核融合関係の読んだ記事まとめ 2023年1-3月
はじめに
数えてみたら核融合の研究を始めて15年になるが、こないだふと、最近の核融合業界についてあんまり知らないということに気が付いた。というのも、10年前だったら「核融合の実現は30年後。10年前も30年後だったし、来年になっても30年後。」みたいな感じでアップデートはほとんど無かったんだけど、数年前から業界の動きがとにかく激しい。
そこで2022年12月に急に思い立ってツイッターをはじめて(アカウントこれ)、業界の基本的な情報をアップデートしようと思って「記事を探して読む」っていうのを始めてみた。
思ってたより記事が多くて話題には困らないが、私は記憶力が良くないのでこのままだと垂れ流して終わってしまうと思って、今度はNoteにまとめてみることにした。ここでは、2023年1-3月の3ヵ月に読んだ記事を改めて紹介する。下線がひかれてる部分は記事のリンク付き。
1番大きかったニュース
米国ローレンス・リバモア国立研究所:核融合(レーザー核融合)で初めてエネルギーの取り出しに成功
もはやこれ以降の全部の記事の導入部分にこの話題が触れられる勢いで、業界的にはそれほどインパクトのある話題だったんだなと思い知らされた話題。というのも、このニュースでは(入力エネルギー)<(出力エネルギー)を達成したとは言うものの、電源からレーザーの効率、核融合から電力までの効率を考えたら実際の発電ははるか先だし、何よりまだ間隔が数時間に1回なので、これが発電所になるためには今より数百倍の効率で、数万倍の繰り返し運転をしないと発電にはならない。むしろ個人的には「そんなにゴールは遠いのか・・」という感想で、記事が出た当初はここまでポジティブな話題になるとは予想できなかった。でも、結局私の最初の印象は間違っていて、振り返ればとても価値のある報告だった。
国の方針に関する話題
日本:内閣府の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略案」
いつの間にか核融合は国際協力の時代から国際競争の時代になっていて、他の国が前倒ししてるから日本も前倒しするように、と議論が進み、5回の会議ののち3月31日に戦略案が公開された。戦略案では「核融合」ではなく「フュージョン」という言葉を積極的に使っているが、学術としての核融合と切り離して、クリーンな発電技術としてフュージョンという言葉を見繕ったのは意外にアリかもしれない。
読んでみて思ったこと3点
・議論の初めのころから「他国から優秀な人材を獲得」っていうのがずっと引っかかってる。日本(政府)にとって、産業競争に勝つ/負けるはどういう状態のことを指すのだろうか。日系企業が活躍することかな?科学でも技術でも、日本人を育てたらいいのにな。
・政策とか予算が具体的になるのが楽しみ。加速とか推進とかワードがふわっとしてて、まだなんとでもなりそうではある。
・本当にITER、原型炉の延長線上すぐ先に商業炉が待ってるのかな。全体的にそういう書きぶりだし、「必要な技術は網羅できている」というのも、あとは作るだけ感を感じた。
核融合は多くの物理や技術が集まってできていて、専門家でも自分が携わっている部分以外はかなり楽観的になりがちな気がしてる。私も、ダイバータは魔法のように熱負荷を長期間受け止めるし、ブランケットにリチウムを入れておけば魔法のようにトリチウムが確保できるし、超電導コイルは魔法のように安定して動作し続けるし、高密度なプラズマでも魔法のように電流駆動ができるし、放射化したブランケットは魔法のように交換できるんじゃないかと思ってる。でも、アルファ粒子の閉じ込めは難しいか、もしくはヘリウム灰が除去できなくて出力が落ちるのは魔法のようには解決できないと思ってる。同様に、よくわからないけど今回の戦略案を読んだ人は、重水素とトリチウムを炉に入れてなんか加熱したら魔法のように熱が出てくると思うよなあ。ネガティブなことは言いたくないけど、技術・産業・ビジネスのアクセルを踏む前に、もう少しだけでもいいから、研究費をつけてあげてほしい。
米国:来年度の核融合エネルギー関連に14億ドル(1800億円)
アメリカ政府は来年度核融合エネルギー予算として7.6億ドル+レーザー核融合6.3億ドルの14億ドルを予定。うちDIII-Dに1.3億ドル、NSTX-Uに1億ドル、ITERに2.4億ドル。 レーザー核融合の発表を受けて増額。やっぱりちゃんとわかりやすい成果を出すの大事。あと、日本と単純比較はできないものの、額が大きいなぁ・・と。アメリカの場合はさらに、民間の投資でこれ以上の額出てくることも覚えておいてほしい。
EUからの話題
