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解決すべき問題が複雑になり過ぎたソリューション営業の憂鬱

私が新卒で入社した会社のネットワークセキュリティ事業部には2つの営業部があった。ひとつは直接販売(直販)チーム、もうひとつは代理店営業チーム。
当時新人だった私は代理店営業チームに配属された。ラッキーだと思った。直販営業はアクの強いお客様にペコペコして文句言われながらなんとか買ってもらう泥臭い仕事で、代理店営業は冷静かつクレバーに代理店へ商品を流していくクールな仕事だとイメージしていた。勝手なものである。

御用聞きになりがちなソリューション営業

IT業界ではよく直販営業は「ソリューション営業」、代理店営業は「プロダクト営業」「チャネル営業」などと呼ばれる。問題解決するためのITシステム提案だからソリューション提案なのだが、現実的には「御用聞き営業」であることが多い。なぜか?

後述するが、顧客の抱える問題をよく理解して、適切なソリューション(=ITシステムの活用方法や、複数システムの組み合わせ)を提案できる営業マンは稀有である。
それでも予算を持つ営業は顧客に何か買ってもらわないといけない。それであれば足繁く通って信頼を得て顧客から「こんな問題があって、こんなシステムを検討しているんだよね」という一言を引き出すしかない。実際企業のIT部門はだいたい毎年テーマがあって、年度予算を申請しているので「やらないといけないこと」は、顧客自身が把握している。
それを聞き出す=営業活動と表現しても言い過ぎではないだろう。つまり「なんかないですか?」もしくは「ウチの商品 or 特定分野はこれらです。どれからご興味ありませんか」となるべくたくさんの顧客に聞きに回るのが現実的な営業努力だ。

さて、それではなぜ営業は顧客の問題を理解してソリューション提案することができないのか? それは、分かりやすい簡単な問題(=簡単に目に見える問題)はもう解決済みで、今残っているのはすごく難しくて複雑な問題ばかりだからだ。

昔はたくさんあった、目に見える問題

今50代の部長・課長が若手だった頃は、ビジネス環境が全然デジタル化されていなかった。
ようやく原始的なインターネットがビジネスに使われだして、先進的な企業が電子メールを使いだした。その前だと資料や伝票送付手段はFAXしかなく、プレゼンテーション資料はPowerPointではなく手書きだった。
その後社内ネットワークがTCP/IPベースのLANとなったものの、拠点間は1Kbpsの専用線やフレームリレーで接続され、基幹システムの原型のようなホストコンピューターにはダム端末なる専用端末とレガシーなネットワークで接続されていた。

そんな環境だとITのベンダーは提案するものがたくさんある。
ATMやフレームリレーと呼ばれたレガシーWANをインターネットVPNにして広帯域化とコスト削減を同時に実現し、複合機をLANに繋いでPCにインストールされたドライバーから印刷依頼をかけて受信したFAXはNASに放り込まれる。
LinuxやWindowsサーバーを用いたダウンサイジング提案より企業内システムはパワフルかつ安価になった。
PCが一人一台になるとActive Directoryが必要になり、エンタープライズ向けアンチウィルスソフトを全PCにインストール、その後は資産管理ソフトだ。迷惑メール対策しようとかWEBサイト閲覧禁止フィルタリングとか、さあ次はあれを提案しようというものがドッサリあった。

平成が終わり今や令和。一般企業における多くのベーシックな問題は解決された。物理アプライアンスのリース切れやサポート切れによるリプレースという5年に一度のお祭りにSIerが群がっていたものだが、今や仮想化やクラウド化によりそのような案件も激減してしまった。(そもそもリプレース提案は問題解決提案ではない。)

令和の今日、解決すべき問題とは

本当はそういうときこそ顧客の隠れたニーズを引き出すソリューション営業マンたちの活躍の場なのではないかという気はする。

だが、今のトレンドとしては、いかに今のユーザー部門の事業をデジタル化させて劇的に生産性を高めるとか、AI化できる業務フローを分析してピンポイントにAI導入して人間の手仕事を排除するとか、そんな技術的にもビジネス的にも難しい問題ばかりなのだ。TCPとIPの違いも説明できないSIer営業マンにAIのソリューション提案を期待するのは酷であろう。

ITは難しい。コモディティの代表格であるWindows PCだってどうやって動いているのか細部まで説明できる人はすごく少ない。だからIT営業は難しいことを簡単に顧客に説明できないといかず、我々はたくさんのIT用語を活用して顧客や同僚とコミュニケーションを取っている。

「グループウェアです」
「ファイアウォールです」
「VPNです」
「仮想です」

しかし、現代の難しい問題はそんな一言で話が付かない。とにかく説明もヒアリングも難しい。

だから「製品なんか何だっていい(※製品のことなんてよく知らない)。顧客の課題をヒアリングしてソリューションを売るのだ(※仲良くなって御用聞きして何か買ってもらうのだ)」なんていう伝統的ソリューション営業のコンセプトはもう通用しないと思っている。
なぜなら製品のことを深く深く理解しないと、それが顧客の複雑な問題を解決できるかどうか分からないからだ。取扱製品が何十個もあっても、提案機会を作らなければ意味がない。営業から能動的に顧客に問題解決提案しないと案件は増えないのだ。

特定業務分野や技術分野に理解力あり、自社製品に精通し、そして伝統的営業マンのようにフットワークが軽くてコミュニケーション力に優れている。そんなプロフェッショナル営業たちが、次の時代を作り上げていくのではないかと思っている。

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