経営指標の活用~Part2 資金繰り 棚卸の回転期間~
こんにちは。SKPです。
前回、資金繰りを検討する上で、売上債権回転期間と仕入債務回転期間という経営指標を活用することができる、と紹介をしました。
その末尾で『【売上債権回転期間を仕入債務回転期間より短く】すれば、資金繰りの心配は少ない、というのが「100%正しく」ない』と書きました。
今回はその理由と、では、どうしたら良いのか、ということを紹介します。
債権債務の回転期間には考慮されていない部分が…。
改めて、売上債権回転期間と仕入債務回転期間の意味を確認しましょう。
売上債権回転期間 … 売り上げてから代金を回収するまでの期間
仕入債務回転期間 … 仕入れてから代金を支払うまでの期間
となっています。これを見比べた時【考慮されていない・抜けている期間】があることにお気づきでしょうか?
実は、この二つの指標だけでは【商品を仕入れてから売れるまでの期間】が抜けているのです。
商品は仕入れてから即店頭に並ぶものもあれば、既に店頭に同一商品があれば、売れるまでは在庫として保有しておくものもあります。また製造業であれば『製造にかかる期間中』は、製品ができていませんから販売することができません。
販売していないのであれば、当然『売上』となっていませんので、代金の回収はできません。「売上債権回転期間」がいくら短くても、「売れていなかったら意味がない」ということです。
となると、単純に「売上債権回転期間」と「仕入債務回転期間」を比較して、【売上債権回転期間の方が短いから大丈夫】と思っていると、『仕入れてから売れるまでの期間が長く』、資金繰りがショートしてしまう、なんてこともあり得るのです。
そのため、資金繰り・代金の入出金のサイトを見ようとする場合、
1.仕入れてから、代金を支払うまでの期間(仕入債務回転期間)
2.仕入れてから、販売するまでの期間
3.販売してから、代金が入金されるまでの期間(売上債権回転期間)
の3つを考慮しておかなければ、正しく資金繰りの状態の判断ができない、ということになります。ですので、この【2.仕入れてから販売するまでの期間】を表す経営指標を合わせて考慮する、ことが大切です。
棚卸回転期間(回転率)
ここで使うのが【棚卸回転期間(回転率)】という経営指標です。この指標は【在庫回転期間】とも呼ばれます。
棚卸回転期間 = 365日 ÷ 棚卸回転率
= BS棚卸資産 ÷ PL 売上高 × 365日
棚卸回転率 = PL 売上高 ÷ BS 棚卸資産(当期・前期末の平均値)
これらの指標は【商品を仕入れてから売れるまでのサイト】を表しているものです。
棚卸回転期間は「仕入れてから売れるまでの日数」を指します。厳密なことを言うと【仕入れてから在庫となってる期間】を表しています。
この棚卸回転期間が短ければ短いほど、商品を仕入れてから在庫となっている期間が短く、よく回転している(よく売れている)ことを意味します。逆に期間が長い場合は過剰在庫、滞留在庫が存在している可能性を示唆します。
棚卸回転率は「棚卸資産が何回転したのか」を示したものです。飲食店などで「今日はお客さんが多くて3回転した」というようなものと同じ意味です。
例えば「売上高5000万円・棚卸高の平均が400万円」だとした場合、回転率は12.5(5000万円÷400万円)となります。12.5回転した、と言えるわけですね。
回転が早い(回転率が高い)ということは、それだけ「仕入れたら売上につながっている」という状態ですので、棚卸回転率は高い方が良いとされます。
ちなみに、この例で棚卸回転期間を計算すると、「365日÷12.5回転=29.2日」となります。仕入れてから約29日で売り上げとなっている。という意味になります。
回転率が12.5で、1年は12か月ですので、大体1か月弱(29.2日)で売れている(1回転している)と、なるわけですね。債権債務と同じく、慣れるまでは「回転期間」で見た方が分かりやすいと思います。
3つの指標で資金繰りを考える
3つの回転期間が出そろったら、次のように比較します。
1.【仕入債務回転期間】:【売上債権回転期間 + 棚卸回転期間】
2.【仕入債務回転期間】:【売上債権回転期間】:【棚卸回転期間】
1の比較は、【仕入れてから代金を支払うまでの期間】と【仕入れてから売上代金の入金までの期間】を比較している状態です。
この時、仕入債務回転期間の方が長ければ、支払サイトよりも入金サイトの方が明確に早い、と言えますので、『資金繰りの心配は少ない』と言えます。
しかし、「売上債権回転期間+棚卸回転期間」の方が「仕入債務回転期間」よりも長くなることは多分にあり得ます。そのため2の比較が重要になってきます。
2の比較は、状況把握のための比較です。前回は2つの指標での比較でしたが、今回は棚卸回転期間を含めた3つの指標の比較です。
これらを【定点観測】していくことで、「代金の回収・支払サイト、商品の販売サイトがそれぞれどのような傾向となっているのか」を見ることができます。
資金繰りが少し厳しい…と感じた時に、その原因は「代金の回収が遅くなったのか」「滞留在庫が増えているのか」「代金支払いが早くなっているのか」…など、指標の推移から状況を正しく読み解くことによって、適切な対策が可能となります。
なお、棚卸回転期間の【定点観測】を行う場合、「BS 棚卸資産」の金額は、【直近12か月の移動平均額】とすると良いと思います。
・令和2年12月時点 令和2年1月~令和2年12月の平均額
・令和3年1月時点 令和2年2月~令和3年1月の平均額
・令和3年2月時点 令和2年3月~令和3年2月の平均額
…以降1月ずつスライド
棚卸回転期間は有名な経営指標ですし、多くのところで解説がされていますが、こと【資金繰り】についてこの指標を用いる、と言っているところはあまりありません。
しかし『各指標の意味』を考えた時、棚卸回転期間・債権債務の回転期間の3つを合わせて見ることが、資金繰りを考える上では最も適していると思います。
全ての経営指標の『意味』を理解する必要はありませんが、指標単体の数値だけを気にするのではなく、今回のように『複合的に指標を見る』と経営指標の有効活用ができると思います。
さて、今回で本年(2020年)の記事のアップは最後となります。来年も簿記や会計、保険などの基本~豆知識といった記事を書いていきたいと思います。拙い文章かと思いますが、ご覧いただきありがとうございます。
皆さんは既に仕事納めをされているでしょうか?それとも年末年始もお仕事をされる予定でしょうか?コロナ禍となりますので、健康に気を付けて良い年をお迎え下さいませ。
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