#63 疑問に満ちた賢治の世界 その1【宮沢賢治とエミリィ・ディキンスン その1】
(続き)
〇 疑問に満ちた賢治の世界 その1
私は子どもの頃から無意識に賢治と接する環境にいました。おそらく、岩手の人の多くは、自分が賢治と同じ岩手出身だから賢治が身近なのだ、と思っているような気がします。
そんな私の認識が揺らいだのは、大学時代に2千人を超える教養部の全授業の中で、一番人気が「賢治論」だった時です。担当教授の高い人気など、様々な理由はありつつも、その時初めて、巨大な講義室を埋めるだけの、多くの賢治ファンが全国にいる、ということを知りました。
その後、様々な名品の鑑定を行う番組で、賢治が親友・保阪嘉内へ書いた手紙が1億円を超える評価額となったり、「宮沢賢治記念館」の入場者数が、文学記念館としては異例の多さであることを知った時、自分が賢治をあまりに知らなすぎた、という思いに至りました。
しかしそこで、疑問が幾つか湧きおこります。
私自身が、そして、私同様に多くの人達が魅力の本質を理解しているとは思えない賢治の世界が、なぜ多くの人を魅了するか、ということです。「魅力の本質を理解できているようには思えない」というのは、私の偏見ですが。
賢治の作品は、言葉自体は日常的な単語で(時折、難解な用語も登場しますが)、普通の言葉の組み合わせによって、難解な世界が広がります。一読するとわかったような気もする童話も、よく考えるとわからない、「世にも奇妙な物語」のようにも見えるのです。
「なぜ難解とも思える賢治作品に人気があるのか?」
「賢治の難解な世界観を、私自身はどう理解すれば良いのか?」
「賢治の魅力の本質とは何か?」
といったことが、私にとっての謎となりました。
(続く)
2023(令和5)年9月22日(金)