったりと、心も体も忙しいからだ。

忙しいけれど、すべてが愛しく尊い時間に思える。

私たち夫婦は結婚して丸6年を迎え、現在7年目を過ごしている。

二人とも早く子どもが欲しいタイプだったけれど、自然に授かることはできなかった。長く暗いトンネルのような不妊治療をフルコースで味わった後、ようやくこの手で赤ちゃんを抱くことができた。不妊治療については、まだまだ世間に正しく伝わっていないと思うため、気が向いたらすべてを記録しようと思う。

ひとまずこの記事では、記憶が鮮明なうちに、主に分娩時の記録と今感じていることを綴っていく。

自分用の備忘録としての意味合いが強いが、これから出産を控えている人、自然分娩に興味がある人、読み物としてお産の臨場感を味わいたい人にとっても良いかもしれない。

庭の山茶花が見ごろを迎える季節

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 赤ちゃんがこの世界に出てきたのは、38週目のことだった。 

通常40週が予定日に設定されるが、37週以降は赤ちゃんがいつ生まれてもよい時期とされている。そのため37週からの妊婦検診では、産婦人科の先生も看護師さんも少し態度が変わって、少しピリピリした雰囲気を感じた。

 具体的にはこれまでは「安静に」といったスタンスだったのが、一気に「動きましょう」となった。ウォーキング、スクワット、乳頭マッサージなど、いよいよ赤ちゃんが出やすいように積極的に刺激を与え始めた。 

個人的にはこの期間のプレッシャーがすごくて、ややセンチメンタルだった。 

本当に自分に産めるのだろうか、陣痛の痛みに耐えられるだろうか、赤ちゃんを元気にお迎えできるだろうか、たくさんの不安が頭をよぎった。 

それでも運動をしたり、乳頭マッサージをして、下腹部がツーンと痛くなると「産まれるときの痛みはこんなもんじゃないだろう」とだんだんと覚悟がきまっていった。痛みを受け入れようと思うことにした。やるしかない。赤ちゃんを産んであげられるのは私しかいない。 

センチメンタルなときに、夫が毎日お散歩に連れ出してくれたのが唯一の救いだった。

 うちは湖畔沿いに位置しているから、来る日も来る日も、夫と二人で湖畔をお散歩した。朝の凪いだ湖、夕日が眩しく幻想的な湖、たくさんの風景を感じて「綺麗だね」と言い合った。

産まれる7日前

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満月の日にはお産が多い、という話はよく聞く。潮の満ち引きの関係で、赤ちゃんが包まれている羊水が重力で引っ張られるらしい。 

そのため、予定日はまだ数日先だったけれど、満月の日が近づいてきたタイミングで「そろそろ満月に導かれて産まれるかもよ」なんて夫と冗談交じりで話していた。 

そして迎えた満月の夜。 なんと本当に陣痛がきた(笑)

 この日の夕方、いつも通り夫とお散歩をしていると下腹部の痛みを強く感じ、長く歩くことができなかった。この時はまだ、本陣痛の予行練習といわれる前駆陣痛(ぜんくじんつう)だろうと思っていた。

 夕食時も下腹部痛があったけれど、いつもより食欲はないものの普通にご飯を食べて、お風呂も入って、夜の22時くらいにはお布団に入った。 

この時はまだ、12時間後には赤ちゃんが誕生しているとは思いもしていない。 

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 (ここからの記録は、分娩当日に携帯にメモしたものそのままだから生々しさがあるかも)

 前夜23〜0時の間で本陣痛開始(このときはまだ前駆陣痛と思っていた)。ただし時間を測ってみると10〜11分おきのため念のため産院に連絡→初産婦のためもう少し様子見となる。 

夜中の3時に再び電話(このときで10分をきっていた)。いよいよお産のため入院と言われる。自分で荷物をまとめられるがお腹の痛みが強くなってきて、痛みの最中は会話がツラい。 

病院到着は4時過ぎ頃、このときは痛みがくるとうずくまる感じ(それ以外のときは歩けるし頑張れば話せる)。子宮口3センチ、柔らかいため、今日の昼頃には生まれると伝えられる(診察前にうんちがしたくなり排便、大きくて硬いうんちが出た、スッキリした)。 

GBSの点滴を打たれる(6時頃終わる)。いったん部屋に戻って破水感などがあれば呼んでと言われる。部屋で四つん這いになり、陣痛タイム。強い痛みのあとおまたから何かが漏れる感覚がありトイレに行く→ドロドロな出血あり(いわゆるおしるし出血は陣痛前にくるタイプの人と陣痛開始後にくるタイプの人に分かれるそう)。 

分娩室へ移動(再度点滴を打たれる)。子宮口7センチって聞こえた気がする。痛みで周りが見えなくなってきて正確ではないかも。痛みがくるとツラさのせいで強制的に腰を持ち上げてクネクネさせられる感覚。ハリーポッターで言えば、クルーシオ!の闇の魔法をかけられている感じかも。

助産師さんが颯爽とやってきて、テニスボールを使っていきみ逃がしのマッサージを施してくれる。痛みのなかでかすかに感じる気持ちよさ。夫がずっと隣で声をかけてくれている。 

