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都会の空気を吸って過呼吸になるのなら自転車を漕ぐのと同時に歌って呼吸が間に合わずに死にたい

やはり西成は安心する居場所だよ。人も街も、みんな大好き。

その日はカラオケ居酒屋に行って、銀杏BOYZの【エンジェルベイビー】を歌いたくてたまらなかった。カラオケ居酒屋に行って歌うというのがその日の最大の目的である。行くまでの1週間、1人でずっと歌っていた。自転車に乗りながらでも歌った。都会でそれをするとすんごい冷めた目で見られる。が、私は都会の空気を吸って過呼吸になるのであれば、自転車を漕ぐのと同時に歌を歌って呼吸が間に合わずに死ぬのなら後者を選ぶ。

エンジェルベイビーの歌詞の中に「君と僕は一生の友達さ さようなら 美しき傷だらけの青春に」という歌詞がある。親友が東京に行ってしまうので、これだけは届けたい!という思いで、急だがお酒の勢いに任せてイントロ中に電話をかけた。

が、出ない。2回はかけた。イントロ中に。・・・が、出ない。

一気に酔いが冷めた。 ギャン冷めだよ・・・

その日は結構呑んだが、前述のエピソードの事もあり全然酔わなかった。
悲しいよ、情けないよ、酔っておくれよ・・・。
私は弱いエピソードトークを抱きしめ、西成の知り合いの家で映画監督の低音ボイスを子守唄にして眠り落ちた。
次の日、また弱いエピソードトークを思い出しながら西成の地を散歩した。雪印のコーヒー牛乳を買ったにも関わらず、コーヒー喫茶に入ろうとしたのは本日最大の失点だと思う。

そして帰宅後、知り合いから「ヘッドドレスのWSがあって、街歩きするらしいから一緒にどうだ?」と言われ、観に行くことにした。とぼとぼ歩いていると、華やかなヘッドドレス集団が西成に色を落としながら練り歩いていた。私はその一瞬を見て、体験したことがないのに白黒テレビがカラーテレビになった瞬間を目の当たりにしたかのような感覚に陥って、心が踊った。体験したことがないのに・・・。そして羨ましいなぁ…と思っていると、初対面の方に「被って一緒に歩きますか?」と言ってくれた。この方、名前は分からないけど自分で作ったヘッドドレスを貸してくれた。私という存在を認識してくれた瞬間である。嬉しい、ありがてぇ・・・温かいよ。
手作りの温かいヘッドドレスを被りながら練り歩く西成の地は、いつも以上にキラキラ輝いて見えた。ワンカップを持って行列の焼き鳥屋に並んでいる冷やかしの観光客の目や、邪魔そうに見てくる通行人の目すら、拍手してくれているように見えた。せんきゅぅぅぅぅッッ!!!!!!震

到着地点は【釜ヶ崎芸術大学:ココルーム】である。
老若男女が終着するココルームは色んな色が広がって混じり合っていた。
私は脳がバグりかけていたが、めちゃくちゃ楽しかった。こんな自由性がある土地に一生寄り添っていきたいとも思った。だって私という存在を認めてくれる気がするし、とにかく落ち着く心のシェルターだから。

私は去年の夏頃からココルームに在籍している女性の事が気になって仕方がない。なんでいつも訪ねるたびに笑顔で迎えてくれるのだろう、なんで顔を覚えてくれているのだろう・・・などと、色々な感情が浮かび上がるのだ。でも訪ねるたびに存在してくれているというのはとても幸せな事で、当たり前ではない安心感が湧き出てくる。ほんと好きな人が存在してくれているのは当たり前ではないのだよ・・・ありがとう。

彼女の髪はインナーカラーを入れており、少し伸びて毛先は次の季節を待っているかのように外にハネていた。彼女の洋服は相変わらずおしゃれで、冬が名残惜しいのかスヌードを巻いていた。
数回しか会っていないのに、なぜか彼女の変化や存在を探している自分がいた。変だと認識されるかもしれないが、私は彼女に対して「好き」「かわいい」「きれい」「かっこいい」などの特定の感情がない。それは悪い意味ではなく、私が彼女に対して【ヒト】として見ていて、憧れだったり尊重だったりの証拠なのだと自認した。

彼女に「またゆっくり話そうね」と声をかけられた。
とっても嬉しかった。純粋に「嬉しい」という感情しかない。
それ以上もそれ以下の感情もない。

嬉しいなぁ。

あぁ・・・私は"ここ"が本当に好きだなってこと、

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