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核融合プラズマ定常運転と人類滅亡の話

キャッチーなタイトルにしてみたけど、前からちょっとおもしろいと思ってたテーマなので1度まとめてみることにした。
ここでは、
・核融合プラズマの長時間維持に関する研究について
・「プラズマ閉じ込め時間」はプラズマを閉じ込めた時間じゃない
・人類滅亡(?)
の話をする。

核融合に関する基礎知識

はじめに、今回の話を理解するための予備知識・前提条件を書くので、雑に読んでいただければ。

まず、一口に核融合と言ってもいろんなタイプの炉が研究されているが、ここではもっとも一般的な「磁場閉じ込め方式」の「定常」核融合を想像しながら話をする。磁場閉じ込め方式というのは、高温・高密度のプラズマを磁場で閉じ込めて(容器に触れないように空中に浮かせて)、核融合反応して出てきた粒子から熱を取り出して発電する方式である。核融合の運転方法には「定常」と「パルス」の2種類があって、「定常」というのは長時間ずっとその状態を維持して発電をし続ける方法で、こちらの方が一般的。ちなみに「パルス」運転とは、1秒に数十回とか、1日に1回とか、つけては消してを繰り返す方式。

定常の核融合炉では、運転開始時には電力を使ってプラズマを加熱し、プラズマが高温になって核融合の出力が上がってくると今度は熱が出てきてエネルギーを取り出すことができる。このため、プラズマが消えてしまうたびに電力を使ってプラズマをつけ直さないといけないので、1度つけたら数週間、数か月運転したいところである。それに、つけたり消したりを繰り返すと容器の温度が上がったり下がったりして容器が熱応力で金属疲労を起こすので、炉にとっても良くない。

つまり核融合で発電するためには、(1)安定して核融合反応を起こし、(2)それを長時間維持する、ということが必要になる。
簡単に書いたが、この(1)の「安定して核融合反応を起こす」を実現するために70年以上様々な方法が考えられてきたわけで、これが簡単にできたら苦労しない。が、まぁ仮にできたとしよう。そうするとあとはその状態を(2)長時間維持 すれば、運転中ずっと発電ができるというわけだが、ここにも課題はある。

プラズマ長時間維持の挑戦

高温のプラズマを長時間維持する実験はいくつかの大型装置で行われているが、取り組んでいるところは非常に少ない。発電のレベルに近い高温のプラズマで実験できる大型の装置で長時間運転するのはコストがかかりすぎるわりに、ほとんどのプラズマ物理の実験研究は短パルスで十分というのが理由だろう。大型のプラズマ閉じ込め装置は世界中にあるが、どの装置も限られた予算の中でできるだけいいプラズマ(高温・高密度など)を作って実験するために、短い時間(1秒以下か、長くても数秒)に磁場を生み出すコイルの電流や加熱パワーを集中させているので、長時間運転するように作られていない。

2035年に本格稼働を予定している国際熱核融合実験炉ITERでは、発電クラスのプラズマ条件で、400-600秒の運転を予定している。稼働中の装置で定常実験で有名なところだと、Hモードの最長パルス実験を行った中国のEAST(2023年4月に403秒の記録)や、ステラレータのドイツの W7-X(2023年2月に480秒の記録)、それから日本の核融合科学研究所にあるLHD(2014年に48分の記録)が挙げられる。私はLHDの定常実験に多少携わってた(謎の受賞記事こちら)ので、今回はこの実験を紹介する。

LHDで長時間運転したプラズマは温度も密度も発電レベルの1/10くらいだけど、まあ近いと言えば近い。このプラズマを数分~数十分持続させると、突然・もしくはじわじわと密度が上がってプラズマが消えてしまうという現象が起こった。原因は、一部のダイバータ(容器の壁材)の温度が上がりすぎてしまい、壁に吸着していたガスや不純物が混入してしまったためだと考えられている。これ(熱負荷の不均一)はもしかしたらけっこうヤバい現象かもしれなくて、例えば核融合炉を設計するときに、ダイバータの熱負荷を計算したら平均5MW/m2になりそうだから、余裕をもって10MW/m2にも耐えられる素材を採用したとする。しかし実際に運転してみると一部の熱負荷が高いところは20MW/m2以上の負荷になって長時間の運転ができなかったみたいなことが起こる心配がある(数字は適当)。特に3次元磁場配位のステラレータで炉を目指してる人たちは気をつけてほしい。

さあ、ちょっと思ったより重たい話になってしまって、変なタイトルに期待して読みに来てくれた人は疲れてきたかもしれないが、ふざけた話に移るためにあと1つだけ言葉を紹介させてほしい。

「プラズマ閉じ込め時間」とは

LHDで48分の放電に成功したときに、「LHDがプラズマ閉じ込め時間48分を達成したらしい」って言ってた人がいたけど、これはおもしろい間違いなので何が間違ってるのか説明したい。48分というのはプラズマを維持した時間であって、この時の「プラズマ閉じ込め時間」は1秒より短い。

「プラズマ閉じ込め時間」というのは、粒子(またはエネルギー)が閉じ込められる時間をあらわす。わかりやすさ重視でちょっと乱暴に説明すると、1つの粒子がプラズマ状態になってから、壁にぶつかったりしてプラズマ状態ではなくなるまでの平均的な時間。いくら長時間プラズマをつけていても、1つ1つのプラズマに注目するとそのほとんどは1秒も経たずに消えてしまっている。容器の中では1cc(立方センチ)あたり10兆個っていうすごい数のプラズマ粒子が常に生まれては消えてを繰り返し、常にだいたい同じくらいの数(密度)を維持している。プラズマの粒子を人間で例えると、プラズマ閉じ込め時間は人の平均寿命で、プラズマ放電時間は人類が誕生してから滅亡するまでの時間と言える。人類は100万年以上の歴史があるが、100年もすれば地球上の人間はほぼ総入れ替えになるのと同様に、1時間の放電でもプラズマの粒子は数秒で総入れ替えされている。

ところで実際の人口密度はどんな感じなのか

人類と人の寿命を例え話に使ったが、実際のところ人類の人口はどう推移してるのだろうか?次の図は、世界人口を地球の表面積で割った人口密度を、プラズマ物理の論文っぽく描いてみたもの。横軸は西暦で、単位は kiloyear(キロ年。キロ年?2.0が西暦2000年)。

人間密度の時間変化。データ:US国勢調査さんと国連さん

やばすぎでしょ。プラズマ定常実験の最後のプラズマが崩壊する直前の密度上昇に本当にそっくり。だけど、こんなに上がるのは見たことない。もうすぐにでもストンと0に落ちそうな気がする。繰り返すけど、プラズマ長時間放電実験では長い時間一定の密度で安定していたプラズマは、最後に密度の上昇が制御不能になって消えてしまった。今人口は急上昇してるけど、この先どうなるんだろうね。

私は人類がどうとかに関しては素人なので、滅亡の原因はわからない。多分専門の世界終末時計さんをちょっと見てきたけど、彼らは核戦争が原因だと考えてそうだった。うーん、どうかな?

まとめ

今回は、磁場閉じ込めプラズマの長時間維持に関する課題と、実験研究の現状について簡単に紹介した。そこでよく混同される「プラズマ閉じ込め時間」という大事なパラメータを紹介し、プラズマを人間に例えて解説した。気になったので実際の人口の推移を調べてみたところ、近年の急激な人口増加の様子が、長時間放電の終わりの「密度がどんどん上昇して、制御不能になってプラズマが崩壊した」グラフにそっくりで、人類滅亡間近なのか~?ってなった。っていう話をしてみた。

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