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ショートショート/「ザ・コレクター」

「教授、本日分の捕獲個体に対する標識用追跡発信機の取り付けが終わりました」

「あ、それはどうもご苦労さま。では、傷などがつかないよう気をつけて、捕獲した場所に静かに戻してやってください」

報告に来た若者の後ろ姿を見送って、教授は隣にいた全身黒づくめの男に声をかけた。

「作業は予定通りです」
「そのようだな。改めて確認するまでもないが、取り付けた発信機には捕獲個体に対する操作機能も備えてあるのだね」

「はい、そのための作業ですので」
「うむ。捕獲個体の数は?」

教授は手元資料に目を落として言った。

「先ほどの報告までで・・・、約8万体です」

「総数のほぼ10万分の1か・・・。十分な数ではないが、特殊な生命体に変異させた精鋭どもだ。しかも、政治、経済、医療のトップ、人種、性別に関わらず、あらゆる分野、階層に潜在させている。本人達はまだ全く自分の能力に気づいていないだろうが、事が始まれば、奴らなら80億をコントロールすることも可能だろう」

黒づくめの男はしばし天井を見つめていたが、その視線を教授に向けたかと思うと、淡々とした調子でこう続けた。

「合計で10万体になったら、すべての捕獲個体を一斉に『起動』しよう。例のオペレーションを開始する」

男は教授から目を離すと、あれを見ろ、と言わんばかりに、あごをしゃくった。

「あの美しい星を、何としても我々のコレクションに加えねばならん」

2人は母船窓外に浮かぶ惑星、天の川銀河太陽系第3惑星・・・「地球」を見つめていた。

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