「核融合に2050脱炭素の目標とエネルギー安全保障への貢献を期待してる。競争が始まってるから米英に後れないようにしないと。法整備(規制など)を早くちゃんとしないと新しいプロジェクトを誘致できない。」みたいなことが書いてあった。
中国からの話題
核融合関連の記事としては珍しい中国からの解説。記事ではITERを軸にEAST、HL-2Mも少し紹介して、実現は30年後という話。堅実な解説。この記事からすると方向性としては日本に近い気もするが、そもそも情報があまり出てきてない気がする。噂レベルではいろいろ聞こえてくるけど、どうなんでしょう。
韓国からの話題
ITERの結果が出てくる2035-2038あたりから本気を出して、2050あたりを目指します、みたいな方針っぽい。日本と似てるかな。ただ、大きい装置はKSTARだけであと10年15年やれるのかな・・。もしかして深刻なのでは。
核融合関連特許数で中国が首位
なんで特許数を比べたのか。
プロジェクトの数とスタートアップの数で分析した国別ランキング
これはこれで微妙かな?そもそも順位が話題になるってのは競争が始まってるって話なんだろうなぁ。
IAEA:世界の核融合装置の調査2022
これはおもしろい。装置の総まとめもおもしろいし、最初の分析もおもしろい。国別の競争力もIAEA-FEC(Fusion Energy Conference)への投稿実績が良さそうな気がする。
プロジェクト・装置・ベンチャー企業に関する話題
ITER:計画が数か月から数年遅れそう
国際熱核融合実験炉 ITER 実験開始が、現在の2025年から数か月から数年遅れそうだという記事。今年中に新しいスケジュールに修正するとのこと。 プロジェクトが大きいから本当に大変そう。コロナも戦争も想定なんてできるわけないし・・。戦争で少なからずプロジェクトに対する今後のリスクは高まったし、エネルギー安全保障って言葉の重みも増した。と思う。業界にとって非常に重要なプロジェクトなので、無事に進んでくれることを願うばかり。
ITER:ロシアからの納品が大変
国際熱核融合実験炉ITERは人類史上最大の国際協力プロジェクトで、平和の象徴ともいえる。っていう表現をずっと前に見たことがあるけど、まさか戦争が始まるとは。 記事によると、ロシアからの納品が別途手続きが増えて大変らしいけど今のところほとんど影響は無さそう。
JET:不純物輸送の障壁を観測
英国カラム核融合エネルギーセンターのトカマク装置JETで、「コアとダイバータ部の温度勾配が不純物輸送の障壁になって、不純物の混入による出力低下が自動的に防がれる」という仮説が正しかったことが観測されたという記事。 すばらしい。
W7-X:1.3 GJ・8分間のプラズマ維持の記録を達成
ドイツのマックス・プランクプラズマ物理学研究所W7-Xの話題。数年以内に18GJ・30分を目標にしているそう。 維持した時間が長くなるのはとてもわかりやすく進歩を感じられて良い。目標は10MW定常みたいだけど、熱負荷は均等にはならないし、全部は測れないし、相当難しそうだけど頑張ってほしい。
TAE Technologies社:pB-11核融合の実証に成功
米国TAE社の核融合研 LHDとの共同研究に関する話題。TAEが目指すpB-11核融合を実際に起こしてみて、生成されたα粒子を直接観測することに成功した。Nature Communicationの論文はここ。私はこの研究グループの1人。これ関連の記事が多数出たけど、この記事【速報】日本、放射線を出さない核融合反応に成功「人類史上最高の発明」を引用していたツイートの反響が大きかった。リンク先の解説1行しかないから仕方がないけど、大勢のコメント見てると誤解や間違った情報多かった。そもそもタイトルからして放射線を出さないというのは変だし、人類史上最高って何のことやら。TAE関連は別件で、「第3の核融合発電、2024年にも発電開始へ」という記事もあったが、間違いの多い内容だった。タイトルの発電が2024というのも間違い。詳しくない話題は特に、気を付けて読まないとなぁと思った。
Tokamak Energy社:高温超電導線材の調達で古河電工と契約
英国TE社からの話題がいくつかあった。高温超電導はつい最近まで自社開発に力を入れてた気がするんだけど、資金が予定より集まったってことかな? 装置名ST80-HTS、建設完了は2026年。2030年代初頭にST-E1、200 MW電力供給を実証する予定。だんだん計画が具体的になってきた。発表も強気に感じるし、続報が楽しみ。
General Fusion社:英国に核融合実証実験装置を建設
