SATOSHI

令和2年3月末に、35年勤めた職場を退職しました。インドア派・無趣味。ロシア文学のこと、行き当たりばったりの読書記録、その他心に移りゆくよしなしごとを気ままに綴っています。

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    ロシアの最近の新聞記事等を試訳・要約して紹介します。

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最近の記事

加藤隆『一神教の誕生 ユダヤ教からキリスト教へ』

旧約聖書における神=ヤハウェの位置づけに興味があった。 旧約聖書は民族宗教であるユダヤ教の聖典である。そこで崇められている唯一神であるヤハウェは、そもそもユダヤ民族の神である。ヤハウェは、エジプトで囚われの民であったユダヤ人たちの脱走を成功させ(モーセによる出エジプト)、その後ユダヤ人たちを導き、カナンの地(パレスチナ)への侵入、定住を実現させる。そうであるならば、旧約聖書における神=ヤハウェは、パレスチナの土地に対するユダヤ民族の排他的権利を承認しているように思われる。

    • 文章について

      天才とは1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である。 誰もが知るエジソンの名言だ。 ネットで検索すると、英語では “Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration.” と言うらしい。 “inspiration”と“perspiration(汗、発汗)”で韻をふんでいるのがミソだ。 エジソンがこのとおりに言ったかどうか分からないが、どうやら、そうした意味の言明は実際にあったよ

      • 加賀乙彦『ドストエフスキイ』

        加賀乙彦『ドストエフスキイ』(中公新書、1973)を読んだ。 加賀は「ドストエフスキイの文学を解く鍵の一つは癲癇である」と言う。 「あとがき」でも強調されるこのような立場から、ある疑いを抱いてしまいそうになる。 著者は「ドストエフスキー文学の核心」に先立って「まずてんかんありき」という固定観念にとらわれていなかっただろうか? たしかに、ドストエフスキーには「てんかん」という固有の疾病があった。また、彼はしばしば登場人物に「てんかん」の持病を与えた。最も有名なのは『白痴』

        • 加賀乙彦『宣告』を読み終えて

          『宣告』(新潮文庫)の下巻をようやく読了した。 小説の主人公である死刑囚楠本他家雄の運命はすでに最初から決まっていた。 全七章のうち第五章の途中から最終章までを収める下巻は、そのようなあらかじめ決定済みの結末に向って急展開で進んで行った。 * 「他家雄がどのように「死」という結末を迎えるのか、果たしてそこにひとすじの光を見いだすことが出来るのか否か、それをしかと見届たいと思う。」 前回の投稿でそのように記した。 その問いに向き合ううえで圧倒的に重い意味を持つのが第六

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        記事

          加賀乙彦『宣告』-読書の途上で-

          加賀乙彦の『宣告』を読んでいる。 新潮文庫で上・中・下の3分冊、合計1,462ページの大長編小説である。 長いだけではない。内容もなかなかの難物だ。そのうえで文句なく面白い。 現在、ようやく下巻を読み始めたところで、全巻読了してからなにかしら読書の痕跡を note に残したいと考えていた。 そんな折 note事務局から「連続投稿記録41ケ月」達成に向けた励ましの通知(笑)をもらったので、途中経過というか論点整理というか、そうしたものを綴ってみようかと思いたった。 * 『

          加賀乙彦『宣告』-読書の途上で-

          神田川を半分歩きました。

          梅雨前なのに堪えがたい猛暑の日々の合間、たまたま気温もさほど上がらず比較的過ごしやすかった6月某日、東京の地形に詳しい元職場の友人Mさんと神田川を歩いた。 Mさんとは、4月に隅田川(両国橋から上流部分、約8キロ)、5月に目黒川(全長約8キロ)を歩いていて、今回が3回目の川歩きだ。 神田川は井の頭公園の池を源流として東京都心を横断し隅田川に合流する全長約25キロ、東京都屈指の「長い」川だ。 一日で歩きとおすのはきついので、今回は源流から東中野までの西半分約12キロを歩きまし

          神田川を半分歩きました。

          丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

          わたしは一人の作家が気になりだすと、飽きるまで読み続けるという癖がある。 丸谷才一もそんな作家のひとりだ。 昨年の暮れから読み始めて、『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』と、まるで亀の歩みのようにのろのろと読みすすめ、先日『裏声で歌へ君が代』を読み終えた。 (その間、図書館で借りた『忠臣蔵とは何か』は早々に挫折した。) 『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』については、すでに note に感想めいたものを投稿しており、ここでは『裏声で歌へ君が代』(1982

          丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

          映画『マリウポリの20日間』を観て

          4月26日公開の『マリウポリの20日間』を観た。 マリウポリはウクライナ東部ドネツク州、ロシアとの国境近くの工業都市だ。 2022年2月24日にロシアが一方的にウクライナ侵攻を開始してから20日間、AP通信記者がマリウポリに入り、取材活動を行った。 映画は、ロシア軍のミサイルや戦闘機の爆撃を受け、戦車に包囲された地区で記者のカメラがとらえた映像を、1時間半にわたって編集したものである。 すべてが見るに耐えない悲惨な現実だ。 たとえば爆撃された産院から運び出される妊婦の姿。

