人道支援がテクノロジーの進化に伴い変化してきているらしい
はじめに
人道支援を目的とした資金が、政治家や役人の汚職により本来届くべきところへ届かず使われてしまうといった話を耳にすることがある。今回は、そういった問題をテクノロジーの力を借りて解決しようと試みる事例を2件取り上げる。1件目はモザンビークで活躍する日本植物燃料の取り組み、2件目はヨルダンでのシリア難民の人道支援の取り組みである。
モザンビークで銀行を作っている日本人
日本植物燃料と言う会社のCEO合田氏をご存知だろうか。最近、Forbesをはじめとした様々なメディアへ登場する機会増えている注目の経営者だ。私の尊敬する経営者の一人でもある。先月末(2018年4月末)、NEWYORK国連本部で開催された「17th Infopoverty World Conference(情報の貧困に関する世界会議)」で登壇し、日本の大手メディアにも大きく取り上げられた。
彼らがこれまでに実施している取り組みは実にユニークだ。同社は植物燃料の原料となるヤトロファと言う農作物をモザンビークの農家の方々に栽培してもらっている。そして、栽培されたヤトロファから植物燃料を製造、販売している。当然農家へ報酬を支払うのだが、彼/彼女らの暮らす村には電気もなければ商店もないのでキオスクを作った。
しかし、キオスクの売上が毎月行方不明になる。最大30%行方不明になったと言う。妖精の仕業らしい。そこでSUICAのような非接触型ICカードで支払う仕組みを導入したところ妖精は現れなくなった。また、思わぬ方向へ話が進んだ。配布したカードへ大きな金額をチャージする農民が現れた。彼らの村には銀行などきていないので現金の安全な保管に悩んでいたらしい。
さて、このシステムは、国連食糧農業機関(FAO)が行う農民向けの資金援助の仕組みに使われている(いた?)ようだ。これまで紙のバウチャー(引換券)を利用されてきたものの、破損や偽造といった問題のほかに、複数の店舗で利用できない、店舗側も精算・集計の手間がかかる、お釣りをもらえないという通貨としての課題もあったらしい。これらの問題の解決が期待される。
それにしても電気のない村でどうやってタブレット端末を動かしているのか?と素直に疑問に思ったところ、ソーラーパネル充電としているらしい。実に賢いやり方である。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO23623830X11C17A1SHA000
ヨルダン現地ルポ ブロックチェーンが変える 国連難民支援のいま
「ヨルダン現地ルポ ブロックチェーンが変える 国連難民支援のいま」と言う題名によってMIT Technology Reviewに書かれたこの記事によれば、10万人を超えるシリア難民の人道支援にブロックチェーン技術が使われていると言う。改ざんが困難と言う特性を持つブロックチェーン技術を使い、難民一人一人の身分証明や資金決済を実現しているらしい。
スーパーマーケットでの資金決済は紅彩(人間の眼球の中にある薄い膜)のスキャンを通じて行われている。国連支援の30%以上が汚職でなくなってしまう(!)らしいが、この方式ならば難民の方々が買い物で使った代金は後払いでスーパーマーケットへ支払うため、過大請求も難しいだろうし、誰かが異常な消費をすれば特定もできるだろう。
この取り組みの見据える将来は、今はまだ課題も多く夢のような話かもしれない。難民を使った実証実験は倫理的にどうなのかと言う議論も行われている。一方で、この夢のような構想が少しずつでも実現していけば、今よりも少なくとも良い状態になることは容易に想像できる。ブロックチェーンの技術を基盤として世界が進化しようとしているのだ。
最後に
ブロックチェーンはビットコインを含む暗号化通貨による熱狂した投機ばかりが注目されているのでネガティヴな印象をお持ちの方も多いかもしれない。しかし、技術は使い方により大きくその表情を変えるのだ。
日本植物燃料の取り組みやヨルダンでの取り組みは、技術に携わる者として誇らしい。今はまだ技術的な課題、倫理的な課題、法的な課題など課題だらけと思う。本業がどうしても忙しいため自由に使える時間はあまりないが、微力ながらできることで応援していきたいと思っている。