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手は、裏切らない

手は、裏切らない

小さな透ける紙にふるえる文字でそう書いてあるのを見つけた。

娘の死を知らせる手紙を出した後、すぐに電話がかかってきた。手を動かしなさいと、恩師は電話の向こう側から声をかけてくれた。私はすがるようにその言葉を信じた。この手で最後に作ったのは娘のものだったからもう何も作りたくないとさえ思っていたのに、その声に反応するように身体は反応する。

娘の身につけるものを最後に作ったのは、大学病院へ迎えに行く1時間前だったろうか、着替えの他に帽子もあると良いと聞いた私の手はするすると形を生みだす。自分の身体ではないように、意思とは違うところで手足は動いた。
うとうととしか眠れずにいた夜に名前を刺繍したハンカチを、小学生の頃に母に作ってもらった赤いパッチワークのポシェットに手紙と一緒に入れた。夫のシャツをリメイクしたドロワーズパンツ、それに帽子。包帯が隠れるようにイギリスのレースをたくさん。娘の1番のお気に入りの絵本も持っていってもらった。ワンピースの絵に何度も触れて、手をパタパタさせて喜ぶ姿を思い出す。一緒にワンピース作って着て遊びたいな。しばらくしてから同じ絵本を手に入れたけれど、どうしても開けないままでいる。
いつまでも哀しいし、全部を大切に抱えて生きている。時間が経つと、かわいいと、ありがとうの上澄みが出来てきて、普段の生活では上澄みだけが見えるようになってきた。
私の手は、今日もかわいいとありがとうから出来た何かを作っている。会いたいね。胸を張って会えるように、精一杯生きたいね。

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