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CAの道を閉ざされた学生が、介護施設で3年間働くことを決めた理由

「CA(キャビンアテンダント)になりたいと思ったのは、中学生のころに見た『ハッピーフライト』という映画がきっかけでした。航空業界で働く人々を描いた作品なのですが、綾瀬はるかさんの演じる、新人CAの姿がとても魅力的だったんです」

今回お話を聞かせていただいた矢野瑠花(るか)さんは、名古屋外語・ホテル・ブライダル専門学校 国際エアライン科の学生として、憧れの道に向けた一歩を踏み出していました。

しかし、2020年4月に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が日本で発令。航空業界への影響は大きく、大手航空会社のANA(全日本航空)とJAL(日本航空)は、両社ともに同年7月に採用活動を中止、ANAの赤坂社長は「3年間は採用の見込みがないこと」も発表しました。意図しない形で、突然道が閉ざされてしまったのです。

そんなとき矢野さんが出会ったのが、名古屋市にある住宅型有料老人ホーム「結の樹」で代表取締役を務める丸山隼人さんでした。丸山さんは当社が提供する「スケッター」を通して見学を受け入れ、矢野さんに「3年間ここで働き、介護福祉士を取得してから、またCAになるのを目指すのはどうか」と提案。矢野さんは悩んだ末、もともとは全く視野に入れていなかった介護の道に進むことを決断します。今回は、その物語をお二人に伺いました。

スケッターとは:「誰もが自分のできることで、介護福祉に関われる」というコンセプトを掲げるマッチングサービス。お手伝いを求めている介護施設と、サポートしたい人をつないでいます。2022年1月現在、登録者数は3000人以上、約7割は他業界の方です。学生や20〜30代の登録者が多く、異業種からの転職事例も多く誕生。定額でシステムを利用でき、紹介手数料が一切発生しない点も事業所メリットの1つとなっています。

介護で必要な3つのスキルはどんな仕事でも通じる

「携わる人を豊かに」という理念を掲げる結の樹は、以前からスケッターを積極的に活用いただいています。スタッフの負荷軽減につながるだけでなく、多様な人々との関わりを通して、利用者様にとって非日常体験を、スケッター利用者にとっては介護の現場を知る機会を創出し、「双方の人生に良い刺激を生み出したい」と丸山さんは語ります。

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異業種からの参加を促進するプロジェクトでは、現役CAの方がスケッターを利用して介護施設のお手伝いに参加してくださいました

そんな折に、スケッターの運営元である当社(プラスロボ)が、コロナ禍でサービス業を中心に続く失業問題に対し、サービス業経験者と介護事業所をつなぎ、異業種からの参加を促進するプロジェクトを発足。その一例として紹介した「現役CAがスケッターを利用して介護施設のお手伝いに参加した」という情報を見て、丸山さんは驚きの行動に出ます。

丸山さん「愛知県内にある全ての航空関係の学校に電話をかけてみたんです。人対人の介護の仕事の中には、CAを目指す人にも絶対に役立つことがあるから、『一度、介護福祉士というキャリア形成をしてみるのはどうでしょうか』と。プロの介護士として活躍するためには、 入浴介助などで必要な『体力』、人との関係の中で磨かれる『精神力』、お医者様や看護師さんと協力するための『理解力』がそろっていることが重要です。

この3つのスキルは、どんな仕事でも必要とされるはず。新卒という早いタイミングで身につけることができれば、今後どんなキャリアを選んだとしても力になると、説明をしました」

折り返しの電話があったのは数か月後のこと。先生から結の樹について話を聞いた矢野さんが、これまで介護に対して抱いていたイメージと違う型破りな姿勢に興味を持ったのです。

矢野さん「CAの新卒採用中止のニュースが出て、学校を辞める友達もいて、私自身もショックを受けていました。一方で、『卒業したら働かないといけない』という気持ちも強くて。ホテル業界など他業種へ就職する周りの動きや先生方の励ましの言葉に感化され、少しずつ気持ちは前向きになり、自分を向上させてからCAを目指そうと思ったのです。

そんなときに紹介を受けた結の樹は、TikTokやInstagramなどSNSを積極的に活用していたのが印象的でした。真面目なイメージのある業界だったので、そのギャップに面白さを感じて、コンタクトしてみることにしたんです」

スケッターで気づいた介護の魅力と就職への決意

その後、まずは見学からということで話は進み、矢野さんは実際に結の樹を訪れました。ホームヘルパーの経験があるお母様の姿を見て、「介護の仕事は精神的にも体力的にも大変そう」というイメージを抱いていた矢野さん。訪問前は、排泄介助などのお手伝いを受け入れられるか不安もあったといいますが、それはいらぬ心配だったようです。

矢野さん「初めて結の樹を見学した日は、介護の現場を見て学ぶことが多かったように思います。例えば、入浴や排泄介助の様子を見学したり、お食事前に各部屋をまわって、利用者様を呼ぶのに付き添わせてもらったり。スタッフのみなさんがすごく明るく、終始楽しく見学させてもらいました。

なかでも、利用者様の紹介をするときのスタッフさんの言葉が印象に残っています。『介護させていただいてる〇〇さんです』とおっしゃっていたんです。介護の仕事に『してあげる』というイメージを持っていたのですが、対等に思いあう関係が素敵だと思って。利用者様も、介護してもらう度に『ありがとう』と伝えていて、その光景に心が温まりました」