カナダが拠点のGF社だが、今回英国と協定を結んでカラム核融合エネルギーセンターに実証実験装置を建設予定。カラムはJET、MASTとトカマク装置があり、スピンオフで始まったTE社の方針もトカマクだから、意外。多分法整備や誘致とかの関係で都合が良かったのかな。装置は商業炉の70%スケール、2026運転開始だそう。ここにある動画は彼らが何がしたいのか非常にわかりやすくて良かった。核融合の部分の詳細はわからないものの、発表はいつも強気な印象。運転開始も近いし、続報が楽しみ。
Helion Energy社:商業核融合炉の運転温度1億度を達成
米国HE社の記録更新の話題。論文はここ。16ヵ月の機器の耐久試験ではシステムの信頼性が確認できた。課題は科学ではなく工学ですと。温度はイオン温度 8 keV + 電子温度 1 keV。目標はD-He-3。NBもRFも超電導もいらない?FRCは高ベータだから直接電気を取り出し? でもパルス炉で24時間毎日休まず運転できますってさすがに難しくないのかな。7 Tを達成って書いてあるけど炉だと何Tなんだろう。わからないことも多いけど、着実に進んでる感じはする。
NT-Tao社:総額$28M(約36億円)の資金調達
イスラエルのNT-Tao社からの話題。超安定閉じ込めプラズマ(SSCP)で高密度コンパクト核融合炉を目指す。Critical Angular Momentum Plasma Stabilizer?密度はたぶん22乗。それ以外は謎。高密度コンパクトは何となくスマート感ある気がする。ウェブサイト見てもどういう仕組みなのかわからなかった。以下はインタビュー形式の続報から。トカマクとステラレータのいいとこどり(詳しくは秘密)、1000倍の密度(22-23乗?)、10ms、次のC1の予定は5T、the end of this decade(10年以内?2030年まで?)にエネルギー出力予定。
Gauss Fusion社:2045年までにGW級の核融合プラントを目標
2022年設立の欧州のGauss Fusion社、2045年までにGW級の核融合プラントを目標。初期資本800万ユーロ。磁場閉じ込め方式でIPPやKITと官民パートナーシップ。 読む限り、おそらく国際協力の流れを見つつ周辺技術をしっかり準備しようとしてるのかな。
Type One Energy社:$2.9M(約38億円)の資金調達
米国TOE社の話題。ステラレータ方式で、ウィスコンシンのHSXとW7-Xの関係者が2019年にプロジェクトを開始。ウェブサイトを見ると、途中まではステラレータの強み(電流駆動が不要!など)しか書いてないのかなと思ったら、 1.磁場配位最適化(乱流最適化)、2.高温超電導磁石、3.先進製造 の3つが新しい強みで、ちゃんとした勝算を感じた。おもしろい。
HB11社:H-B11を用いたレーザー核融合
米国HB11社の話題。レーザーのことは全然知らないから適当なこと言っちゃいけないけど、確かに、レーザーならわざわざDTで中性子出さないでHB11の方がいいのかも?いつかレーザーの人に聞いてみたい。
京都フュージュニアリング社:米国子会社の本格稼働を開始
拡大してるなぁ。すばらしい。
Renaissance Fusion社:€15m(約21億円)の資金調達
フランスのRF社の話題。ここは核融合炉の部品開発が目的で、液体金属と高温超電導コイルの2つがメイン。要素技術開発も世界中で活発になってきたなぁ。しかし液体金属とはまたピンポイントな・・。GEかな?
つくば大:GAMMA10アップグレード
つくば大GAMMA10アップグレードして核融合に貢献する研究しますの記事。ミラー装置の活躍に期待。 新名称Pilot GAMMA PDX-SC長いな?
その他
総合的解説の記事
最近の核融合について広く浅くまとまっている良記事。大型のプロジェクトが進むという話と、 巨大な装置を15年とか20年建設している間に進む技術もあるので、そういった先進技術を取り入れた小さいプロジェクトが進むという話。記事内では超電導線材の技術の進歩に触れてた。CFSとかTEはそこがポイントだし。似た話題で、ITERとTAEが紹介されてる動画も良かった。
NHKの番組で田島先生の特集
NHKサイエンスZERO「人類の未来を救え!ここまで来た核融合発電」
おわりに
思ってたより読んだ記事の量が多くて長くなってしまった。用語の解説をしてなかったり、かなり言葉足らずで、若干玄人向けになってしまったかも。いつか用語解説や装置やプロジェクトの紹介なんかも別途できたらいいな。
見かけた記事を読んでただけなので内容はちょっと偏ってしまった(CFSが無かったな)が、あくまで最近読んだ記事の紹介ということで許してほしい。
あんまり時間かけて頑張ると続かないので、初回記事はこれにて失礼!
何かリクエストや質問などあればお気軽に声かけて頂ければ。
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