「エクスアストリス」リリース前考察
リリース直前となった、HyperGryphの新作買い切りスマホゲーム「エクスアストリス」について今までHPやTwitter、YouTubeで出てきた情報(2/24時点)などを元にゲームデザインや世界観などのテーマについて考察していく。
はじめに
今回の考察ではあらかじめ解説が必要な所からはいり、その後まとめとして考察となる構成になる。
フラクタル
「エクスアストリス」公式が旧Twitterで出したティザーFAQでは異星文明の世界観とデザイン上の表現を融合させるために幾何学図形やフラクタル図形を用いてステージデザインを行っているとの発言がある。
フラクタル図形には無限回特定の操作を行ったことで、部分が全体と相似するという特徴がある。多くの幾何学的な意匠から特にフラクタル図形に言及していることからゲームデザインにおいてフラクタルの持つ役割の大きさがわかる。
HPなどでも見られるマゼンタやシアンで描かれた複雑な線。リアス式海岸のような印象があることからこれも代表的な自然界のフラクタルである海岸線をモチーフにした意匠かも知れない。
カライドサイクル
子供用のおもちゃとして知られているカライドサイクルもゲーム内のチェックポイント?として用いられている。
変形しない剛体部分と関節と呼ばれる可動部分によって繋がっているリンク機構の一種であるカライドサイクルは特徴として無限回、回転させることが出来る。
『ツァラトゥストラはこう語った』
初回ゲームプレイ動画冒頭のゲーム開始画面の左上には薄っらと三段落からなるアリンド文字の文章が書かれている。(カウント動画内ラストの画面でも同じ文字列を確認)この三段落に分かれているアリンド文字の文章を右から①②③とする。その内、判読できた箇所は②のごく一部、③の一部だけとなった。
以下のアリンド文字の判読はDr.kamaboko(@ark_kamaboko)さんの対応表を参考にしている。
「?」:どの文字か不明箇所
「~」:判読不能部分
②の判読
二行目:h?????nyy?~
三行目:?hengednow
③の判読
一行目:atthettim??o?mo~o?e?ejou
二行目:goingtobein?your?i?e?othe~
三行目:beingwun??ha?by~
個人の力ではここが限界であったが、この箇所のアリンド文字の判読はタダトモさんの記事「《来自星尘》异星文字最全解读」の「异星文字破译总结(3)」において①以外の判読ができているため、個人的に判読できたものと比べていく。
②の判読
This traveler I have a relationship with him. He used to be here many years ago. his name is Zarathustra. But he has changed now.
③の判読 At that time you moved your ashes to the mountain. Now are you going to bring your fire to the valley? Are you not afraid of being punished by arsonists?
英文は「异星文字破译总结(3)」からの引用、ふりがなは筆者の判読になっている。比べると前後の単語のつながり、文字数の一致、「a」「e」などの似た字形からくるミスなどから「异星文字破译总结(3)」の判読結果は正確であると言える。
そして、この英文はニーチェの著作『ツァラトゥストラはこう語った』の第一部ツァラトゥストラの序説、第二節の冒頭1~3段落となっている。
一般に広がっている英訳と異なる部分もあるが、全体としての意味は同一となる。
「ライラ」(Laylah)
アリンドの生命の礎としてアストラモーフに宇宙生物の情報を与え、「リセット」を行っている「ライラ」、英語版における綴りは "Laylah" でありこれはヘブライ語で「夜」を意味している。そして、ユダヤにおけるタルムードやミドラーシュの解釈によっては夜、受胎や妊娠と関連付けられる天使とされている。天使としてのライラについては1909年出版、Louis Ginzberg著の "Legends of the Jews" を参考した。