          映画『マリウポリの20日間』を観て

          奇妙な話

          いわれのない悪意や敵意に出会うこと、そんな経験は誰にでもあることなのかもしれないが、時としてなんともやりきれない、いやな気持ちになるものだ。 * 『罪と罰』という世界文学史上で十本の指に入るような作品を、過去にもう何度も読んでいるのだが、数日前からまた読み始めている。 この作品については、以前この場を借りて個人的な評論めいたものを計11回にわたり発表した。それは、この作品の意味について自分なりに永い間考え抜いてきた、その結論を曲がりなりにも形にしたものだった。 ところが

          奇妙な話

          墓じまいの話

          積年の懸案だった「墓じまい」をついに断行することとなった。 母が亡くなるまでは、と先送りしていたのだ。 6年前に父が他界してから実家の墓の管理を担うことになったのだが、これが思いのほかたいへんだった。 墓地は実家の菩提寺の境内にあるのだが、家から片道2時間程度かかり、そんなに頻繁に行き来することができない。それを言い訳にして、せいぜい年に2回春と秋のお彼岸くらいしか墓参りをしなかった。 その結果必然的に、春のお彼岸には厚く積もった枯葉の掃除、秋のお彼岸には大量に生い茂った雑

          墓じまいの話

          紙の本に復権のきざし?

          以下は、2023年の3月に公開し、その後ある事情で削除していた記事を、若干修正したうえで、再掲載するものです。 * 新聞で意外な記事を読んだ。アメリカで紙の本の人気が復活し、「約10年続いた(書店の)店舗数の縮小傾向に歯止めがかかってきた」とのことだ。 2021年の米国市場での紙の書籍販売が、調査を開始した2004年以来で過去最高(8億2800万冊)を記録したというのだから驚きだ。新聞記事は、コロナ禍による「巣ごもり需要で読書ブームが再燃」したことが需要反転のきっかけで

          紙の本に復権のきざし?

          リピートする快感

          ネットフリックスでドラマ「ブラッシュアップライフ」(全10話)をいっきに見た。 2023年に日本テレビ系列で放映された連続ドラマだ。 安藤サクラ主演、脚本がバカリズムという一癖も二癖もありそうなドラマなのだが、見始めたら止まらない、とにかくめっぽう面白かった。 安藤サクラ演じる主人公のあーちんこと麻美は若くして事故死するのだが、死後案内所で受付係(バカリズム)から来世は南米のオオアリクイだと告げられ、ショックを受ける。 「いやなら今世を生きなおすこともできますよ」とのこと

          リピートする快感

          時間・自由・芸術

          丸谷才一の『たった一人の反乱』(1972)を読んだ。 それなりに面白く読んだが、正直言って、この小説にはさほど強い感銘を受けなかった。 なによりも主人公である「ぼく」にほとんど共感することができなかった。 それはそうだ。 主人公の馬淵英介は、通産省のエリート官僚出身で、民間の電機会社の重役に天下りし、妻の病死後一年も経たずに若い美人モデルと再婚する人物である。 やっかみ半分と言われればそのとおりだけれど、そんな鼻持ちならない人間に感情移入などできるわけがない。 おそらく、

          時間・自由・芸術

          丸谷才一『笹まくら』

          金銭的理由はともかく、むしろ保管スペースがないことから極めて貧しいわたしの蔵書の中に、たまたま丸谷才一の文庫本が四冊混ざっている。 今回は、その中から『笹まくら』(新潮文庫)をとりあげる。 この本をいつ読んだのかまったく覚えていない。あるいは読みかけて放り出してしまったのかもしれない。 幸いなことに、今は、そういった放置されていた本とじっくり向き合う時間がある。 時間はあるが、一方で残された時間を無駄にできないという想いもある。 読んだことをなるべく忘れずにいたい。忘れない

          丸谷才一『笹まくら』

          ささやかな死

          朝早く電話がかかってきた。 母が入居する老人介護施設からだった。 「お母様の血中酸素濃度が80を下回っています。昨日よりさらにお加減が良くないようです。予定より早めに来ていただけますか」 その日は医師の往診に合わせて11時に施設を訪問する予定になっていたのだが、時間を早めてつきそってほしいとの用件だった。できるだけ早く伺うと答えた。 母が食事をとることが困難になりつつあると施設から知らされたのは、つい1週間ほど前のことだ。 細かくきざんだ流動食を介護士にスプーンで口に運ん

          ささやかな死

          丸谷才一『輝く日の宮』

          『輝く日の宮』(2003)を久しぶりに再読した。 いたく感動したというのでも、心を揺さぶられたというのでもないが、ひじょうに上質な物語を存分に味わったという心地よい充足感があった。 最初読んだときに面白いと思い、そのうちいつものように内容をあらかた忘れてしまい、いずれまた読みたいと思っていた。 大河ドラマの影響もあって、今年は『源氏物語』ブームになりそうな予感があり、そんなこともすこし再読のきっかけとなった。 読み終えてみて、あらためて、学識の深さと類まれなストーリーテ

          丸谷才一『輝く日の宮』