タマゴとニワトリのこと

「ニワトリが先か、タマゴが先か
進化の過程で今のニワトリが生まれてきたのであればタマゴが先なんだ。」

そいつはそういってタマゴを割った。
じゅーじゅーと焼ける音がしておいしそうな香りが漂ってくる。

「でもさ、こうやって割られることでニワトリは生まれなくなる。」

といってこちらを振り向いた。
甲高いニワトリの声が庭から聞こえた気がした。

「君はそんな話どうでもいいって思ってるだろう?」

目玉焼きがのったままのフライパンをこちらに向ける。

「でもぼくにとっては結構重要だったりするんだ。」

ぼくは声を出すことができない。

「何にも答えなくてもいいよ、これはそういうものだからね。」

というよりどうしてここにいるんだっけ。

「進化の過程で生まれたものがニワトリだと定義づけられた時、それが生まれたのはタマゴだからタマゴが先だっていうのなら
もしこのタマゴを割らなかったら、生まれてくるべきタマゴだったら、ほんとにこれはニワトリだと思う?」

「それを僕らは今から食べてしまうのだけど、生まれてくるべき新しい新種だったとしたら?
それってすごく罪なことをしている気分だよね。もしかしたら何かが生まれることについて立ち会えるはずだったのにさ。」

目の前にあたたかな目玉焼きになったタマゴが丁寧に、きれいに盛り付けされて目の前に置かれた。
そして丁寧にフォークとナイフで薄い膜が切り開かれて濃いオレンジ色のキミが流れ落ちてくる。

おいしそうだと思った。

「ところでキミは興味はあるかい?」

料理に手を伸ばしそうになって遮るように話しかけられた。

そいつは冷蔵庫からすでに一口大に切られた鶏肉を出して言う。

「これは鶏肉としてあるんだけど、もしそうじゃなかったら?
ニワトリとして生まれたのにタマゴから生まれたそれはもしかしたらニワトリじゃあない何かに少しずつ変化したものかもしれないしね。」

キミはどっちなんだろう。

次は鶏肉がじぶんの油で焼かれながら
おいしそうな香りを漂わせている。

「ニワトリが『ニワトリ』かはタマゴが生まれてからしかわからないんだよ。
もしかしたらニワトリから生まれたナニカかもしれないしね。少しずつ進化した、ナニカ。
いつかどこかでナニカに名前が変わってしまうかもしれない。」

キミはにわとりかな?それともタマゴ?

「だからさ、実質的にはタマゴとニワトリは同じようで違う生物なのかもしれないよね。」

シンプルに塩で焼かれた鶏肉が目玉焼きに添えられた。

とても、おいしそうだと思った。

「だからさ、キミは」

「どっちなんだい?」

「タマゴかニワトリ」

「キミは、どっち?」

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