見出し画像

2050年カーボンニュートラルへの道筋

今回も新聞ネタである。

我が家で購読している『日本経済新聞』を眺めていると、ここ最近、連日のように「脱炭素」関連の記事が紙面を賑わせていることに気づく。

12月10日の朝刊(東京本社版)を例にとると、
◆第1面:「新型EV電池 官民で実用化 20年代前半トヨタが搭載車」「電力会社に排出枠 経産省検討 再生エネ拡大促す」
◆第3面:「EU、排ガスゼロ車3000万台 30年まで、普及15%目標」「きょうのことば 全個体電池」
◆第4面:「グリーン外交 米欧と協調 首相、米気候サミット参加検討」「国の施設 3割再生エネ 政府、来年度から 脱炭素けん引」
◆第5面:「電動車 政策で民意後押し 脱ガソリン車 戦略と課題」「脱炭素技術 1兆円輸出へ」
◆第6面:「複眼 温暖化ガスゼロへの道筋は」……
といった具合である。

菅首相が就任早々に「2050年までに温暖化ガス排出実質ゼロ」を宣言し、政府が先日発表した追加経済対策に脱炭素化技術を支援する2兆円の基金が盛り込まれるなど、「脱炭素」は菅政権の経済政策の目玉として定着しつつあるようだ。

我が国は、これまで、国際社会から地球温暖化対策への取組が不十分であると目され、温暖化ガスの削減目標や再生可能エネルギーの発電割合の目標等に関して一層の積み増しが国内外から求められていた。そのような観点からも菅政権の積極的な姿勢は歓迎すべきであり、また、産業構造やライフスタイルの世界的な転換に後れを取らないためにも、温暖化対策の大胆な推進は必要不可欠であろう。

政府の方針に応えるように、産業界や自治体も脱炭素へと大きく舵を切り始めている。例えば、東京都では、小池知事が2030年までにガソリン車の販売を禁止することを明言した。新聞紙面における脱炭素関連記事の賑わいも、このような社会の大きな変動をとらえたものと考えられる。

ところで、このような「脱炭素フィーバー」とも言える新聞紙面の論調の中で、それらと冷静に距離を置こうとするものとして注目すべきであると感じたのが、国際環境経済研究所主席研究員の竹内純子氏の発言である。以下に、少し引用する。

……化石燃料の直接利用を減らし、すべて電化していくと地方のガソリンスタンド、ガス事業者などの雇用やサプライチェーンが維持できない。災害へのレジリエンス(しなやかな適応力)も低下しないか。
 化石燃料ゼロにこだわると、低炭素化投資がかえって進まない懸念もある。石炭から天然ガスへの切り替えは温暖化ガス削減に有効だが、30年後に化石燃料を全面的に使わなくなるとしたら、事業者は投資を控える。ガソリン車の燃費向上技術への投資もなくなる。「少しずつの改善」が排除されかねない。(「複眼 温暖化ガスゼロへの道筋は」『日本経済新聞』2020年12月10日)

竹内氏の議論は、実現する保証のない非連続的なイノベーションに過大な期待を寄せるのではなく、より現実的で漸進的な解決策を探るべきであるという指摘であると思われる。まさに正論であり、長期的な排出削減目標は、目前の課題への着実な対処を積み上げることを通じて目指すものであるという考えも理解できる。

その一方で、気候変動対策は今や待ったなしの喫緊の課題であり、また、化石燃料から再生可能エネルギーへの燃料転換や産業構造転換は、もはや不可逆的な世界の趨勢であるとも言える。

少子高齢化・人口減少社会である我が国において、自動車販売台数の総数が増える見込みはなく、今後EV車や、水素を燃料とするFCV車の販売台数が増加すれば、その分、確実にガソリン車の販売台数は減少するだろう。
そうであれば、ガソリン販売事業者も、徐々にではあれ事業内容の見直しを図って行かざるを得ない。
例えば、(素人考えであるが)既存のガソリンスタンドを、EV用の充電スタンドやFCV用の水素ステーションを併設するなど、多用途施設として転換していくことも考えられる。
(EVの充電には一定の時間を要するため、ガソリンスタンドでの充電は不向きであるとされているが、全個体電池とよばれる新型EV電池であれば10分程度で充電できるようだ。)
政府は、そのような事業転換を後押しするために、必要な規制緩和や設備投資への支援等によって積極的にサポートしてほしい。

それぞれの業種が、技術革新の進捗度合いも含めた時代の変化に柔軟に適応しながら、雇用を維持しつつ、ダイナミックな事業転換で活路を見出して行けるよう、ここは、国も、自治体も、産業界も知恵の出しどころであろう。

さて、上に引用した特集記事のテーマは「2050年温暖化ガスゼロの達成の道筋をどう描くのか?」であった。

脱炭素社会の構築に向けた具体的な工程表を明確に示すことは、産業界が中長期的な事業内容の最適化を図っていく上での目安としても重要である。
政府は2021年に新たなエネルギー基本計画を公表する予定であるが、その際には、2050年カーボンニュートラル実現のための、年限を区切った(例えば5年ごとの)各電源の構成割合の目標値をぜひ設定してほしい。
あわせて運輸部門や製造業部門についても、温暖化ガス排出実質ゼロの道筋を示す具体的な計画を早急に策定することが望まれる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?