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ショートストーリーの茶話会 3

こちらもブログで、自粛中にお遊びとして出して、あとで一例として書いたストーリー。

冒頭は同じで、途中から「ほのぼのハッピーエンド」「壮大なストーリー」と2種類に書き分けましょうというお題でした。

これは「ほのぼのハッピーエンド」バージョンです。

ちなみに上の写真はうちのうさぎで「ましろ如月おもち」という名前です。

この子については、改めて記事にしたいと思います。


題名『幸せの白うさぎ』

あたちは、赤いお目々に白い毛のミニウサギ。

名前はウサ子。

ママと一緒に小さなマンションのお部屋で暮らしていたの。

あたちが子うさぎの頃は、ごはんをいっぱいくれたし、へやんぽ(ケージから出して部屋を散歩させること)もさせてくれた。

でも、大きくなってイタズラするようになったら、ケージからだしてくれなくなって、身体は大きくなったのにごはんの量は変わらなかった。

「おなかすいた! へやんぽしたい!」って、ケージをガシガシしたり、足ダン(うさぎが後ろ足で床を叩き、大きな音をさせる)しても、「うるさい!」って叱られるだけ。

今日は久しぶりに出してくれたと思ったら、いきなりキャリーバッグに入れられて車の中へ。

健康診断かな?

それとも爪切り?

車が停まって下ろされて、キャリーバッグから出されたら、車は行っちゃった。

ここ、どこ?

広い野原で、あっちに森があるけれど、知らない場所だよ。

どうしよう、怖い獣の臭いがするし、空には大きな鳥がいる。

天敵って見たこと無いけど、ウサギの本能でわかるよ。

怖いよ~!

あたちは、隠れるところを探して、うろうろした。

藪があったので、そこに隠れようとしたら、ガサガサ音がして、銃を持った身体の大きな男の人が出てきた。

銃って、テレビで見たから知っている。

あたち、撃たれるの?

逃げようとしたら、反対側からも銃を持った男の人がやってきた。

見回したけど、逃げられそうなところがない。

その場で走り回っていたら、二人はすぐ目の前までやってきた。

もうダメだ。

あたちは震えながら目を閉じた。

「こいつ、ノウサギじゃねえな。飼われているやつだろう? どっから迷い込んだんだ?」

「あ~、きっと都会に住んでるバカが捨ててったんだろう。ひでーことしやがる」

あたちは、おそるおそる目を開けて、うたっち(うさぎが後ろ足で立っちすることを、こう呼ぶ)した。

話している二人は、どちらも年取った男の人だった。

1人がスマホを出して早口で何か言い、ポケットにしまってから、あたちを抱き上げた。

うさぎって足が宙ぶらりんになるとすごく怖いんだけど、この人はちゃんと足も支えてくれたんだよ。

「慣れてんな。そっか、前に孫がよく連れてきてたな」

「ああ、最初はわかんなくて、ずいぶん怒られたから」

あたちはそのまま抱っこされて運ばれ、小さなトラックの中の段ボール箱に入れられて、助手席の足下に置かれた。

「まさかクマを撃ちに来て、うさぎを拾うなんてなあ~」

「あそこに置いといたら、クマかハクビシンにやられるだろう? 鷹もいるし。うちの兄ちゃんなら、妹と一緒に世話してたから大丈夫だろう」

トラックに揺られながら、あたちはそんな会話を聞いていた。

しばらくしてトラックが止まり、あたちは箱ごと抱えられて外へ出された。

箱から顔を出すと、大きな古い家がみえる。

小型車がやってきて、トラックの側に停まった。

少し若い男の人が、大きな袋を持って降りてきた。

あたち、その袋から見えているの、知ってるよ。

トイレシーツとチモシー(乾燥牧草、ウサギの餌)とペレット(ラビットフード)だ!

