姉弟日記 『流水』
小川沿いの桜並木。
春の光に満ちた木漏れ日。
あの人の姿が、眩さに霞む。
優しげに微笑みながら、
何かを俺に手渡して──
「……!」
高校生の少年が目を開けると、
そこはマンションの一室。
何故か目から流れた雫を、
静かに指で拭き取る。
こんな夢を見てしまったのは、
昨夜見つけた懐かしい品のせいだろうか。
机の引き出しの奥にあった、栞。
桜の花びらをフィルムで閉じ込めた、
あの人の手作りの栞だった。
夢で見た日に聞いた、春のまじない。
だが、そのまじないには不足がある。
『いつまでに』という、
期限が示されていないのだ。
だから、今どんなに辛くても。
いつかその時がきたら、きっと。
そんな儚い願いと一緒に、
少年は栞をしまい直した。
『桜の花びらを
地面に落ちる前に掴めたら──』
俺には関係ない、と彼は思う。
何故なら、その桜を掴んだのは、
少年ではなく──
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