見出し画像

zehitomoというサービス①

伊勢ヶ濱部屋への取材が決まった時、私はひとつ大きな壁にぶつかった。

卒業課題の6000字の原稿には、必要に応じていくつかの写真を挿入することを推奨されていた。
実際、雑誌に本文が掲載されるのは40人中たった1人。それも写真はモノクロで、小さく載るに過ぎないだろう。どんな写真でも構わないっちゃ構わない。しかし相撲部屋への取材、きちんと正規のルートで申込み、実現させた、最初で最後かもしれないこの機会に、スマホで写真を撮る、なんてことをしてはいけない、少しでも「ちゃんとした写真」を撮るべきだ。そんな使命感に駆られていた。

最終手段は、せめてちゃんとしたカメラで自分で撮るという選択肢だった。それなりの一眼レフを会社から拝借し「AUTO」で取材後に撮らせてもらう。それを保険にして、当日までの数日間でできることを探ることにした。

初めに考えたのは、「カメラを使える友達」を連れていくこと。薄謝でなんとかお願いできないか、という算段だ。大阪から東京に乗り込むので、こちらの知人を連れて行くとなると、交通費が痛い。東京在住で、趣味で一眼を扱う友達が居ないかどうか探してみた。あわよくば相撲好きで、興味を持ってくれる人が居ないだろうか……
しかし、もともと友達が少ない上、取材に行くのは「ど平日」。本拠地が東京で顔の広い友達の友達にも期待してみたけれど、なかなか見つからなかった。

そんな時、いつも助けてくれる幼馴染から「zehitomo」というサービスを紹介された。いわゆるマッチングサービスなのだが、その道の「プロ」が登録をしていて、客であるこちら側は、日時や予算、場所などの情報を記入していくと、マッチングしたプロから見積もりが届く、というシステム。カメラマンはもちろん、司会業とか、フラワーアレンジメントとか、様々なプロが登録している。

藁にもすがる思いというよりは、プロのカメラマンが薄謝で仕事を受けるのだろうか…という疑問の方が大きかったため、万が一気にかけてくれるプロがいたらラッキーだな、くらいの気持ちで、問い合わせをしてみることにした。

zehitomoの問い合わせは案外簡単で、どんな種類のプロに、いつ、何を、どのくらいの規模で、どこで、いくらくらいでお願いしたいのかをフォームの誘導に従って入力するだけ。フォトグラファーの依頼しかしていないので他がどうかはわからないが、予算のところの枠組みがこんな選択肢になっていた。

そうだよね、カメラマン一人を半日拘束するなら、最低でもこのくらいはかかるよね。プロに何かを依頼するのは、相当のお金を払うのは当たり前のこと。私だって仕事で販促物をつくるのに、カメラを依頼することだって多かったから、わかってる。

けれど、この卒業制作は仕事ではなく、教育活動の一貫で取り組んでいる取材であって、取材相手への謝金もない。つまり予算なんてないのだ。
私は恥を忍んで、一番上の「2.5万円以下」を選択し、最後の方の備考欄に、正直に自分が置かれている状況と、自分が出せる金額を書いた。

すると、1時間も経たないうちに、2人のプロから見積もりが届いた。
見積もりといっても書面が届いたわけではなく、私の想いを詰めた備考欄を読んだ上で、この仕事を受けても良い、というメッセージがきた。

1人目は、50代くらいの男性で、プロ歴の長い方。自分のこれまでの作品も例示してくださって、申し分ないというか、申し訳ない気持ちになるような人。仕事としては成立しない金額だとわかった上で、私の置かれている状況に手助けしたいという気持ちがとても強く伝わった。
もう1人は、若い女性。自分より少し年下で、1人目の方に比べたら歴史は浅い。フリーになってからは間もないようだ。zehitomoのサービスでは結婚式などのイベントフォトを請けていたようで、口コミコメントにクライアントの感謝のコメントがあった。

正直、どちらも申し分ない。こんな薄謝でごめんなさいという申し訳なさの方が大きいくらいのオファーだったと思う。単にラッキーだったのかもしれない。もう一回同じことをしてもうまくいかないのではないか。相撲協会や伊勢ヶ濱親方が取材を了承してくれるラッキーの後だったから、運が良い時期だったのだろう。
こんな幸運に包まれているというのに、私はどちらかを選んで、どちらかをお断りしなくてはいけなくなった。

私は、2人目の女性を選んだ。理由は簡単だ。同性だから。ただただそれだけのこと。当日私は一人で取材に臨む。現地に定時に入っても、取材先の都合で近くの喫茶店で時間をつぶさなくてはいけないかもしれない。見知らぬ年配の男性と待ち合わせて一緒に仕事をすることに、全く怖れが無いわけではなかったのだ。断ることになった男性の方には、丁寧に御礼とお詫びをした。(つづく)

つづきはこちら

励みになります!ありがとうございます!!!