「間に合った! 爺ちゃんから電話来て、急いでホームセンターへ買いに行ったんだ。リナが連れてきたときに使ったケージとトイレが納屋に置いてあったから用意しといた」

「ははは、早いな~」

段ボールに入ったあたちを、爺ちゃんと呼ばれた男の人が、荷物を抱えた若い男の人に見せて笑った。

「可愛いだろう。餅みてえに真っ白だ」

それまで黙っていたもう一人の年取った男の人も笑った。

「決まりだな、名前はモチだ!」

若い男の人も笑った。

「わかりやすくて、いいな。よし、来い、モチ」

あたちの名前は今までウサ子だったけど、この日からモチになったんだよ。



古いケージとトイレが、あたちの新しいおうちになって、爺ちゃんとその孫の兄ちゃんが、新しい家族になった。

毎日、畑から採ったばかりの野菜とチモシーがふんだんにもらえ、二人とも、それかどっちかがおうちにいるときは、へやんぽさせてくれる。

居間ってところがあたちの遊び場で、ママのワンルームマンションがすぽりと入るくらい広くて、お庭に面したガラス戸の向こうには廊下ってのがあった。

木の柱とか、土みたいな壁とか、かじっちゃったけど、二人ともにこにこしている。

「爺ちゃん、サークル買うか?」

最初、兄ちゃんがそう訊いていたけど、爺ちゃんはめんどくさそうだった。

「別にいいさ。モチの好きなようにさせてやれ。トイレ以外で粗相はしないし、かじるのくらいどうってことねえさ」

エヘン、あたちは、へやんぽ中もしたくなったら、ちゃんとケージに中のトイレに戻るからね。

一緒に暮らすうちに、だんだんいろんなことがわかってきた。

爺ちゃんは5年前に婆ちゃんが死んで、一人でここで暮らして田畑を作っていること、猟友会に入っていて、あたちを見つけた日は依頼されて近くに出たクマを撃ちに行ったこと。

兄ちゃんは、爺ちゃんの息子にあたる父親と母親とリナっていう妹と都会で暮らしていたけれど、去年からここで爺ちゃんと暮らして一緒に田んぼや畑の世話をしていること。

以前、妹がウサギを飼っていて、夏休みや冬休みの度にここへ連れてきたんで、ケージやトイレがあったし、爺ちゃんも兄ちゃんもウサギの世話になれていたんだってこと。

毎日、誰かしらやってくるので、すぐに顔を覚えた。

隣のおばちゃん、旦那で消防のおじちゃん、宅配便の兄ちゃん、郵便局員のおじちゃん、農協のお姉ちゃん、そのお母さんで同じく農協のおばちゃん、一緒に熊撃ちに行った爺ちゃんの仲間のじいちゃん、その他にもいろいろ。

みんな、あたちを可愛がってくれて、野菜や果物を持ってきてくれるんだよ。

でも、あたちは不思議だった。

どうして兄ちゃんは,家族と離れてここにいるんだろう?

やがて兄ちゃんが出かけた時に、爺ちゃんが、あたちに話してくれた。

「なあ、モチ。兄ちゃんは、そりゃあ腕の良いパン職人だったんだぞ。でもなあ、小麦アレルギーっつうのになっちまって、せっかくの仕事を辞めなきゃならなくなったんだ。一緒にここで暮らしてくれるのは嬉しいけど、もったいないんだよな~。子供の頃から器用で、研究熱心で、うまいパンを作っていたのに、命に関わるんじゃな~」

そのうち兄ちゃんが1人のとき、あたちを撫でながら言ったんだよ。

「俺さあ、人が美味しい物を食べてニコニコしている顔を見るのが好きなんだ。だから、ケンカしてても、嫌なことがあっても、食べたらニコニコするようなそんなうまいパンを作りたくて頑張ってきたんだけど、肝心の小麦にアレルギーが出ちゃあ、どうしようもなかった。国産小麦なら大丈夫って奴もいるんだけど、俺はそれでもダメで……住んでた街にいるのが辛くて爺ちゃんちへ来たんだけど、畑するのもいいかって……モチもいるしさ」

あたちは撫でてもらいながら、兄ちゃんの顔を見た。

悲しそうだった。

ウサにはどうしてあげていいかわからないから、そっと兄ちゃんの手を鼻でツンツンした。

「お、慰めてくれるのか。ありがとう、モチ」

ちょっと笑ったから嬉しいけど、もっと元気になってもらうにはどうしたらいいのかな?

