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嬉しい巡り会い。

高校生の頃は帰宅部だったので大学に入ったら音楽系のサークルに入ろうと決めていた。楽器でも弾けるようになったらいいなとか、音楽的に趣味の合う人がいるだろうくらいの軽い理由である。入った大学におそらく7、8個は音楽サークルがあったと思う、音楽系のサークルにほぼ占拠されたクラブ棟が校舎から遠く離れた端にポツンと建っていた。一応ぐるりと各サークルを見学したように憶えているけれど、当初の目的の一つ音楽の趣味が合うサークルは皆無でひどく落胆したのを憶えている。1994年春、渋谷系がブレイクするわずかに手前の名古屋の大学はまだまだこんな感じだった。


結局バンドブームの頃の音を引きずっているような所やビジュアル系バンドの多い所にいるよりも、ジャズの方が身になるものは多いだろうと、ライトパープルジャズテットというジャズを名乗るサークルに身を置くことにした。入ってからわかったことだが、当時のサークルのメインバンドはアース・ウィンド・アンド・ファイヤーなどのソウルやファンクのカバーバンドであった。失敗したかなと思ったが、居座る内にスティーリー・ダンやボビー・コールドウェルなどのAORをたくさん聴かされたり、当時流行っていたアシッドジャズやレアグルーヴなどを演奏者視点から解説してくれたり、ネオアコ、ギターポップしか聴いてこなかった僕の視野を広げてくれた。住めば都ではないが、自分の領域外のところに身を置くと当然身になるものは多い。今の自分の音楽との付き合い方の基礎はここでできたと思っている。


それでも当時は好きなジャンルの音楽の話を同世代としたい、レコード屋以外でもしたいという欲求は強かった。クラブ棟の外には池があり、ある日ボンヤリしてると他のサークルの部室からザ・ポウジーズのカヴァー演奏が聞こえた。ザ・ポウジーズは当時ティーンエイジ・ファンクラブ、レッドクロスとともに90年代パワーポップの御三家と呼ばれていたアメリカのバンドだ。聞こえてきたのはビジュアル系バンドの巣窟と思われていたサークルで、そういうのが苦手だった僕は敬遠してしまった部であった。ああ、あっちの部に行けば楽しめたのかなと少し後悔したりもした。この数ヶ月後ポウジーズのフロント二人はアレックス・チルトン率いる70年代パワーポップの雄BIG STARの再結成にサポートメンバーとして参加し来日公演を果たす。僕もライブに行き盛り上がったのだけど、あっちの部に行けばこの話題で盛り上がれたのかなとふと思ったりもした。


誰がポウジーズのカヴァーをしていたかを知ったのは、2年生になり僕があまり大学に行かなくなってしまった後だ。彼らはリバーヴスというバンドを組んでいた。パワーポップ、オルタナに影響を受けたギターポップを鳴らし90年代後半の名古屋シーンを牽引していった。最近はバンドとしての活動はなかったようだけど、数年前から再始動した。この夏、SNSを通して新しいCDをリリースするのでデザインをしてくれないかと声をかけてもらった。聴かせてもらった音は、昔のパワーポップの骨太さを残しながらAOR、シティポップな大人の音を奏でていた。ドライブ感溢れる演奏はゆったりとしたグルーヴを携え、歌は円熟し柔らかくなり、彼らの持ち味だったメロディの良さはもちろん健在だった。彼らが20年の間大事にしてきたこだわり、新しく出会った音楽と融合した傑作だと思った。全然違う音楽歴を歩んできたと思っていたら再び同じ道にて出くわしてしまったような不思議な感覚。嬉しさが込みあげ、もちろん二つ返事で依頼を引き受けた。


※この文章はル・プチメックのWebサイトに連載した「片隅の音楽」をアーカイブしたものです。初出:2017年9月




リバーヴス 「街のつぶて」(RECORDER RECORDS/2017)
90年代名古屋のギターポップシーンを牽引したリバーヴスの再始動後初にして15年ぶりのCDリリース作品。近年盛り上がるシティポップの再ブームに呼応しながらも、オルタナサウンドのダイナミズムをベースにAORサウンドを取り込んでいった彼らの音は、80年代ではなく70年代後半の手触りがありユニークな個性になっている。

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