フィギュアスケート選手のKPIマネジメント①
先日、年始のご挨拶でスケートの目標や目的を考えて見ましょうと提案をしました。
今年は3級に合格する!とか試合で優勝する!とか、ダブルアクセルをクリーンでとぶ!とか、、、そんな目標を立てた方が多いのではないでしょうか?
残念ながら、その様なゴール設定は良いゴール設定ではありません。何故なら、それは、自分でコントロール不可能なゴール設定だからです。
合格・不合格を判定するのはジャッジで、あなた自身ではないのでコントロール不可能です。
「ダブルアクセルができる様になる」はまだ目標としては級の合格よりは自分でコントロールできる内容かと思いますが、自分が飛べていると思っても、試合に行ったらqとか>>がついたりしますよね。
特に、最近はこれが段々厳しくなっていて、>>ばっかりの構成だと、結局はもっと簡単なエレメンツ構成にして挑んだ方が上位に入れる場合も多かったりします。
それを防ぐためには、エレメンツの完成度を数値で評価する習慣をつけることが非常に大切になります。
「ダブルアクセルができる様になる」よりも、
「ダブルアクセルをプログラムの中で加点されて成功させる」というゴールがより適正な目標といったところでしょうか?
この様なゴール設定をKGI(Key Goal Indicator)と言います。KGIは目標を達成したか測定可能な指標を含むゴール設定のことです。
「ダブルアクセルができる様になる」:測定不可能な目標よりも、
「ダブルアクセルをプログラムの中で加点されて成功させる」と言う測定可能な目標の方がそのためにやるべきことを明確化したり、達成出来たのか出来なかったのか後から評価しやすくなります。
今日はこの、「フィギュアスケート選手のKPI(測定可能な目標設定の仕方)」のテーマのお話をします。
例えば、私自身今年は怪我からの復帰シーズン2年目で、ダブルジャンプに挑戦したいです。ダブルジャンプがまた飛べるか、どの種類が飛べるかはやってみないとわかりません。更に、試合で出来るかどうかは、オリンピック選手だって失敗するのですから、それこそやってみないとわかりません。
「フィギュアスケートは計画が立てられない性質のものだ」と言う指導者もいます。それは、最初に私が例に出したような試合での順位やバッジテスト合格級など、自分でコントロールできない目標や計画を立て、それを今年中に達成したいと、今の自分の現状を横に置いて申し出る選手には、立てても無駄な目標や計画となってしまいのだと思います。
私は様々なクライアントの、痛みの原因を探し出しそれが改善する方法を探したり、怪我が起こらない様に予防をどうするか考えたり、インソールを使ってエッジに乗りやすい様にする方法を考え、ジャンプなどを安定させる方法を探す試行錯誤など、インソールやフットアライメントソリューションを使い、選手の限られた時間の中で、課題解決するのが仕事です。
そのためには他の選手の改善例や、一般的な症例から一定の仮説を立て、現状の課題を一つ一つ確認する作業が必要です。特に15年前はスケーターの足について、私には誰も指導者は存在しなく、現在も世界で他にスケーターの足やインソールを専門でやっている人は私の仲間以外はいないので、未知の課題を常に解決する挑戦に迫れらています。世界中のリンクを周りながら、限られた条件で常に目前の選手の問題解決をするには、PDCA(計画を立て実施し、結果を評価し次の対策を取ることが必須でした。
こちらはアメリカのPSA(Professional Skating Association)の雑誌、2021年1月・2月号の10-13ページに掲載されている、スポーツ心理学者Garrett Lucash氏の論文です。彼はスポーツ心理学の観点から、目標設定の仕方やそれを達成するためのサポーターがどういった働きかけをすべきかと言うことについて触れています。また32ページにも9歳から14歳の選手に対して、どの様にコーチングする立場の人はアプローチをすべきかと言う別の記事もあります。ここでは今日の紹介内容と同じことが英語ですが書かれています。
スケート選手のKPI(測定可能な目標数値設定)に戻ります。
では先程決めた目標KGI、私が「ダブルサルコウをプログラムの中で加点されて成功させる」達成するには、どんなプランを立てれば良いのでしょうか?