あたちはなでなでしてもらっては、鼻先でツンツンして慰めるしかなかった。



何日かして、人がたくさん来た。

顔見知りの人ばかりだった。

何でも、新しい地元の名物を考えるんだって。

みんなで大きな座卓を囲んでお茶を飲みながら、持ち寄ったお菓子とか漬物とか食べて楽しそうにワイワイしている。

ケージの中にいたあたちは、参加したくてケージをかじったりジタバタした。

「出してあげちゃだめなの?」

農協のお姉さんが言ってくれた。

「出してもかまわねえか?」

爺ちゃんが訊くと、みんながうなずいた。

「いつものことだろう。出してやれや」

「菓子とか漬物とかは、やらないでくれよ。ウサギには毒だ」

そう念押ししてから、兄ちゃんが扉を開けてくれ、あたちは勢いよく飛び出した。

「おお~、モチ、出動だな!」

消防署員のおじちゃんが笑う。

あたちは、爺ちゃんの側に丸めて置かれた枯れ草色のちゃんちゃんこにじゃれた。

これ大好き。

「あれま~、モチちゃん、それじゃ柏餅だよ」

農協のおばちゃんが笑う。

みんなもどっと笑った。

「ここの婆さんが毎年作ってくれた柏餅はうまかったな~」

誰かが思い出したように言ったら、みんな懐かしそうな顔になった。

「そうそう、お婆ちゃんの柏餅、売ってるのよりずーっとおいしかったよね~」

「婆さんが死んでから、あんなにうまい柏餅、食ったことねえな」

思い出話をしている中で、いきなり兄ちゃんが立ち上がった。

「俺、ちょっと出かけてくるわ。みんな、まだいるだろう? 待っててくれよ」

すぐに部屋を出て行って、車が走っていく音がした。

「どこ行ったんだ?」

熊撃ち仲間のじいちゃんが訊いたけど、誰も、あたちも、わかんないよ。

しばらくしてから、兄ちゃんが荷物を持って戻ってきて、台所に入っていった。

あたちは何をするのか見たくて追いかけたけど、「危ないから」って爺ちゃんにつかまった。

いろんな音が聞こえてきて、お米が炊き上がるような匂いがしてくる。

ようやく兄ちゃんが、大皿に盛り上げたものを運んできた。

おばちゃんが大声を上げた。

「これって、モチちゃんの柏餅!」

あたちは、一生懸命うたっちして、座卓の上を見た。

柏の葉からのぞいている白い餅に、ピンクで目とY型の鼻と長い耳が描かれている。

みんなはすぐに一つずつ手に取り、じっくり見ている。

「爺さんのちゃんちゃんこにくるまったモチにそっくりだな」

「可愛い~。本当に白ウサギだよ」

ひとしきりしゃべった後、葉をはずしてパクリとかじった。

「うお~、これ、婆ちゃんの柏餅だ~」

消防のおじちゃんが叫ぶ。

兄ちゃんは、にこにこした。

「昔、おふくろと妹と一緒に、婆ちゃんから習ったんだ。なぜか俺だけ婆ちゃんと同じに出来て、褒められて、すっごく嬉しかったのを思い出して……」

急に真顔になって、兄ちゃんはみんなに尋ねた。

「これ、売り物になるかな?」

すぐに計画が立てられて、地元産の柏の葉とうるち米で作ったウサギの柏餅が、冷凍便で販売された。

名前は「幸せウサギの柏餅」。

兄ちゃんが作り、農協のお姉ちゃんとおばちゃんがネットで販売し、爺ちゃんや地元の人が柏の葉を採ってきて干して、米粉を運んできて、みんなで働いた。

すぐに評判になって、次の年には爺ちゃんの家の隣にあった蔵を改造して作業場にして、それまで知らなかった人たちも手伝いにくるようになった。

兄ちゃんは忙しくなったけど、ご飯は必ずあたちのいる居間で食べた。

他の人もお昼ご飯やお茶で居間に来る。

兄ちゃんと爺ちゃん以外の誰がいても、あたちはケージから出してもらってへやんぽし放題なんだ。

みんな可愛がってくれるし、兄ちゃんも爺ちゃんも嬉しそうに笑っている。

兄ちゃんが、あたちの頭を撫でながら言った。

「ありがとう、モチ、うちへ来てくれて。おまえがいたから、俺、みんなを笑顔に出来る新しい仕事を見つけられたよ」

兄ちゃんが笑っていて、あたちも嬉しい。

ウサも人もみ~んな幸せだよ。

                   完


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