天使ライラは女が妊娠すると精子を神の前に運ぶ。その精子は神によってどのような人間にするか、男か女か、強いか弱いか、金持ちか貧乏か、美しいか醜いか、背が高いか小さいか、太っているか痩せているかなどの性質を決められる。しかし、その人間の敬虔さと罪深さだけは自身の決定に委ねられている。また、ライラは夜の天使としてアブラハム(最初の預言者)の戦いを助けた話もある。
「エクスアストリス」におけるライラの役割の一つは同名の天使が赤子の性質を決めるために神の前に精子を運んでいるように、アストリスにどのようなアストラモーフになるのかの情報性質を与えることと考えられる。
日本版wikiのライラでは「ユダヤ教やキリスト教に伝わる、受胎を司る天使。魂の助産婦とされる。この世に生まれる前の幼児の魂を母親の胎内へ導く役目を持ち、幼児の魂に将来(人生)のことを教えるが、この世へ誕生する瞬間にそれを忘れさせる。」と記述されているが、 "Legends of the Jews" においては神に精子を届けるライラと魂を管理し導く天使は異なる存在と考える方が自然であり、間違った理解であると考えられる。
アストラモーフは「ライラ」こそが生命の根源であり、万物の創造主である「神」のようなものと考えている。しかし、ライラが天使であると考えると実際はアリンドに「神」は存在せず、ライラはただ宇宙のどこかの「神」(情報)の意志を体現した存在に過ぎないのかもしれない。(2/25,15:40追記)
考察
ニーチェの思想について
ニーチェは1844年から1900年の間ドイツに生きた哲学者である。彼は弱者が強者を恨む(ルサンチマン)からうまれたキリスト教道徳を原因として、科学哲学の発展により神なしで世界を理解できるようになった19世紀のヨーロッパを人間が生の意義を失い、既存の価値や権威を否定するニヒリズムに陥ってるとした。そして、ニーチェは神は弱者の自己保存のための手段であるとして人類の「生長」のために「神は死んだ(Gott ist tot)」と宣言し、既存の宗教的価値観によらず人間に備えられた力への意志によって自己を肯定し新たな価値観を想像する「超人」を理想的人間とした。
また、ニーチェは宇宙万物は永劫に回帰する円環運動であり、人間は無限に繰り返された無意味な生を生きているため個々の事象に対するルサンチマン(怨恨)に意味は無いとした。この永劫回帰の中で自己を肯定し、運命を愛するという最高の力への意志こそが「超人」への道とした。
永劫回帰
無限に繰り返される円環運動である永劫回帰的な意匠は「無限」「繰り返し」という形で「エクスアストリス」内に複数確認出来る。
永劫回帰そのものを提唱した『ツァラトゥストラはこう語った』の一節
フラクタル的な意匠
フラクタル図形は無限回の作業により無限に拡大しても全く同じ姿をみせるものであり、全く同じ世界が円環するイメージと繋がる。
カライドサイクル
無限に回せるリンク機構となっている。
ループする文字列
「エクスアストリス」のサブタイトルとなっている "segel mich zur sonne" 「私を太陽へ航海させる」はエクスアストリスティザーPVのラストでループする文字列として登場した。
さらに、発売日発表以降のタイトル画面やHP下部では66920160910294という謎の数列がループしている。
また、HP内で「ライラ」として載せられている画像の中央に羅列されている文章では~sie?eezimkeitimkur?emlebe?fin?en~という文字列がループしていた。
ループする文字列はこれら以外でも様々な場所でアリンド文字として確認出来る。
アストリスとアストラモーフ
アストラモーフはアストリスから産まれ、死ぬとアストリスに還り、再びアストラモーフとして命を得る。このことからアストラモーフは永劫回帰的な円環した終わりのない世界の循環を象徴する生命体といえる。
また、永劫回帰をテーマにしてるため輪廻転生のように悟ることで円環から逃れるようなことはできないと考えられる。
超人
ニーチェは「神は死んだ」世界で超人を生み出すことが人類の新たな目標とした。超人とは永劫回帰の世界の中、その運命を愛し生の繰り返しを肯定した人が人間を超えるために「力の意志」を実現して人生に新たな価値を見いだしいきる存在となる。その超人は既存の道徳に従い忍耐をする駱駝から自由意志を持ち既存の価値観に挑戦する獅子へ、そして幼児として新たな価値を創造していくという変化の段階を踏んでいる。
惑星アリンドがニーチェ的な永劫回帰の世界であると考えるとライラとアストラモーフが目指す究極の生命形態は「超人」的なものとなる。