介護をとりまく環境面にも、結の樹らしい工夫があったと矢野さんは振り返ります。カフェテリアをイメージして作られたオシャレな雰囲気や近所の児童クラブの子ども達が描いた絵でラッピングされている自動販売機などに、結の樹の考えが反映されていました。

丸山さんは、介護の仕事を「人の生活の豊かさを確保すること」と表現します。介護の仕事といえば、オムツ交換や食事介助などのイメージが湧いてきそうですが、「第二の家族」として、その人らしく豊かに生活できるようサポートすることが重要と語ります。

丸山さん「結の樹では、利用者様との距離感を大切にしています。例えば、利用者様の敬称や言葉遣いをどのようにするのかということ。〇〇『さん』ではなく、〇〇『ちゃん』とお互いを呼びあったり、丁寧語とため口が入り混じったような話し方をしたりもします。明確な答えはありませんが、大事なのは目の前の利用者様が喜んでいるかどうか。シチュエーションに合わせて言動を選べるよう、スタッフ全員で日々試行錯誤しています」

結の樹を訪れたのは、矢野さんにとって就活の一環でもありました。他業種や別の介護施設も見学し、悩みぬいた中で結の樹への就職を決めます。

矢野さん「就職を決めるまでに3~4回ほど結の樹で業務の体験をさせていただきました。現場に入るほど、介護へのイメージがくつがえされて、仕事への興味が湧いたんです。

利用者様と関わる時間も増えるにつれて、ここで働ければ自分が成長できるかもしれないと考えることが多くなっていきました。そんなときに丸山さんから『3年間、結の樹で働いて、介護福祉士の資格をとってからCAを目指してみたら。資格を持ったCAがいたら、カッコよくない?』と提案していただいたんです。その言葉がすごく心に響いて、就職を決めました」

矢野瑠花さん

多様な人が介護に関わる意義とは

丸山さん「短期的な雇用でも、短時間のスケッターでも、介護の現場に携わってもらうことは、介護の魅力を知ってもらうチャンスになります。結の樹での体験を通して介護が楽しいと感じてもらえたり、良い体験として発信してもらえたりすることに価値があると思っているんです」

矢野さんが3年で辞めるのを前提に就職することに対して、こう語る丸山さん。スケッターを継続的に活用いただいているのも、同じ理由があります。

丸山さん「介護は生活の一部なので、どんな方にとっても経験することによるプラスの影響があるのではないかと思っています。最近だと、エンジニアの方が『介護アプリの制作のために現場のリアルを知りたい』と、美容師の方は『訪問美容をやってみたい』と、それぞれの目的を持って来てくださいました。お手伝いに来てもらって助かるうえに、介護の現場から学べることが多くあったと言ってくれたのは、とても嬉しいことだと感じています」

介護業界の人手不足解消のためには、業界全体の担い手を増やすほかない。介護士として長く働き続けることが難しくても、「実現したい社会に向けたアクション」や「自分ができること」を通して関わる人が増えなければ、この先の未来はないと丸山さんは強調します。

丸山隼人さん

また、多種多様な人材を受け入れることは、スタッフの教える訓練になるとともに、矢野さんのような関わりだったとしても「目標を持って仕事に臨む人」がいることが周囲への良い刺激になるといいます。このような刺激し合う環境を作るためにも、各施設が働き手にとって魅力的な存在となれるよう努力しなければいけない、と丸山さんは最後に語りました。

丸山さん「『携わる人を豊かに』という法人理念は、一緒に働く仲間に向けても同じ思いでいます。働く意義を感じ、その人にとって得られるものがあるからこそ、大変な介護現場でも働く場所に選んでもらえると思います。

矢野さんは、CAを目指す未来を描いていますが、介護に魅力を見出し、結の樹で働きたいと言ってくれました。介護福祉士を持つCAになるという、従来にないキャリアへの挑戦を私は全力で応援したいと思っています。3年がたって辞めたとしても、矢野さんとのつながり自体は消えないのですから」

介護経験を携えた「カッコいい」CAを目指して


スケッターは、かつての日本にあった「ご近所づきあい」、互助文化のように、一人ひとりが自分にできることで関わり福祉を支える「1億総福祉人構想」という言葉を掲げています。誰もが誰かに助けられ、誰かを助ける社会を実現し、深刻化する人手不足を解決する――。

そのためには、福祉との関わり方そのものをデザインすることで「関係人口」を増やさなければいけないと考えています。今回の矢野さんの事例は、まさにスケッターが実現したい世界観の一つです。福祉領域にもともと興味のなかった方でも、関わり方や関わる意味を柔軟にデザインすることで、就職にもつながりました。今後もさまざまな形で福祉への関わり方をデザインし、多くの「助っ人」そして「福祉人」を誕生させたいです。

3年間で介護福祉士の資格を取得し、CAになった後に結の樹で培った経験を役立てたいという矢野さん。介護のスキルや魅力を伝えながら、CAを目指すキャリアも応援する丸山さん。今後それぞれが足りない部分を補い、より良い未来に向かっていくことでしょう。

図らずも、ケア・アテンダント(CA)と呼ばれることもある介護福祉士。矢野さんが、一人二役のCAとして活躍する日が今から楽しみです。取材の最後、介護の仕事を通してどんな人になりたいかを聞いてみました。

矢野さん「『介護に携わった私だからこそできる、温かみのあるCA』になりたいです。結の樹の3年間では、CAになってからも役立つスキルを多く身につけられると思っています。人として大切なことを学び、周りから見てもカッコいいと思われるような人に成長できるよう頑張ります!」

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(制作:tom/ライター:蒔田志保、編集:庄司智昭)

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