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もしもわたしがあの子だったら

実家の隣の家に住んでいた幼馴染はスタイル抜群で誰が見ても美人。
おまけに勉強もスポーツも出来る才色兼備だ。家庭もかなり裕福だった。

そんな漫画の主人公のような彼女は小さい頃からの夢を叶え女子アナになった。

わたしは同居していた祖父母に幼少期から彼女と比較され続けてきた。
小学校4年生くらいまでは、どうやらわたしのほうが勉強やスポーツは長けていたらしかった。

しかし劣悪な家庭環境で育ったわたしは彼女にどんどん差をつけられていった。

成績はクラスの半分以下にがた落ち、太ったり痩せたりを繰り返してきたためスポーツにも打ち込めなくなっていった。もちろん体育の成績もがた落ち。

体型を全く維持出来ず、見た目も悪かった。クラスの女子で一番太っていた時期もあったのではないかと思う。

高校にあがると地域で偏差値の一番低い高校に進学し、幼馴染と圧倒的な差が出来てしまったわたしに対して祖父母は
「昔ははづきの方がなんでも良く出来ていたのに、ほーらな、あっという間に追い越されたな」と言い捨てた。

共働きだった両親はわたしには無関心だった。温かい食卓を囲んだ記憶もない。片や幼馴染の家では、家族全員で食卓を囲み子どもを中心に会話が繰り広げられるような温かい家庭だった。

そんな格差のある家庭で育ってきたが、幼馴染のことを嫌いになったことはない。比較され続けた頃「もしこの人がいなかったら、もっと楽だったのかな」と思ったこともあったが、何でもこなせて性格も良い彼女をわたしは今でも尊敬している。

今も時々連絡は取り合っている。わたしにもずっと優しく、いつまでも繋がりを持とうとしてくれている。
しかし、超エリートサラリーマンの所に嫁ぎ東京の一等地に住んでいる彼女は、やっぱりわたしとは住む世界が違うと思う。

上京していた頃。夫の稼ぎもそこそこ良く生活レベルもそこそこ高かった。
この後貧乏生活が始まる。

キラキラした世界に憧れを持っていたのは、幼馴染の影響が少なからずあったのかもしれない。

「もしも彼女がいなければ、こんな劣等感は感じなくてすんだのかもしれない」
「もしもわたしが彼女になれるのならば、わたしもお金持ちの家に嫁いで華やかな生活を送りたかった」

しかし、「目標」というものがわたしの中で初めて出来たとき、いつの間にか比較することなく、自分軸で生きていることに気付いた。

今でも数年に1度彼女に会うが、いつからか劣等感を感じることもなくなった。わたしはわたしのやるべきことを、日々粛々とこなすだけ。そんな風にいつも考えている。

東京の一等地に住み、SNSに高級料理や定期的な海外旅行、ブランドバッグなど煌びやかな生活を投稿している彼女を見ても、何も思わない。

わたしは海外には詳しくないし、ブランドもよくわからない。慎ましい生活の楽しさを知ったわたしはもはや無敵だとさえ思っている。

ただの強がりなのかもしれない。贅沢な暮らしをまた知ってしまえば、そっちの方が良いと思うのかな。

冴えない夫と日々節約しながら生活し、今はお腹の子どもの誕生を心待ちにしている。「ベビーグッズ高いな~」なんて言いながらも、お金は今ある分で良いと考えている。

あとは、自分の目標を叶えるために日々努力を重ねていく。本当にそれだけが今の望み。

近くに住む親族もめいっぱいサポートしていくれている。友人にも囲まれ、決して裕福とは言えないが地方で温かい暮らしを営んでいる。

今、もしわたしが彼女になれるのなら…
東京の一等地に住んだとしたら…

きっと今のわたしがもしもあの子だったとしても、これまで通り映えない節約生活を送り、慎ましく生活しているんだろうなと思う。

近所のスーパーに週に2回買い出しに行き、新作のおやつをチェックしたり、新しい料理に挑戦したり。
月に2回くらいは1000円前後のランチに行って心を満たし、年に1回くらいは国内に旅行に行く。

これ以上は何も望まない。ただ1つ望むことは、お腹の子と夫、友人たちとこれからも共に生きていきたい。

近所のスーパーで値引きシール付きのお寿司とお肉を買った日。
2人で2000円で晩酌出来て満たされた。


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