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ショートショート/「神の名は」
「神さま、どうかこの願い、お聞き下さいませ・・・」
男は10分もの間、手を合わせたまま祈り続け、最後に深く頭を垂れると神社を後にした。
男の様子を見ていた神様は一人つぶやいた。
「男よ。願いを聞いてくれと言われたから、しかと聞いてやったぞ。じゃが、その願い、叶えてくれ、とは一言も言われておらんからのぉ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
そこに別の神様がやって来て、こうたしなめた。
「これこれ、そんなあこぎなことを言うものではないぞ。人間にとっては、聞いてくれとは叶えてくれと同義。素直に受け取ってやらんか」
「そうは言うが、近頃は人間からの頼まれごとが多くてのう」
「まあ、そう言うな。これも神のツトメの一つじゃ。ワシなんか、人間からは頼まれてもおらんのに、あちらこちらに足を運んでは、色々と動いてやっとるぞ」
「ほう、立派なもんじゃのぉ」
「いやいや、ワシはただ神としての仕事を全うしとるに過ぎん・・・」
やってきた神は顔の前で掌をひらひらさせて、そう謙遜した。
その別の神は、人間界ではこう呼ばれていた。
~貧乏神~