ブラッドベリ「非の打ち所ない殺人」


 この20数ページの小説についてなにか書こうとおもったのだけど、思ったよりも筆が進まなかった。だから、この小説の最後の部分だけ自分用のメモとして打ち出しておきたい。

 ダグは四十八歳の誕生日、ラルフを殺すことを思い立つ。理由は、十二歳の当時ラルフが自分を一度も呼びに来てくれなかったから。ダグは拳銃を携えてラルフの家まで行き、四十八歳の彼に会う。そして帰り道、当時住んでいた自分の家へと足を運ぶ。



 ”川の向う岸に出た私は、自分が生まれた家の前の芝生で立ちどまった。

 それから小石を拾うと、未曾有のことをやってのけた。

 生まれてから十二歳になるまで、自分が毎朝のように覚醒めた部屋の窓にむかって、小石を投げたのである。そして私は自分の名前を呼んだ。もはやどこにもありはせぬ永い夏の日を共に遊ぼうと、友情をこめて私自身に呼びかけた。

 それから少しのあいだそこに立ち、私の若い分身が出て来て私に加わるのを待った。

 そして夜明けが訪れぬうちに、私たちはさっさとグリーンタウンから逃げ出し、神よあなたに感謝します、残りの生涯を過ごすべく、「現在」と「今日」のなかへ帰って行ったのである。”



 ちなみに最後の一文、原文だと以下のようになる。

”Then swiftly, fleeing ahead of the dawn, we ran out of Green Town and back, thank you, dear Christ, back toward Now and Today for the rest of my life”.

 訳よりも原文のほうが、”for the rest of my life”が最後に来る分、大きな余韻を残す気がする。




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