ホラーやSF、ファンタジーが好きで、小説の執筆もしています。青心社様の『クトゥルー多元宇宙(マルチバース)の進入!』に拙作「もう一つの神器」を収録していただきました。また、カクヨム(岬士郎(@sironoji) - カクヨム (kakuyomu.jp))に小説を投稿しております。
ほかのところでも書いたのだが、我が家には都合三冊の『ネクロノミコン』がある。このうち個人的に一番好きなのはドナルド・タイスン著『ネクロノミコン アルハザードの放浪』だ。 ネクロノミコンとはいえ、アルハザードを主人公とした物語にもなっており、読んでいて飽きない。 この一冊は、オススメである。 もっとも、ページを開くことが多いのは、リン・カーター著『魔道書ネクロノミコン外伝』だったりする。なぜか気になる箇所がありすぎて、月に一度は斜め読みをしているのだった。
数年前の晩秋のある日、わたしは妻と連れ立って滝で有名な北関東の某観光地へと車で出かけた。その滝は日本の三大名瀑と言われるほどであり、ご存じの方は多いと思う。 もっとも、その日のわたしたちにとって滝を愛でるのは二の次だった。一番の目的は、柄にもないが山歩きだったのである。 滝のすぐ手前の向かって右側と、滝のかなり手前の向かって左側に、登山口がある。この二つの登山道は、滝の上流のほうで浅瀬を渡る、という形で繋がっている。 わたしたちは滝から五百メートル以上も手前の市営駐車
若い頃に走り込んでいた峠に、CB1300SFで久しぶりに行ってみた。昔はしゃかりきに走り込んでいたけれど、あのときのようなペースではもう走れない。体がもう追いつかないのである。まして路面が荒れ放題であり、うねりに気づかないでいると、重いCB1300SFでもほんのちょっぴりだけどジャンプしてしまう。そのうえ、前方を行く見知らぬライダーに道を譲られてしまい、「たのむから先に行ってよ」な状況に。 這々の体で下山し、平野部をだらだらと流して帰宅した。 無事に帰ることができて
神津山奇譚シリーズ三部作の宣伝で使用したイラストをいくつか上げておきます。 絵はあまり自信がないので、かなうならばもう描きたくない……。 ※ ※ ※ 「うちのお兄ちゃんは闇にさまよう」 ※ ※ ※ 「彼女の坊やは妖獣童子」 ※ ※ ※ 「七人の探索者」 七人の探索者(岬士郎) - カクヨム因縁の対決の行方は?ka
「七人の探索者 ~第7話 夏への脱出⑧(最終回)~」を投稿しました。 現代日本を舞台にしたクトゥルー神話です。 無貌教に拉致された神宮司瑠奈を救い出すため、空閑蒼依は禁断の地へと赴く。神津山奇譚シリーズ三部作の最終章は、今回で完結です。
暗闇の中で目を覚ました。目覚まし時計を見て午前一時前であるのを知る。昨日と同じ時間に目を覚ますなんて気分が悪い。 エアコンのタイマーは切れていた。設定時間を間違えたらしい。全身が汗だくだ。喉の渇きはそれ以上につらい。 ねっとりとした闇が揺らいだ――ような気がした。 「誰?」 人の気配を感じて暗闇に目を凝らす。 ドアが開いており、その手前に制服姿の美凉が立っていた。白いブラウスが闇に浮かんで見える。スクールバッグを肩にかけているけれど、まさか迎えに来たのだろうか。 「
こんなすぐ目の前の自宅に逃げ帰っても意味なんてないのだろう。けれど、ほかに行く当てはなかった。自分の部屋以外に身を隠せる場所を知らないのだ。 今すぐにでも山村さんの報復があるかもしれない。わたしたちはベッドで身を寄せ合った。 「たぶん、あたしだって不老なんだよ。彩乃姫みたいになっちゃうんだ。ずっとずっと何百年も生きていくんだ。友達や家族がみんな死んじゃったあとでも、一人で生きていくしかないんだ」 二枚重ねにした毛布を頭からかぶっていても、美凉の震えは止まらない。 「あり
「あるとき」山村さんは口を開いた。「彩乃姫はくだんの涸れ井戸……古井戸の近くで愛猫のタマと戯れていた。しかし、付き添っていた侍女たちが止めるのも聞かずに井戸を覗き込んでいた姫は、胸に抱いていたタマと一緒に、その中に落ちてしまったんだ。そればかりか、おみつという一番若い侍女までもが、姫のあとを追うように井戸に飛び込んでしまった。いいか、十メートルの深さの涸れ井戸だぞ。すぐに縄ばしごを用意して家臣の一人が井戸の底に下りた。ところが何も見つけられなかった。干上がった地面があるだけだ
