介護施設で地域交流の強化が求められるワケ
全国で介護施設を展開する創生会グループでは、有償ボランティアのマッチングサービス「スケッター」の導入を広げている。地域住民に「お手伝い」として施設に来てもらうことで、現場の業務負担の軽減だけでなく、地域との交流強化に繋がり、様々な効果が期待できるという。
「施設と地域の繋がり強化」は、施設や地域にとってどのような意義があるのか。同グループの首都圏事業部でスケッター活用を推進しているスーパーバイザーの中村篤志さんにお話を聞いた。
●施設と地域住民の接点強化を模索
中村さん:もともと私は、地域に数多く存在する介護施設が広い意味での「地域の福祉拠点」(地域交流の場)として、役割を果たしていくべきではないかと考えておりました。
例えば、地域包括のような拠点を増やそうとすると、お金もかかり、国の財源を圧迫することになってしまいます。一方で、介護施設はコンビニの数より多いと言われています。それだけ多くの建物が地域にあるのだから、施設が地域の福祉拠点となり、施設が窓口になって、地域住民の困りごとをサポートできるようになればいいのではないか、と。
しかし、これだけ施設があっても地域の多くの人は施設の存在を知らないし、施設も地域のことをよく知らないのが現状です。まずは、施設と地域住民の接点(つながり、交流)を強化することが求められていました。
どうすれば自然な形で地域交流ができるのか、、、模索しているところに出会えたのが有償ボランティアのシェアリングサービス「スケッター」でした。
地域との接点をもつための良い起爆剤となっています。
スケッターの「お手伝い」を通じて地域交流(出会い)のハードルを下げることができています。初めましての方でも、事前にチャット機能で「よろしくお願いします」「当日持っていくものありますか」など細かなやりとりもできるので、お互いに不安を払拭して心の準備ができるのも大きいです。
施設は入居者を募らなければなりませんが、地域の人にお手伝いをしてもらえることになれば、施設に足を運んでもらえるし、それが施設の認知に繋がって、結果的に入居にも繋がります。もちろん職員の確保も、そうした地域の繋がりからできるようになります。地域との交流が強化されることで、入居者と働き手の確保、どちらにも寄与するので、「スケッター」の活用は経営的視点からも良いきっかけになっています。
●スケッターで入居者の「余暇活動」を充実化させる
中村さん:スケッターには、入居者の余暇活動を充実化させるため、周辺業務を手伝ってもらっています。
以前は、周辺業務は全て介護職員がやっていて、オペレーション的には「走り回っている状態」です。周辺業務のうち、掃除や食事の準備・配膳・下膳とか。洗濯も時間がかかってしまいます。
そのような入居者と直接的にかかわらない業務をスケッターにやってもらうことで時間が浮くので、入居者一人一人の個別のケアに時間を充てられるようになります。
個別ケアの時間ができると、その人が好きなことができるようになり、個性のある生活が可能になります。
実際に洗濯業務をスケッターに手伝ってもらい、入居者と関わる時間を増やすことができて、目に見えて助かることをスタッフも実感しました。
現場はその実感が伴い、スケッター受け入れに対してポジティブになり、「次こうしようか、ああしようか」など、新しい提案にも前向きになって新たな挑戦が可能になります。
また、職員がやるとマンネリ化してしまうレクリエーションの面でも、特技持った人にスケッターとして来てもらっています。もともとのレクのカレンダーを見てみると、体操と脳トレばかり、、、それなら、近所の得意な人(スケッター)にやって貰えばいいという考えです。
介護施設のスタッフで全部をやろうとするから閉鎖的になり、一般の方からしたら気軽にいけない・入りづらい・敷が高いというイメージになってしまいがちです。
こうして地域の人に助けて貰い、施設として私たちも例えば、福祉避難所として役割を担うなど地域に開かれた自分たちの施設を作っていこうという考えています。
●施設側も地域に自ら溶け込んでいく
中村さん:そもそも、施設側が地域のことをよく知らない状態に違和感がありました。スタッフに問いかけると、「(地域を知るためには)ボランティアをすればいいのでしょうか?」と答えが返ってきましたが、本質は「自らが地域に溶け込むよう体現していくこと」だと考えています。
施設長は緑のおばさん(交通安全の見守り)をしていたり、この間は(近所の)グラウンドゴルフに参加してきたと言っていました。体が痛いなんて言いながら(笑)
うちの施設に中庭があるので、ここにグラウンドゴルフ場作っちゃえばいいじゃん!という話をしていたところです。
そうすることで、(地域と職員と利用者が)お互い交わる機会を設けることが可能になります。施設内には中庭のように様々な「スペース」があるので、地域の人と活用することで、地域の人の困りごとを自然に会話でキャッチできたり、内容によっては介護の専門家としてサポートできることがあるかもしれない。そうした形で、施設は相談窓口としても機能すると思います。
●施設長が自ら「緑のおばさん」に
(「グッドタイム・ナーシングホーム美しが丘」施設長)伊藤さん:老人ホームって「気軽に関わりづらい」イメージがあって、地域に溶け込めていないケースが多いですよね。ですので、お子さんとか町会さんに(私の)お顔を知ってもらい、こちらもお顔を拝見できる機会が欲しいと思い、小学校に問い合わせました。
7:40-8:15までお子さんの登校を見守る活動(緑のおばさん)をしています。施設の前に横断歩道があるのですが、案外バスも通りますし、交通量が多くて実際に事故もあったエリアです。意外と子供って飛び出してしまうんですよ。
あんまり頑張りすぎて疲れて継続できなくなると意味がないから、だいたい週一回、金曜日に活動しています。最初はゴミ捨ての方や、犬の散歩をしている方に挨拶をしても不審がられていたのが、今では笑顔で挨拶を返していただけるようになりました。
●記者の編集後記(感想)
今回の取材をする前から、介護施設は近づき難い自分から遠い存在であることに疑問を感じていました。私は、地方出身ということもあって地域活性や地域づくりに関心があり、大学でも学んでいます。
今回、介護施設がその拠点として役割を担っていくべきだというお話を聞いて驚きました。しかし、開かれた施設の実現は、これまで様々な団体や自治体が取り組んできた既存のものより実用的で地域にとっても入居者にとっても介護のイメージを和らげ、より良い交流のきっかけに繋がるのではないかと私もワクワクしました。