ふんわり名人の神話
・僕が越後製菓の「ふんわり名人 きなこ餅」と出会ったのは、会社の同僚から1袋おすそ分けをもらった時だ。
・1つ年上のKさんはお菓子と激辛料理を主食としており、しばしば隣席の僕に恵んでくれる。
・特段甘い物が好きではなく、週末に妻が食べるおやつを一緒に食べる程度だった僕が、今の職場に転勤してきてからKさんのおすそ分けを嗜んででいるうちに、仕事中も何かしらお菓子を食べないと落ち着かない体になってしまった。
・そんなKさんが、ある日「ふんわり名人 きなこ餅」をくれた。「これすっごいから食べてみ」の一言とともに。
・麻薬の売人みたいな口上だなと思いながら一口食べたら、本当にすっごかった。
・まるでおかきではないような、口の中でほろほろと解けるような食感。まるで北海道の淡雪を口に入れたかのようなふんわりさ。「ふんわり名人」の名は伊達ではない。
・また、きなこの上品な甘味を濃厚に感じながらも、この商品がすごいのは粉で手や机が汚れないことだ。きなこが好きではない人の98%は、粉が散って食べにくいからだと言われている。その層も取り込むポテンシャルを持っている。
・そしてただ甘いだけではなく、「おかき」という単語でイメージする塩味もほのかに感じられる。
・食感・甘味・塩味。この3つがおかきという形に集約され、奇跡的なハーモニーを奏でているのだ。
・実はこの商品、1994年に発売されたものの不発で一度撤退をしており、2005年に再発売された際にヒットとなった。
・再発売の際にヒットを勝ち得たのは、当然飽くなき企業努力はあっただろうが、実は時代背景も大いに影響している。
・2005年とはどんな年だったか。そう、小泉純一郎内閣が郵政民営化を推し進め、民意を問う形で解散、選挙を行い与党が圧勝した年だ。いわゆる郵政解散と呼ばれ、記憶にある方も多いと思う。
・郵政解散とは何だったかと言うと、郵政民営化という1つの論点を政局とし、賛成・反対の二元論で彼我を分けて争った戦いだった。つまり、国を挙げて「分裂」がクローズアップされた年だった。
・お前はこっち側か、あっち側かーーー分裂による二元論がヒートアップするにつれて、良識ある人々は疲れ果て、「ハーモニー」を望んだ。
・そんな想いが新潟の天に通じ、天啓となって越後製菓に降り注いだ。その天啓は雷のように越後製菓社内を駆け巡り、社員全員の脳に「食感・甘味・塩味」のイメージが強烈に浮かんだ。
・誰もが夢見心地のまま再発売の稟議が起案され、決裁された。この時のことを、社員は誰も覚えていないという。かくして、再発売されたふんわり名人は脚光を浴びることになったのである。
・イノベーティブな商品はその先端性故に、時代が追いつけずに受け入れられないことが得てしてある。しかし一度時代が追いついた時、たくさんの人々を笑顔にすることができるのだ。
・この文章の大半は出まかせだが、ふんわり名人の美味しさは本物なので、まだ食べたことない人はぜひ食べてください。
・以上