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実録スピ散歩/「奇跡のメソッド」

スピリチュアルグッズが好きである。
けっ、何だよ、悟りとか覚醒とかとか言ってるくせに、結局は神頼みかよ、とディスっている、そこのあなた!

ふふ。ふはははは。だあ~はっはっ!!
私は知っている。人のことをディスりながらも、あなた、密かにポケットか机か押入れのどこかに、グッズ持ってるでしょ!

こっ、こらっ!どこに逃げる!!
・・・だが、まあ、いいでしょう。今日は私の話である。

悟りへの道は深遠である。
お釈迦さまは王子という極めて恵まれた環境を自ら打ち捨てたが、無論、それだけでは悟らなかった。
様々な師の下で修業をしたが、それでも悟らなかった。
その後も1人、難行苦行を重ねたがやはり悟らなかった。

ついには難行苦行をも捨て去り、「もー、悟るまでわしゃここを動かん」と菩提樹の下でただひたすら瞑想し、魔羅の誘惑にも打ち勝ち、遂に悟りを見たのである。
(と、えらそーに書いてはいるが、子供用の絵本から得た知識を薄~く、なぞっているだけである)。

お釈迦さんにしてこれである。私のような凡人of凡人は、そーんなに簡単に悟れるわきゃーねーのである(と、当時は思っていた)。

だが、ここに一つのメソッドがある。

何と、悟りに至るメソッドである。
驚くなかれ、こいつを令和3年の師走を迎えんとするいま、全世界の精神世界トリッパーに対して公開するのである。
秘教たるメソッドをただで公開するのであるから、この僥倖に恵まれた読者の方は感謝してその気持ちを形にし、私あて米や味噌などを送っていただきたい。

それはともかく、その秘教とは。。。

ズバリ、覚醒の波動を浴びる、というものである。
最も強力なのは、覚醒者と共に過ごす時間を増やすということである。極端な場合、覚醒者のセミナーに参加するだけで自身も覚醒してしまうという場合がある。

Youtubeなんかをみると、インドのプンジャジ(故人、愛称はパパジ)のセミナーに参加し、セミナー中、プンジャジの前に呼ばれた女性が彼の目を見つめ、彼からの問いかけを聞いただけで覚醒し、この世のカラクリがわかって笑いが止まらなくなった、というものもある。

家の近所に覚醒者のいない場合は(って、まー、そんなには簡単には転がってはいないだろうが)、覚醒者の書いた本、録音された音声、作成されたモノ(絵画や陶器その他)に触れるのである。なでなでするのである。

と、あろうことか、努力せずとも覚醒するのである。
こーんな楽ちんな、あ、いや、合理的な道はないのである。

かつてブルース・リーは映画「燃えよドラゴン」の中で、「お前の武道のスタイルは?」との問いに対してこう答えたのであった。

“The art of fighting without fighting”

即ち、戦わずして勝つ。

いま、私は21世紀の精神世界に対して、こう高らかに宣言しよう。

修行せずして、悟る!(ちゅどーん!!)
補足:ちゅどーんの効果音は各自、自分の好みに合わせて大声で怒鳴っていただきたい

さあ、それではこの奇跡のメソッドについて、私自身の体験談を語ってみたい。
それは某覚醒者のセミナーに参加したときのことである。セミナー終了後には著者サイン会があるとのことで、私は事前に上下2冊の書籍を購入し、持参していたのであった。

セミナーは著者の修行時代のお話もあり、非常に興味深いものであった。だが、セミナーの終了10分前ごろには、著者サイン会の方が気になり、気もそぞろであった。

他の参加者も同じ気持ちでいるに違いない。恐らくサイン会は早い者勝ちの順番待ちになるであろう。

そうすると、会場の前から2列目に陣取った私はかなり有利になると言える。
だが待て。自分の席は列の中ほどに位置している。

すると、もっと後列にいる人間でも、通路側に座っている方が座席から離れやすく、そちらの方が有利ではないか。
うーむ、著者の顔を正面から拝みたいばっかりに、列の中央に座った自分が馬鹿だった!