今世界のスポーツ科学界では、
パフォーマンスのKPI (Key Performance Indicator)管理を
多くのプロチームで取入れています。
KPI管理 とは、
「これが出来たら成功する要因」CSF( Critical Successful Factor)
を数値で測れる指標の設定をすることです。
具体的には、
例えば私が「ダブルサルコウをプログラムの中に入れる」ためには、
評価する側が見て、安心してプログラムに導入できるだろうと言うレベルまでダブルサルコウの完成度を上げなくてはなりません。
それを成功させる為のCSFは、
動きをコントロール出来る事
1)バックインサイドエッジに安定して乗れること
2)今の自体重でダブルを回る十分な高さを飛び上がれること
3)飛び上がってから体重移動ができること
それに対照するKPIは、
1)自分の身長の1.5倍の直径の円の上に、左足バックインサイドエッジで最低15秒間ぐらつかないで維持する
2)左足の踏み切りから空中姿勢、着地までのパワーポジションの角度のブレ(誤差)を10%以内にする。
3) 左足から右足への重心移動の範囲を8ポイント以内にする(Dartfish測定値)
更に試合で成功させるためには、プログラムで疲れないための①筋持久力と②全身持久力の向上が必要なので、
CSFは 疲労しない身体をつくる
3)プログラムの中盤に持ってきても足が疲労せず、練習通りに踏み切れること
4)激しいステップシークエンスの後に入れても、息が続くこと
それに対照するKPIは、
3) スクワット 荷重40キロ*12回*3セット
4) 20メートルシャトルラン 9.5メッツ(33ml/kg/分)
となります。
「ダブルサルコウをプログラムの中に入れる」と言う目標はそれが出来たとしても試合の成績の一部分となりますので、もう少しシーズン目標は大きく捉える必要があります。
そこで作ってみた私の2021年シーズンのスケートの目標KGIは、
「ダブルサルコウをプログラムで成功させて、5月の国際アダルト選手権で優勝すること」
正しい様ですが、まだ少し足りない部分があります。
自分のKGI(Key Goal Indicator)が達成された=ダブルサルコウがプログラムの中で飛べたとしても、たまたま一緒に戦った選手より総合点が高く優勝する可能性があるかもしれませんが、トリプルサルコウをプログラムで成功させる選手がいたら、勝ち目は低くなります。
もしくは、ダブルサルコウを私がプログラムで成功させても、他の部分で点数が低ければ優勝はできません。それなので、
「ダブルサルコウをプログラムで加点成功させ、5月の国際アダルト選手権でベストパフォーマンス85点を超えること」
の方がより数値管理出来る目標(KGI)なのではないでしょうか。
そしてそれを実行させるためのプロセスは、
私の場合は、
CSF 練習を継続すること
1)健康管理を実行し喘息発作が起こらない様に対策を取る→練習を継続できる
2)練習前後のコンディショニングを実行し怪我をしない様にする→練習を継続できる
3)スケートの時間を確保できる様に週に2日は仕事や家の用事を最低半日休みの日を作る→練習時間が確保できる
対照するKPI
1)かかりつけ医に最低3ヶ月に一度は症状がなくても通院し、予防をする。睡眠を7時間(週に最低52時間取る)。常備薬Aを2週間分、Bを1ヶ月分必ず持つ。
2)練習前にトレーナーと一緒に決めたメニューの実行率を8割以上とし、心拍数を100以上、最低10分出来るだけ20分のウォームアップをする。練習直後に糖質10gを練習10分以内、タンパク質15gを30分以内に摂取する。練習帰宅後は筋膜リリース・ストレッチメニューを15分実施する。
3)毎週14時間の予定無し時間を確保し、その時間は予定を入れない。
と言うこととなります。
ちょっと難しく思われた方もいると思いますが、簡単に言うと今シーズン達成したいことを図れる指標で管理することがKPI管理です。
スケート選手活動を通して何を達成するのか?
好きなことに出会い、毎日スケートリンクに学校や他の活動と両立しながら、時間や予算のやりくりをして日々の練習に通い続けている、努力家の方々が競技スポーツ参加者なのだと思います。
「スケートという経験をどう人生に活かすか」
レベルや年齢、趣味を問わず、スケートをしている方に共通した大切な目的の一つだと思います。
先程紹介したPSAの雑誌には、昨年からパワハラ・セクハラ防止の内容が毎回出て来ます。それは、近年スポーツや子供の人権の世界でも、事実を事件としてメディアが公表し、同じ問題が二度と起こらない様にする為の対策をしなくてはならないという、世の中の流れになってきていることがあるからです。
勝てば良いという時代が終わり、究極的にはスポーツは、人間として成長する為の一つ手段として取り組むのが、現代のスタンダードになって来ているからではないのでしょうか?
お金や時間が非常にかかるフィギュアスケートは、今の時代の流れの中で、スケートを続ける人が減少してしまう現実があり、ISUやPSAなども裾野を広げる活動に必になっている様です。
スケート選手の裾野を広げる活動は、やりたい人が多くても、リンクが不足しているため国内では難題だと思います。しかし、スケート選手活動を成長過程に良い影響を与えようというスタンスは、日本のスポーツ界でも始まっています。日本フィギュアスケートインストラクター協会のHPにも数年前から、この様な宣言が掲載される様になりました。
プロセスを考えると言うことは、抽象的なことや、感覚的なことではなく、
今日紹介した内容の様に、
具体的な目標数値やステップを作れば、実践も反省もしやすく、継続的に改善・上達・向上をしていける=スケートの練習が積極的になり楽しくなれるのではないかと思います。
ご自身の考えた目標と比べてみたり、計画を考え直してみてください。KPIやKGI管理という手法は、スポーツだけの特有な管理方法ではありません。ビジネスマネジメントでは、日本語でも書籍や情報はありますので、参考にしてみてください。
尚、通常KPIやCSFは複数ではなく一つ作ります。私は上記で複数作成しましたが、できれば時間をかけて一つに絞り込めた方が良いです。私自身も、KPIをもう少し絞り込みをして、必ずダブルサルコウが出来るようにチャレンジしようと思います。
今日は考え方をわかりやすく伝えるために第一弾としてフィギュアスケート選手のKPI管理を描いてみました。ご意見お待ちしています!
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