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バンドを組む残像

夕暮れの音楽室。俺はいつものようにギターを抱えて座っていた。窓から差し込む薄暗い光が、ドラムセットを静かに照らしている。でも、俺の他には誰もいない。

「誰も来ないか……」

ギターの弦をかき鳴らすと窓ガラスが揺れた。
以前はこんなことはなかった。初めてバンドを組んで文化祭で演奏をした時、俺たちは世界の中心だった。会場の熱狂した歓声と割れるような拍手が、今もありありと耳に残っている。
「絶対にビッグになるぞ!」仲間と交わしたあの日の誓い。でも、みんな変わってしまった。

壁には何枚もの写真が飾られている。懐かしい仲間達の笑顔。メンバーが変わっても、俺は常に中央に写っている。俺はあの頃と何も変わっていない。変わったのはあいつらだ。

一番古い、色褪せた写真の下には「昭和55年、バンド大会出場」の文字が。何故、俺だけがこの時から全く変わっていないのだろう? 
一瞬浮かんだ疑問は、下校の鐘の音に掻き消され、意識の底に沈んでいった。


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