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私の人生を変えた恋のまほう

私の人生を変えた教えがある。その教えは、浅田悠介さんの「わたしは愛される実験をはじめた」につまっている。

この本は、恋愛の仕方がわからない人に対して、恋を成就させるための方法を1から説明している。いわば令和のバイブルである。この本には「私はこうやって恋人をつくった!」という体験記や、「この一言を言えばいい!」といった小手先のやり方は載っていない。

経験則にもとづいた方法ではなく、心理学(恋愛認知学、と本書では記されている)をもとに、恋を叶える方法が書かれている。気になる人と、どう仲良くなって、どのようにデートにこぎつけ、恋人になれるのか。なぜその方法を実行することで恋が叶うのか、背景にある理由も丁寧に説明されている。

私が浅田さんに出会うきっかけを作ったのは、Twitterだった。「とりあえずフォローしておいたら恋が叶う」という触れ込みで、浅田さんのアカウントが紹介されてきたのだ。(ほーん、フォローさえすればいいのか)と、あまり触れ込みは信用せず画面をタップした。ご利益があればラッキー、くらいのテンションだった。

けれど、浅田さんの恋愛や人間関係、夢を叶えるために必要な言葉がタイムラインを流れるたびに、新たな発想・考え方にジワジワと衝撃を受けた。そのころ、私は恋愛が上手くいっていなかった。それもあって、浅田さんの言葉をもとに勉強させてもらうことにした。浅田さんは、派手に人を煽るような言葉は一切使わない。やわらかい言葉でしっかり心を刺しにくることはあるけれど。

「恋愛においては、リアクションではなくアクション」

「はじめてのデートの目的は、次のデートにこぎつけること。それだけ」

など、私はあっという間に彼の言葉に引き込まれていった。

あるとき「インスタライブやってます」というツイートが飛び込んできた。これは行くしかない。ドキドキしながらURLを踏んだ。そこにいたのは、関西弁で色白の、優しそうなお兄さんだった。話を聞いていくと、前はマジシャンをしていたらしい。どんな経歴やねん、ライブ途中に鳩でも飛び出だしてくるんだろうか。

先に言うと、鳩は飛び出てこなかった。代わりに出てきたのは、Twitterで見ていたような、素敵な助言の数々だった。浅田さんは、観ている人たち全員に言葉を伝えるというより、質問してきた一人ひとりに対して言葉を伝えるタイプ。例えば、

「人の嘘を見抜けるようになりたい、恋人が浮気していないか疑ってしまう」

という質問には、嘘の見抜き方ではなく、恋人へ自分の不安を具体的に説明するためのアドバイスをされていた。質問者の言葉の背景にある、本当の気持ちを読み取ってアドバイスをするのだ。そのため、似たような質問が来ても、答え方は様々。質問してきた一人ひとりに対して、真摯におだやかに応える姿が印象的だった。

そうこうしているうちに、浅田さんは先ほど紹介した本「わたしは愛される実験をはじめた」を出版した。めっちゃ売れてた。私も入手した。本は、小説と、小説で解説したメソッドのまとめ、という2部構成だ。ちなみに本作品はWebコラム、書籍、マンガの3形式で出版、連載されている。それぞれストーリー、紹介されている方法が少しずつ異なる。なので全部読むと、さらに恋愛強者になれるのだ。私は、それらを手に入れて、目から鱗をザクザク出しながら、恋愛する準備を整えていた。

そんなとき、私は大学の先輩たちも参加する飲み会に行くことになった。以前気になっていた先輩とも会うことができた。相変わらず笑顔が可愛い。着慣れたネルシャツにも、キュンときた。そのとき、

(浅田さんに教えてもらったことを活かしたら、この人とお付き合いできたりするのかな?)

という考えが、ふとよぎった。やってみようかな、どうしよう。ひとしきりウジウジ悩んだ結果、ひとまずやってみることにした。

まずは2人でご飯に行くところからだ。でもどうしよう、なんて誘おう。ドキドキで頭はフル回転だ。結局、その日はなんにもできなかった。けれど、飲み会で話していた「最近転職したんだよね~」というひと言をもとに、

「私も転職を考えているんですけど、相談に乗ってもらえませんか?」

とlineでお誘いし、何とかお茶の約束を取りつけた。

当日、私は面食らうことになる。その人は転職活動のときに使っていたノート、エクセルデータなどを持参してくれていた。

「業界は今と同じところが志望なの?」

などマジメに聞いてくれる。めちゃくちゃ丁寧に相談にのってくれるやん…!転職を口実にしただなんて、口が裂けても言えないな。結局、その日はしっかり進路相談をしただけになった。将来の参考にはなったけれど、恋を進められてる気がしなくて、浅田さんの動画を見返す。

「相手との関係を深めるには、恋愛の話をすること。レモンの話をすると唾液が出てくるように、恋愛の話をすると、恋愛をしたくなってきます」

…ふえーん、今日は全く恋愛の話してないよう。私はくちびるを尖らせながら、次の作戦を考えた。作戦をたてることに難航していると、先輩から、

「休みの日はよく映画館にいくよ」

と返信が来た。むむ、映画の話題からなら、恋愛トークに繋げられるかも。

「最近はどんな映画を観ましたか」

と送ってみる。

「映画館で観た作品?それともDVDで観た作品?」

ん~?映画館でも家でもメチャクチャ映画観てるってことかな?しかも話を聞いていくと、AmazonPrimeやNetflixには加入してないとのこと。なんだと!?なんて不思議な人なんだ…。と、思惑どおりとまでは行かなかったものの、その後も会話は続き、恋愛映画の話に花を咲かせることができた。主題歌をお互いオススメしあったり、好きなシーンの話をしたり。そこからは、スムーズに仲を深めることができた。一緒に映画館に行ったり。好きなジブリ作品で盛り上がったり。

しだいに、デート前は緊張で吐きそうだったのが、だんだん無くなってきた。前日から浅田さんの本を読み込まないと不安でしかたなかったのが、楽になってきた。そんなことを言いつつ、ダラダラ1年間おともだち期間をつづけた。ただ、だんだん彼の気持ちが私に向いてきてくれているのを感じた。

「来月いつ会う?」

「もう帰るの?もう少し散歩しよ」

と、一緒にいたいと思ってくれていることが伝わってきた。仲良しにはなれた。でもお付き合いはできてない。どうしたものかな、と浅田さんの本を見返す。ビビッてチラ見しかできなかったページを直視した。

「貴女から告白してもいい」

そういったことが書かれてあった。その一言に納得していたものの、勇気が出ないでいた。悩みながらまた先輩に会う。緊張で言葉が少なくなってしまう。そんな時、

「次の休みも空いてる?」

と先輩が声をかけてくれた。告白するなら今日しかないと思った。そのあとは。帰り際にベンチに座るよう促して、小一時間唸りながら告白した。正直、何を話したか、恥ずかしくて思い出したくもない。でも、そのとき恥をかいたおかげで、今先輩は私の恋人になっている。

恋愛なんて、しなくてもいい。

けれどどうしても、その願いを叶えたいなら、令和の魔法使いの力を借りるのも遅くはないと思う。


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ねね@ライター_作家
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