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文法を粉砕する美しさ

『瀧口修造の詩的実験 1927〜1937』1967年、思潮社 1971年に小型版が出た後しばらく版を重ね、2003年に復刻されたようだが、品切れ。
これは、恩師ジョセフ・ラヴさんから、「預かっている」もの。ラヴさんは1992年に亡くなったので、返しようもないのだけれど、そういう意味では、他にもたくさんのもの、ことを預かっていて、お返しできていない。もちろんラヴさんにも、世の中にも。
カトリックの神父で、美術評論家で、画家で写真家でもあったラヴさんは、60年代から80年代前半、内外の美術雑誌や個展のカタログに、たくさんの評論を書いている。現代音楽や現代詩にも造詣が深く、そんな中で瀧口修造氏とも親交があったのだろう。
もちろん青年期の麻疹みたいなもので、シュルレアリスムには興味も情熱も持っていた。でも、絵画に増して、言語のシュルレアリスムは、難解で、歯が立たなかった。
「蚊の五十階からすべての豚を数えよ」と言われても、具体的に何をすればいい?(笑) 何にもわからないのに、ただ字面、音、イメージの美しさやおぞましさは強烈だ。
「黒い花園の貝殻の寝床」…「黒い」はどこに係るのかというのが国語の授業だとしたら、そんなものを粉砕する豊かな広がり。続いて「ぼくは裂かれた雨たちの音を聴く/曲がった虹の青ざめた乳」…これなら少しは「わかる」と思うが、同時に「わかる」ことの無意味さに、既に気付いてしまっているので、ただ言葉を言葉としてだけ呑み込もうとする。
ぼくの現在は、ほとんどこの辺りからできていて、この辺りで終わっているのかもしれない。

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