突然、いきみたい!と自分で言う。頭で言ったというより体が言っていた感覚。びっくり。勝手に出た言葉で誰かに憑依されていたかも。

助産師さんがバタバタきて、子宮口10cm全開とのこと。未破水のため、体の向きを何度か変えてマッサージしてもらう。しばらくすると破水。その瞬間に痛みはなく、あたたかいものがとめどなく出てくる。どんどん出てくる。 

いきむ体勢になる。レバーを左右に出してもらって掴んでうんちする感覚。足も台にのせられる。体感したことのない激痛。

 陣痛がくるたびにうんちする力の入れ方。頭の超片隅に予習していたことがよぎり、実行し、助産師さんに褒められる。ただし激痛により、途中諦めそうになる。涙が出る。こんなに痛いのにうんちするってどうやるのか分からなくなりかけるが、なんとかお腹に力を入れることを思い出す。 

最後の方で会陰切開。蚊に刺された程度のチクッくらいにしか感じない。最後の最後で赤ちゃんがなかなか出てこなく、お腹に帰ろうとしてしまうとのこと。助産師さんの一人は赤ちゃんがお腹に帰らないように、外からわたしのお腹を押している。

もういきまないでいいよと言われて息をしていると、おまたの方から泣き声が聞こえた! 

AM10:23誕生。 

何がなんだかわからないまま、赤ちゃんが計測されている様子が目に入る。胎盤が出てきて、見たいですと言う。ずっしりした大きさのものが見えた。へその緒は端っこに付いていたらしく、最後少し大変だったのはそのせいもあるそう。麻酔をして会陰切開の傷を縫合。チクチクする痛みが感じられる。 

そのまま二時間のダウンタイム。子宮収縮の点滴を打たれる。弱い生理痛みたいな感覚が下っ腹にはしる。とにかく息を吐いていたため、くちびるが乾燥してガサガサ。喉も乾燥により、痛みと違和感がある。

夫とようやく会話ができるようになる。三人の家族写真を撮ってもらう。 

二時間経過したら自分で歩いて部屋に戻る。円座クッションがありがたい。夜中からずっと立ち会ってくれた夫は帰宅。二人とも何がどうなったか分からず、静かに興奮していた。家ではヤギとニワトリが待っているから、夫に動物たちのお世話を託す。おしっこが出るときに看護師さんを呼ぶように言われる。排尿がうまくいったため、点滴を外す。

 少し寝て、赤ちゃんを新生児室に見に行く。かわいい。

 15時のおやつにアップルパイが出て美味しく食べる。お腹が空いた。親に電話する。両親を除く重要人物8人に個別に出産報告をする。 

夜ご飯を食べて、シャワーを浴びて、寝た。身動きが取りづらく、これだけで精一杯。おまたから血がポタポタ垂れる。 

夜なかなか眠れない。ひたすら今日起きたことが頭の中で回想されている。カメラロールに収められた赤ちゃんをひたすら眺めて、かわいいと思う。背中が痛くて寝付きが悪い。足のむくみが出てきて、着圧ソックスを重宝した。 

*** 

出産した翌日。朝お腹がすき、朝食後にうんちが出る。会陰切開後におまたに力を入れるのが怖かったが大丈夫だった。分娩後最初のうんち。 

食欲はあるが、背中の痛み、喉の違和感、肩周りの筋肉痛がある。お腹はかなりスッキリしたが、まだ子宮が完全に戻っていないため、ポコっと出ている感じは残っている。妊娠中と違いお腹が軽くなった分、どこに力を入れてよいか感覚が掴めない。

 貧血の採血あり。医師の診断で分娩後初めてエコーを入れられる。会陰切開の傷を気にしないで器具を入れるため強めの痛みがある。その刺激もあったのか、しばらくしてドロッとした経血が出た。 

授乳レッスンが数時間おきにあり、入院中はずっと多忙。オムツ替えのとき、赤ちゃんから真っ黒な胎便が一日に何度も出る。母乳が出て感動した。

赤ちゃんがとにかくかわいい。小さく泣いたり、声をだしたり。こんなにかわいい子が昨日までお腹にいたのかと、未だに信じられない。神秘。

 夜、夫が来てお祝い膳をいただく。赤ちゃんと写真撮影。幸せなひととき。 

それから退院までは、連日授乳とオムツ替えと自分の食事などで忙しい時間を過ごした。出産した翌日から息つく間もない。夫は毎日面会にきてくれて、お互いのふわふわした感情を共有しあった。 

Thank you for being born.

*** 

出産を経て今感じていることは、「人生に悔いなし」ということだ。

 こんなことを言うと縁起でもないと思われそうだが、たとえば今死んでもなんの悔いもない。人生でやりたかったことは全部やった。幸せに終われる。 

もちろんこれは例えであって、これから産んだ赤ちゃんを育てるために、最大限の努力をしていくつもりだ。一人の親として、子を育てる責任や義務が発生した。だからさっき書いたことはあくまでも例え話。

しかし、それだけの充実感と達成感があったことを記録しておきたい。 

そしてもう一つ。

 夫は典型的な理系タイプなのだが、その夫から立会分娩を経て感じていることを聞いてみたところ、「宇宙」や「地球」といった神秘的なものを連想させる言葉が出てきた。詳細は割愛するが、これには感動した。

 理系の夫がスピ的な言葉を選択するくらいの衝撃が、お産にはあるのだと思った。妊娠期間を含め、二人で大きなことを成し遂げられた。協力という言葉では弱く、もはや二人で一人になった感覚だ。

これもまた、大きい。 

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菊地早秋
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