枕元のアナログ目覚まし時計の文字盤が、ぼんやりと闇に浮かんでいた。時針や分針がどこを指しているのか、なかなか見定められない。それでもなんとか目を凝らし、午前一時前であるのを確認した。 タオルケットさえかけていないのに、わたしはこの蒸し暑さで目を覚ましたのだ。エアコンの電源は美凉が切ったらしい。暑さに強い美凉にリモコンを渡すべきではなかった。 「美凉、マジで暑いよ。エアコンをあと一時間だけ、だめ?」 熟睡中に起こすのは気が咎めるけれど、これ以上は我慢できない。 「ねぇ、暑
二人ともそれぞれのスマホをいじっていた。 しばらくすると、美凉はあくびをしながらスマホをテーブルに置き、テラス窓の横へとにじり寄って壁にもたれた。そして、カーテンの端を少しだけめくる。女の子座りがなんとも力の抜けた感じだけれど、ベランダを覗く表情は真剣そのものだ。 「床に直接座ったら痛くなるって。座布団を使いなよ」 言った直後に気づいた。その座布団を出し忘れていた。 「ううん。冷たくて気持ちいいし」 わたしを見もせずに答える美凉は、ユキの来訪を待つつもりらしい。 口
学校での昼休みが自分の家にいるより落ち着けるなんて、ある意味、とてもむなしいことだ。言うまでもなく、決して学校が好きなわけではないのだけれど。 「澪、なんだか最近暗いんじゃねーの?」 向かい合わせにした机で弁当箱を開いたわたしは、野本美凉に正面から顔を覗かれた。 美凉は同性のわたしでさえほれぼれするほどのきれいな女の子だ。若干きつい切れ長の目が、白い肌と相俟って、大人びた雰囲気を醸し出している。背中まで伸ばした黒髪の美しさだって、学校中を探しても、かなう女の子は見つから
永遠ってどんなんだろう。 終わりがないのは、苦痛であるのかもしれない。 けれど、大好きな友達と一緒なら、少なくとも孤独ではないはずだ。 永遠を与えてくれるものが、ほら、虚空から下りてくる――。 * * * 蒸し暑さに耐えかねたわたしは、カーペットの上で仰向けになっていた。エアコンの電源は入れたばかりだ。照明のLEDの光さえ太陽のように感じられる。 よりによって夏休み最後の日の引っ越しとなり、心身とも疲れ果てていた。明日から二学期が始まるのだ。胃が
工場の建屋から漏れる光がうっとうしい。 駐車場までの道のりを、香織は全力で走った。うなじで切り揃えられた髪が揺れ、息も激しく乱れている。 夜の帳が下りても、昼間の熱気は残っていた。香織の額に汗が吹き出す。だが、それをぬぐう余裕さえない。 さらに、地の底からもくもくと湧き上がってくる青臭さが、香織の理性を奪い取ろうとしていた。かなり強い刺激臭だ。汗の流れ込んだ涙目と相俟って、あらゆるものが滲んで見える。 そのおぼろげな視界に駐車場のフェンスが映った。あと一息というとこ
事件から三日が過ぎた。 香織は身も心もぼろぼろになりかけていた。 警察の事情聴取に二日も付き合わされていたため、香織の仕事は山になっていた。それだけでも精神的なストレスは大きかったが、何よりも、関根の無残な亡骸とあの臭気の元を間近で見てしまったのだ。 精神的なストレス――というより、精神的な障害を受けた可能性があった。ありとあらゆるにおいが気になってしまうのだ。自分自身もその対象である。腋臭どころの騒ぎではない。胃の中の未消化物や、その先に送られたどろどろの流動体ま
予想最高気温は三十八度である。冷房の効いた事務所から出るには、かなりの勇気を持って挑まねばならなかった。そのうえ香織はマスクをかけているのだ。これだけで、蒸し暑さは厳しさを増す。もっとも、現場の従業員たちは、冷房システムのない環境で汗と油と埃にまみれているのだ。たまに少量の発汗があるくらいで、文句を言ってはいられない。 いつものように、香織は現場を回りながら書類を配っていた。しかし、あと二日足らずで待望の夏季休暇である。そんなモチベーションがあるからこそ、多少なりとも軽い