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姉弟日記 『初詣』
とある姉弟がまだ幼い頃のこと。
雪の積もった日に、家族で出かけた初詣。
二人は何をお願いするのかな?
という両親からの問いに、
少女は微笑みながらこう答える。
「今年もみんなが幸せでありますように!」
片や少年はくだらなさそうに、
「俺は別に」とだけ。
彼は神様なんていないと思っていたし、
姉みたいに幸福を願いたい人など
数える程しかいなかった。
賽銭箱の前に並んだ一家は、
作法を順番に確認しながら、
礼をして手を合わせる。
「……………………」
少年は頭の中で手短に、
数少ない願いを唱え終えた。
隣を見ると、姉はまだ願い事をしている。
丁寧に両手を合わせ、懸命に目を瞑りながら。
彼女の祈りはその後もしばらく続いた。
家族や友達、知り合いみんなの幸せを、
一人ずつ願っているのかと思えるほどに長く。
少年は仕方ないなと、
再び目を瞑って一つだけ願いを加える。
『どうか、姉さんの──』
満足そうに目を開けると、そこには……
「私よりたくさんお願い事したんだ」
と言いたげな、少女のにやけた顔があった。
薄い積雪に、4人分の足跡を残す帰路。
弟の言い訳を、いじるように聞き流す姉。
少なくともそのひと時だけは、
願い事を神様が
聞き届けてくれたのかもしれない。
二人はそんなふうに、
心のどこかで思い合っていた。