数秒間の、楽しみ
先日、外に出た時にふわっと懐かしい香りがした。ああ、もうそんな時期なのか……
ここ数年、この香りが漂い始めるのはもう少し遅い時期だったような。
だけど私が高校生だった約30年前は、夏休みが終わった9月に始業式を迎えて1週間が過ぎた頃から、辺りは金木犀の香りに包まれていたような記憶です。
自転車で風をきって通学していたあの頃。家から出てまっすぐ道を道なりに走り、大きな坂を下って二つ目の信号を左に曲がったちょうど時、この辺りからふわりと風にのって私の嗅覚を刺激してきていたんです。
どこかで嗅いだことのある、ちょっと知っている香り。
最初はどの木から香ってくるのだろうって本当に不思議だったんです。だって、自転車で通り過ぎるだけのその場所には、花も咲いていないし、それらしい植物も全くなかったから。
ところが、毎日その場を通っていると、だんだんオレンジ色の花の存在に気づくんですね。そこで植物に疎い私も「ああこれだ!」とやっと認識することができたのです。
ネットも携帯もない時代、この香りの主を同級生に教えてもらったような記憶です。(こういう時、物知りの友人がいると助かるわ!)だけど、最初に「ああ、消臭剤のアレね」と言われ「そうだ!嗅いだことがあるのは消臭剤のニオイだったからだ」と妙に納得したことを覚えています(笑)
3年間同じ通学路だったので、夏の終わりの頃は金木犀の香りを楽しむシーズンになりました。実家周辺には金木犀の木が無かったので、通学路のこの場所限定の香りでした。自転車で通り過ぎるほんの数秒が私の楽しみでもあったし、今の言葉でいうと「癒し」だったのかなって思います。
大人になってから、至る所でこの香りを嗅ぐと思い出すのは高校生の頃。
自転車で駆け抜けるあの道を思いだし、そして今では、数年前までに住んでいた駅の近くの公園や、住んでいた自宅マンションのすぐ裏にある金木犀並木。
今の家の近くにも金木犀スポットはいくつかあって、洗濯物を干すのにベランダに出ると、ふんわりと香りが漂ってくるのが嬉しい。この始まりの予感がワクワクするのです。
写真は、いつかの金木犀。
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