アリンド人(アストラモーフ)の超人への段階を考えると世界観PVで語られた調査に訪れた地球人を禁忌に触れたとして追放したアリンド人らは既存の道徳に従っている駱駝であると考えられる。
そして、地球人との出会いにより揺らいだ「古い概念」超え「勇敢」なる冒険へと旅立とうとするΛ(ライ)は獅子の段階にあると考えられる。
Vi³とアステロは唯二人、アストラモーフがアストリスに還ることの真実を知っている存在であり、「覚醒」によって永劫回帰するアストラモーフの真実を知ることはその真実を肯定し超人となるために必要な段階であるといえる。
ゾロアスター教(拝火教)
ニーチェの著作である『ツァラトゥストラはこう語った』の「ツァラトゥストラ」は古代ペルシャで信仰されたゾロアスター教の開祖「ザラスシュトラ」のドイツ語読みとなる。ニーチェのツァラトゥストラはザラスシュトラの名に仮託しただけであり、そこに思想的繋がりはないが「エクスアストリス」においてはザラスシュトラと開いたゾロアスター教の大きな特徴である善悪二元論的な対立構造が多く確認出来る。
ゾロアスター教は後の宗教に善悪二元論や最後の審判、救世主(メシア)信仰として大きな影響を与えている。その信仰は光、火として象徴されるアフラ・マズダーを善として悪神アンラ・マンユの打倒を目指すというものになる。
「エクスアストリス」内でも信仰対象は太陽の光や火となっている。ドランでは儀式に太陽の光を用い、シャダラは人造太陽に貢ぐ形で信仰が行われていたことがわかっている。
二元論的な要素
ゾロアスター教のような「善悪」二元論というわけではないが、エクスアストリスおいては様々な物が対として表現されている。
ドランとシャダラ
白夜と極夜という正反対の気象条件下で発展した国家であり、その風土や政治形態なども対となっている。
また、ドロニウムと灰󠄁体のように戦闘で用いる素材や名前が記号(Vi³、Λ)とカタカナ(アステロ、ディタレント)など対となるものは多い。
白石碑と黒石碑
「リセット」の解明への大きな鍵となる碑が対のように存在する。
鏡文字
様々な所で鏡文字のようにアリンド文字が記されている。
粒子と波動
ゲームシステムとしても光の二つの性質である粒子と波動をモードとして使い分ける形となっている。
最後の審判とライラ
ゾロアスター教の大きな特徴として世界滅亡の日に神による最後の審判によって人類は天界と地獄に振り分けられるというものだ。ゾロアスター教では地上から溶岩が湧き上がり人類は滅亡するが善人には溶岩はミルクのように感じ、悪人には耐えがたい熱さとなる。
ライラによる「リセット」もアストラモーフを全てアストリスに還すものであるとしたら世界の崩壊に相当する。地球人が取り入れたアストリスは死ぬときに激痛に引き起こすがこれはライラからするとイレギュラーな存在としてアストリスに還る時に激痛を与えているのではないか。そして、次の進化の周期のため新たな生物の情報を取り入れ再びアストラモーフになるのは一種の審判と読み取れる。
まとめ
今回の考察では惑星アリンドはライラによる「リセット」によって審判が行われる二元論を根底としたゾロアスター教的な世界観であると同時に、アストリスの原質とアストラモーフが永劫に回帰し、究極の生命形態「超人」を目指すニーチェのツァラトゥストラ的な世界観を持っていると考えた。
リリース前の考察になるため最後にストーリーの妄想して終わりとする。物語において神に等しいとされてきた「ライラ」が神ではないことが判明し、物理的に「神は死んだ」惑星アリンドでVi³は運命を受け入れ最初の「超人」となり、アステロは運命を否定し墜ちた人造太陽の代わりに新たな太陽、シャダラの神として永劫回帰の惑星で生きていく話。
参考文献
『ツァラトゥストラはこう言った』上下 岩波文庫 ニーチェ著 氷上英廣訳
『最新図説倫理』浜島書店 P238,239
『ゾロアスター教』講談社選書メチエ 青木健著 第二章
最後に
以上が「エクスアストリス」のリリース前考察となる。当たり前だがリリース前情報(2/24時点)の情報を元にしており、ほとんどが間違っているものになるが、「エクスアストリス」リリース前の楽しみになったらうれしい。
誤字脱字疑問点などがあれば報告おねがいします。
2/25 15:40 ライラの項に追記
2/25 20:55 「アストリスの原質」の表記を「アストリス」に統一
2/26 11:30 エクスアストリス公式サイトなどへのリンクを追加