私の心中の呻吟を知ってか知らずか、セミナーは終了となり、参加者への御礼を伝える司会者の挨拶が始まった。

この後だ。この後、ついに戦いの火ぶたが切って落とされるのだ。

負けてなるものか!!
すでに私の腰は席から半ば浮き上がり、司会者の挨拶の間中、完全なる空気椅子状態をキープしていた。

我ながら驚異的な筋力と体力である。思えば、若いころに修練した空手は正にこの日のためにあったのだ。
あのころの自分よ、有難う!いやいや、今そんなことを言っている場合ではない。

そして・・・、ついに戦闘開始のゴングが鳴らされた。

その瞬間、椅子を後ろに引く、けたたましい物音が会場のここかしこから起こったかと思うと、数人の参加者が往年のウサイン・ボルトはかくもか、というほどの猛烈なスピードで、檀上横のサイン用机に向かって突っ込んで行く。

負けじとその後を、数人の髪をふり乱した中年のおばちゃん軍団が追随する。

かと思うと、椅子を引くどころか、机の方を前に押し出し、さらにはその上に乗り上がり、列の中央からの脱出を試みる者もいる。

やっとの思いで列に並んだものの、そこでようやくサイン用の書籍を席に置き忘れたことに気づき、大声を上げながら駆け戻ろうとする馬鹿者がいる。

阿鼻叫喚の地獄図・・・

なんだ、なんだ!コイツら!
お前らそれでも覚醒とか悟りを目指している修行者か!
恥を知れっ!!

だが、かくいう私も目の前の邪魔な机や、二、三人の参加者を蹴飛ばして(再び空手に感謝)、強引に列に並んだことは言うまでもない。

かくして血と涙の結晶たる貴重なサイン本を入手した私に、席に帰る途中、突如、神の啓示が降りてきたのである。

ぴーぴぴぴ(電波がきた、というイメージでお願いしたい)。

・・・ほんを、まくらのしたに、おきなさい・・・

おお!そうか!覚醒者の本に、覚醒者のサイン。
これって、そんじょそこらにはない最強のスピリチュアルグッズではないか!

とすると、枕の下だけでなく、部屋のあちこちに置いた方がより効果が期待できるではないか!
ああ、俺ってやつは天才だったのか!いま気づいたぞ!!

で、読者諸兄の予想通り、サイン本入手のために、私はその覚醒者のセミナーに参加し続け、サイン本をもらい続けたのである。
合計4セット(上下8冊)・・・。完全なるアホである。

だが、これで覚醒のための盤石の環境が出来上がった。
修行せずして悟る。秘教メソッド誕生の瞬間であった(涙)。

私は奇跡のメソッドを誕生させたことに対して、空を見上げて瞑目し、自分がこのような閃光湧き出る頭脳を持って生まれたことを、神とオカンに感謝したのであった。

だが、ローマは1日してならず。
いくら奇跡のメソッドとはいえ、たった2、3日で覚醒しちゃうのはお釈迦さまに申し訳ないのである。そこで、せめて2週間は必要と考えた。
日々、「♪もういくつ寝るとぉ~」、と胸の上で十字を切りながら眠りについたのであった。

で、結果であるが・・・。

なーんも起きんのであった。

おお、やはり世界は一つだったのかという理解も、黄金色の光に包まれる体験も、自分がなくなってしまうような恍惚感も、なーんもないのであった。

頭上に輪っかを浮かべ杖をついた爺様も、とぐろを巻いた白蛇ちゃんも、つぎはぎだらけのモンペを穿いた童子くんも、なーーんも出てこんのであった。

いや、だが、そんなはずはない。
これはブルース・リーの魂を受け継ぐ究極の秘法なのである。

それからさらに2週間、地上最強の高波動を連日連夜浴び続けたが、ついに悟りは起こらなかった。
追加の2週間が明けた翌朝、私はこう独りごちた。

「ふっ。まー、当たり前かあ・・・」

いま、8冊のサイン本は押入れの中で埃をかぶり、春の来ない果てなき冬眠に入っている。

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