ショートショート/「筆の誤り」
「ありゃ、しまった!」
未来予知で、過去一度たりとも外したためしがないという予言の大家が素っ頓狂な声をあげた。
「どうなさいましたか、お師匠様」
弟子の一人が小走りに近寄ってきて畳の上に正座し、師匠の顔を見上げた。
「いやなに、先ほどの女の子なんじゃが・・・」
「あ、先ほどの。いや~大層、喜んでお帰りになられましたよ。何でも28の歳に素敵な男性と結婚する姿が見えた、とお師匠様から仰っていただいたとかで」
「そうじゃ。確かに・・・、見えた」
弟子はかすかに首を傾げた。
「はて、何か問題でもございましょうか?」
「それじゃが・・・」
師匠は左の掌で額をぺしゃりと叩くと、こう漏らした。
「ひとつ付け加えるのを忘れておった。・・・2つ先の未来世では、とな」