姉弟日記 『ハロウィン』
49対49。
幼い少女が、ここ最近気にしている数字だ。
その意味は──
少女と弟のイタズラの勝敗。
あと数日後に迫ったハロウィンで、
弟は必ず何かを仕掛けてくるだろう。
負けず嫌いの彼女は、
どうしても50勝目を勝ち取りたくて、
あらゆる手を尽くそうと思っていた。
──まずは、弟の『弱点』を探らなければ。
少女は弟が留守中である隙を狙って、
彼の部屋に忍び込み、物色し始めた。
本棚には、宇宙や海などの図鑑がずらり。
ベッド下の箱には、拾った綺麗な石や貝殻。
机の引き出しには、勉強に使う文房具……
そしてその奥には、少女があげた、
冥王星のキーホルダーや桜の栞が隠されていた。
「弱点のヒント、見つからないな……」
と、少女が諦めかけていると。
小学校の夏休みの宿題で書いた、
絵日記がふと目に入る。
それを辿ると──
嫌いなピーマンを残したこと。
町内で犬に追い回されたこと。
弟の弱点が続々と出てくるではないか。
少女はこれなら勝てると、
勝利を確信してニヤリと微笑した。
──ハロウィン当日。
少女は、弟の弱点を詰め込んだ、
手作りの『仮装』を着込んでいる。
そして目前の50勝に気合を入れ、
彼がいる部屋のドアをこつこつと叩く。
「とりっく、おあ、とりーと……!」
そう言って勢いよくドアを開けると──
少女の目前に、見るも悍ましい
『怪物』の姿が現れた。
驚いて短い悲鳴をあげながら、
少女は尻餅をついてしまう。
「……ど、どうして……?」
混乱する彼女を見下ろすように。
部屋の入り口に置かれた、
大きな『姿鏡』の横から弟が顔を出す。
怪物の正体は、鏡に映った少女自身。
白い大きな布を被った、おばけ姿の少女。
布の一面に、ピーマンや犬をはじめとした、
弟の弱点の数々がクレヨンで描かれていた。
弟は、そんな珍妙な怪物姿の姉を、
ぱしゃぱしゃとカメラで撮り始める。
──完全に敗北だ。
準備万端のはずがイタズラし返され、
50勝目は奪われてしまった。
床に座る彼女は、悔し涙を目に溜めて、
惨めな姿を撮られることしかできない……
その時、少年が一つ提案を持ちかける。
今回のイタズラは『引き分け』にしよう。
ただし、もう他人の部屋へ入らないようにと。
少女はこくりと小さく頷いて、
勝手に部屋を漁ったことを謝った。
──50対50。
引き分けとなったイタズラ勝負に、
少女はほっとしながら。
その日両親が用意してくれた、
沢山のハロウィンのお菓子達を。
勝敗のように仲良く半分こして、
弟と一緒に頬張るのだった。